第40話 最高の斬れ味

 

「シャンティさん! 王様に会わなくて良かったのですか?」


 ジュリが少し怒った顔をしてシャンティに詰め寄る。


「申し訳ございません。

 アリス様が侮辱されたので、思わず

 カッ!! となってしまいました。

 ガリム王には、クエストさえしっかりこなせば会わなくてもいいでしょう!

 今の王様は、子供の頃から知っていますので弱みは握っています。なので、なんら問題はございません!」


 シャンティ先生、さすが腹黒妖精と呼ばれているだけの事はある。

 まさか、王様の弱みまで握っているとは……


「シャンティ先生! これからどうするんですか?

 最初の予定では、今日ガレリオンに、泊まる予定でしたよね?」


「行けるところまで行きましょう。

 本当は、王都に寄る時間など無かったのです。今この時も、ダンジョンではアレックス達が助けを待っている筈です!」


「そうなのじゃ! 父様を早く助ける事が一番の目的なのじゃ!」


 アリスは家族思いだ。ガレリオンで1日無駄にしたくなかったので、龍体になって飛び立ったのであろう。


 もしかしたらアリス信者のシャンティ先生は、それを汲んでワザと騒動を起こしたのかもしれないな。


 ーーー


 それから2時間後


「あの……アリスちゃん……」


「どうしたのじゃ?」


「エッと……そのぉ……」


 ジュリがモジモジしている。

 俺は何となく分かっている。

 数分前からジュリは体を強ばらせ、俺の体をギュッとしているのだ。

 多分、おしっこを我慢しているのであろう。

 ここは元兄として、助け船を出さねば!


「アリス! そろそろ昼飯にしないか?」


「そうじゃのう! 妾もお腹が空いてきたのじゃ!」


「アリスお嬢様、この辺りの森は魔物の棲息地域なので、オチオチと食事もできません。

 20分程飛べば安全な地域に着くはずです」


 シャンティ先生が、安全な食事場所を提案してくれた。

 ジュリは俺の後ろで、更に強くギュッとしてくる。

 我慢の限界なのか……

 耳元でハァハァ言っている。

 元兄として、妹にお漏らしさせる訳にはいかないのだ。


「アリスは魔物がいるくらいで、飯も食べれないのか?

 アリスが闘気を発しておけば、弱い魔物くらいは寄ってこないんじゃないのか?」


「ワッハハハハ! 妾が本気を出せば、強い魔物も寄ってこないのじゃ!

 そうじゃのう、ここらで昼飯でも食べるとするかのう!」


 アリスは簡単に乗ってきた。

 フッ! 作戦通りだ。

 兄様にかかれば、アリスを手玉に取るくらい容易いのだ!


 アリスは森の中に着地した。


 森に着地した瞬間、魔物が襲ってきた。


「妾に襲って来るとは、実力差も解らぬのか!」


 アリスが口を膨らますと

 ファイアーブレスを炸裂させた。


 ボアッ!!


 襲ってきた魔物は消し炭になり、ついでに森も10メートルほど同じように消し炭になった。


「やり過ぎじゃないのか?」


「これでも調節したのじゃ!

 前の世界より、この世界は大気中の魔素量が多いせいか、技の威力が上がっている気がするのう」


 ジュリはアリスから降りると、急いで森の中に消えて行った。


「さすがはアリスお嬢様です!」


 シャンティがすかさず、いつもの様にアリスを褒める。


「ワッハハハハ! そうじゃろ!そうじゃろ!」


 アリスがご機嫌で笑ってると森の中から叫び声が聞こえてきた。


「きゃぁー!!」


「あの声はジュリのようじゃな?」


 アリスが闘気を発する前に、オシッコの限界に達していたジュリが、森の奥に入り魔物と遭遇したという所か……


 すぐに叫び声がした方に駆けつけると、ゴブリンに囲まれているジュリを発見した。


 パンツを下ろした状態で……


 ジュリはオシッコをしている最中に立ち上がってしまったのか、パンツがオシッコでベタベタになっている。


 ジュリが俺を見て固まった。


「キャー!!」


 顔を真っ赤にしたジュリの叫び声で、ゴブリン達がビクッ!!と怯む。


 俺はジュリの事は見なかった事にして、縮地でゴブリンに詰め寄り、1匹目を鞘から抜く動作のまま、胴を真っ二つに切り上げた。


 ウギャー!!


