第39話 ガレリオン

 

 風が気持ちがいい。

 城塞都市ヤリヤルを出発して、2時間といったところか。


 俺達、新生『犬の肉球』は龍体になったアリスに乗ってガリム王国の首都ガレリオンに向っている。


 南の大陸でアレックスと王子を助けに行く前に王様に挨拶をする為だ。


 しかし、落ち着かない。

 俺の後ろにはジュリが座っているのだが、俺より身長が高いジュリが後ろに座ると、大人が馬に子供を一緒に乗せる時のような状態。

 そう……体全体を包み込まれているような感じになるのだ。


 この世界でジュリに出会った最初の頃は、前の世界でのお兄ちゃんという感覚が強かったので、異性として全く見ていなかったのだが、この世界では血の繋がりがないからか、日を追うごどに強く異性として意識するようになってきているのだ。


「アリスお嬢様、もうそろそろガレリオンが見えてくる筈です。

 龍体では目立ってしまうので、人目につかない少し離れた所に着陸お願いできますか?」


「ウム。分かったのじゃ!」


 暫く飛んでいると、ヤリヤルの5倍はある大きな街が見えてきた。街の中央には大きな城が見える。

 ヤリヤルと同じような城塞都市のように見えるが、ヤリヤルとは違い、城塞の外側にも街が広がっている。


 アリスは街の外れにある森の中に着陸した。


「取り敢えず、城への門へと続く大通りに出ましょう!」


 旅慣れたシャンティに従い大通りに出ると、馬車やら旅人などたくさんの人が歩いていた。

 さすがは王都といったところか。


 それにしても、ジロジロ見られる。

 小さな子供3人と、メイド服を着た小さな妖精がふわふわと飛んでいるのだ。

 それだけでも目立つのに、子供達の中の1人に、ダークエルフにしか見えないアリスがいるのだ。


「見られてるね……」


 ジュリがボソリと呟いた。


「ヤリヤルではアリスの事が知れ渡っていたけど、王都では誰も知らないしね。

 初めてモコ村からヤリヤルの町に来た時も、こんな感じだったよ」


「そっか……アリスちゃん、確かにダークエルフにしか見えないもんね」


 アリスを見てみると、どこ吹く風と言った様子で意気揚々と歩いている。


 道を進んで行くと、どんどん建物が多くなっていって、いつの間にか街の中に入っていたようだ。


「ヤリヤルみたいに城門はないんだな」


「アレン坊ちゃん、城門はちゃんとありますよ。 ここはガレリオンの城壁の外側にできた下町です。もう少ししたら城門が見えてくる筈です」


 シャンティが言うように、暫く歩くと城門が見えて来た。城門の前には結構な人達が、検問待ちをしていた。


「ガレリオンもヤリヤルと同じように、S級ギルドのメンバーは検問パスできますので先に進みましょう」


 列に並んでいる人達がジロジロ見てくるのを無視して門の前まで行き、シャンテー先生が守衛に話しかけた!


「私はシャンティ! 王様に呼ばれて来たんだけど通してくれる!」


 シャンティ先生、何で偉そうなんだ?

 S級ギルドと名乗ってないし……

 顔パスなのか……


「ハァ? シャンティ? お前何言ってるんだ?

 頭大丈夫か? 王様がお前など呼ぶわけないだろ!

 門を通りたければ、列に並び、検問を受けろ!」


 若い守衛はシャンティに言い放った。

 すると、近くにいた40代くらいの別の守衛が走ってきて、若い守衛の頭をスパン!! と、勢いよく叩いた。


「シャンティさん、申し訳ございません! こいつはまだ入ったばかりで、シャンティさんの事を知らないんです!」


「テッドさん! なんで殴るんですか?

 何なんですか、こいつは?」


「馬鹿! この人はS級ギルド『犬の肉球』のシャンティさんだぞ! 殺されたいのか!」


「えぇぇぇ!! あの伝説のギルド『犬の肉球』腹黒妖精シャンティですか!!