 ゴブリンの断末魔が聞こえる。

 立て続けに隣にいた2匹目のゴブリンも、首筋から斜めに上段から切りつけた。


 スパッ!!


 2匹目のゴブリンも、横に滑り落ちるように上半身が地面に転がり落ちた。


 ドワーフ国王ドラクエル作の日本刀モドキは、いままで使っていたボンクラ刀と違って、よく切れる。

 今までの刀は、闘気を使わないと手に衝撃が走る事があったのだが、この日本刀モドキは、豆腐のように切れるのだ。


 よく切れる刀とはこういう物なのか……


 普通、この世界の名刀という類いは、殆ど魔法属性がついているらしい。


 しかし、この刀には何も付いていない。

 ただ斬れ味のみを、追求しているのだ。


 ドラクエルは、ケンセイの村正を研究しつくし、ほぼその性能を再現している。


 村正は元々、ただの斬れ味が鋭い汎用の日本刀だった。


 塩太郎は元の世界では下級武士だった。

 なので、そんな大層な刀を持てる筈もない。


 しかし、塩太郎、ケンセイが2代に渡って、強い魔素が漂うダンジョン内で使い続け、強いモンスターの血を吸い続けた結果、今では魔剣となっている。


 魔剣としては既に最高峰、もしかしたら勇者が使っていた聖剣のエクスカリバーにも匹敵するのでは?

 と、言われている位の名刀になってしまったのだ。


 そんな訳で、俺のドラクエル作の日本刀モドキも、村正の斬れ味は再現したが、敢えて魔法属性は付けられていない。


 塩太郎やケンセイがしたように、自分で魔剣になるように、育てろと言う事だろう……


 一瞬の事で固まっていた他のゴブリン達も、2匹殺られた事で冷静になったのか、俺から少し距離をとって防御の体制をとっている。


 残り5匹か……


 チラッと後ろを振り返ると、濡れたパンツを脱ぐ途中のジュリと目があった。


「コッチ見ないでよ!! もうお嫁にいけないよぉ」


 ジュリが泣きながら叫んだ。


「ジュリ! 心配するな!

 お嫁には、俺が必ず貰ってやる!

 それにオシッコ漏らしたくらい、どおってことないぞ!

 俺は子供の頃、今も子供だけど……元いた世界で、ジュリのおしめを替えた事が何度もあるんだ!

 オシッコを漏らしたくらい、ましてやウンコを漏らしたとしても、俺は平気だ!

 お風呂だってジュリが10歳になるまで、毎日一緒に入ってたんだ!

 ジュリのパンツの中身なんて3年先の成長した状態まで、既に見ているんだ!

 だから、何も気にするな!」


「アレン君の変態!!」


 ジュリを何とか慰めようと思ったのに、まさかの言葉が返ってきた。

 ジュリに変態と言われてしまった……

 グサッ!! と、心臓に剣が突き刺さったようだ。


 前の世界でも、変態とは言われた事がなかったのに……


 俺が精神的にダメージを受けて、ガックリきている事に気が付いたのか、ゴブリンが一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 スパッ!! スパッ!! スパッ!! スパッパーーン!!


 ドワーフ王ドラクエル作、無名の日本刀モドキによって、ゴブリン達は一瞬で細切れにスライスされた。


 ジュリの『変態』の一言と同じように、この名も無き日本刀モドキも、最高の斬れ味だった。



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