 弱みを握られたら、骨の髄までしゃぶられてしまうという、あのシャンティ?」


「腹黒とは、私の事ですか?」


 シャンティが若い守衛をギロッと睨みつけた。


「え……アノ……その……

 すみませんでした!!」


 若い守衛は、頭を地面に擦り付けて土下座した。

 よく分からないが、シャンティ先生はガレリオンでも恐れられているようだ。

 今では甲斐甲斐しくアリスの為にメイドをしているが、元々の性格は確かに腹黒だった。

 検問に並んでいる人達も、ざわつき始めている。


「あいつら『犬の肉球』だってよ!」


「腹黒妖精シャンティしかいないのか?」


「シャンティが連れているちびっ子達はなんなんだ? ダークエルフを連れているるぞ!」


「エリスさんはいないのか?

 俺はエリスさんのファンなんだ!」


「フフフフフ! ここでも『犬の肉球』は有名なようじゃ!」


 アリスが満足そうに、ニヤリと笑う。

 ヤバい。 このパターンは、また何かやらかすつもりだ。

 俺は咄嗟に、アリスの腕を掴んだ。


「どうしたのじゃ?兄様!」


「お前、今何かしようと思ってただろ」


「妾は、何もしないのじゃ!

 それより、早く父上を助けに行くのじゃ! こんな寄り道なんの意味があるのじゃ!」


「まぁ、今回のクエストはガリム王国が依頼したクエストだからな。

 依頼主が会いに来いと言えば、やはり行かないといけないよな……」


「えぇぇい! まどろっこしいのじゃ!」


 アリスは俺の手を振り払い、突然、龍体に変身した。


 やっぱりこうなるか……



「りゅ…龍が現れたぞ!」


「せ…赤龍様だ!!」


「赤龍様の割には、可愛らしいぞ!」


「ダークエルフが、龍に変身したぞ!!」


「ウォォォォ! 赤龍さまぁぁぁ!

 神々しい! な……なんと神々しいのだ!!」


「赤龍様にしては、小さいな。

 赤龍様の子供なのか? 」


「シャンティ様! これは一体なんですか?」


 40代位の守衛が、シャンティに質問する。


「こちらにいらっしゃるのは、紅龍アリス様だ! 頭が高い! こうべを垂れよ!」


「エッ……赤龍様ではないのですか?

 赤い龍と言えば赤龍様ですよね?」


「紅龍アリス様と言っておるのだ!!」


 ボンッ!!


 40歳位の守衛が吹っ飛んだ。

 シャンティ先生が風魔法を使ったみたいだ……

 アリス信者のシャンティ先生は、アリスが赤龍と間違えられた事が許せなかったみたいだ……


 これは不味いな……


「アリスちゃん! シャンティさん!

 突然、どうしちゃったの?!」


 ジュリが慌てふためいている。


「兄様! こんな所にいても、時間が勿体無いのじゃ! 早く妾の背中に乗るのじゃ!」


 もう乗るしかないよな……

 シャンティ先生、守衛に手を出しちゃったし……


 ここにいても騒ぎが大きくなるだけだ。

 もしかしたら、拘束されてしまうかもしれないし、時が経てば経つほど、アレックスの救出が難しくなる。


「ジュリ! シャンティ先生!

 アリスに乗って下さい!!」


 俺達が急いでアリスの背中に乗ると、アリスは城門に並んでる人々が見渡せ位まで浮遊した。


「ワッハハハハ! 妾は『犬の肉球』エリスとアレックスの娘! 紅龍アリス様じゃ! これから南の大陸で、この国の王子とやらを救ってきてやるのだ! ありがたく思うのじゃ! ワッハハハハ!」


 みんな何が起こったのか理解できないのか、ポカンと見ている。


 アリスは満足したのか、ガレリオンの周囲をゆっくりと1周回った後、南の大陸に向けて飛び立つのであった。



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