第38話 出発

 


「オイ!お前ら遅いぞ!」


 俺とアリスがヤリヤルの冒険者ギルドの扉を開けると、ケンセイが仁王立ちで立っていた。


 奥には、エリスとシャンティが既に到着している。


 本当は、俺もペガちゃんに乗せてもらって一緒にヤリヤルに来る予定だったのだが、俺が近づくとペガちゃんは死んだ魚の様な目をして無言で遠ざかってしまう。

 心底嫌われてしまったのか…



わらわが乗せて行ってやるのじゃ! 兄様には妾がついているので、そんなに悲しい顔をするでない!」



 アリスちゃん、なんて優しい妹なんだ!


 俺はもう前世で呪われてた事なんて気にしないよ!


 そして俺は龍に変身したアリスにまたがり、ペガちゃんと同時にモコ村の家から出発したのだが、さすが世界最速の神獣。あっという間に離されてしまったのだ。


 アリスも龍種でかなり速い筈なのだが、全く歯が立たない。


 アリスは歯ぎしりをして悔しがり、必ずペガちゃんより速く飛べるようになってやるのじゃ! と叫んでいた。


 俺がアリスは充分速いよと慰めると


「それでは駄目なのじゃ! 妾が世界一速く飛べるようになれば、兄様もペガちゃんより妾に乗りたいと言ってくれる様になる筈なのじゃ!」


 と泣きそうな声で絶叫した!


 妹に乗るなんて、なんだかいやらしい感じがするな…

 アリスは兄思いの可愛い妹に育っている。

 このまま上手く成長して欲しい。


 そんな感じでヤリヤルの冒険者ギルドに到着したのだ。



「オイ! アレンこの剣を持っていけ!」



 ケンセイが持っている剣をよく見てみると、それは片刃で反りがあるまさに日本刀の様な刀であった。



「これは鍛冶師でもあるドワーフ王国 国王ドラクエルがお前の為に打った刀だ!」



「ドラクエルって、400年前の黒竜戦争の時の勇者の仲間で最強の一角のドラクエルですか?」



「そのドラクエルだ!」


「何で僕の剣がドラクエルさんに打ってもらえるんですか?」


「そりゃ俺様が頼んだからだ!」


「ドラクエルさんてケンセイさんのお友達なのですか?」


 ケンセイは、エントランスでクラタンやシャンティと楽しそうに話しているエリスの方をチラッと見てから俺の顔を見た。


「お前、エリスから何も聞いてないのか?」


「エッ? 何をですか?」



「お前の母ちゃんのエリスは、勇者の仲間の一人だぞ!」




 んッ……どういう事だ……



 エリスが勇者の仲間?!



「えーーーーー!!」



「なっ…なんじゃと!? 母様が勇者の仲間じゃっただと!」


 アリスも目を白黒させて驚いている。


「ドラクエルが母様の仲間だったのなら倒す事が出来ぬではないか!


 エルフの女王のお祖母様は、身内だから仕方がないとはいえ、ドラクエル、それから大賢者モッコリーナも倒せぬという事なのか!


 こんなに戦えない相手がいるとは…


 クッ…!! これでは他の奴らを倒したとしても妾が最強だと胸を張って言えぬではないか!!」


 ア… アリスさん…そこですか……


「勇者の仲間だったって事は、勿論

 赤龍ともお友達だったって事ですよね。」


「友達もなにも、赤龍を最初に召喚したのは、エリスだぜ!

 エリスがまだ6歳の頃、初めての召喚の儀式で出てきたのが赤龍だ!

 しかし、さすがのエリスも成人した龍の魔素を補える程の魔素総量は持ち合わせていなかったので、お友達契約をしたんだと!」


「お友達契約って…そんなのありなんですか?」


「知らねえよ! 本人同士がそれでいいって言ってんならそれでいいんじゃないのか!

 そんで、たまに赤龍はエリスの所に来て魔素を少しだけ味わいにくるんだよ!

 そんだけ、エリスの魔素の味は特別なんだろ!」


「それじゃ勇者との関係はなんなんですか?」


「エリスは、元々冒険者に憧れていたので、赤龍を召喚した次の日には、赤龍に乗って南の大陸で冒険者になる為に、エルフの森から家出したんだと。

 そして、南の大陸で冒険者をしていた勇者パーティーと意気投合し、仲間になったって言ってたな!」



「エリス母さんが勇者の仲間だったて、ほとんどの人には知られてない気がするんですけど…」



「エリス自身は戦いの時ほとんど何もしないからな、精霊に護られながら観戦してるだけにしか見えないし、実際にはエリスの使い魔も戦っているんだけどな!

 黒竜との戦いの時も、勇者パーティーにくっ付いているマスコット的なエルフの幼女にしか見えなかったんじゃないのか!

 戦局を動かしたのはエリスが連れてきた赤龍だったというのにな!

 ハッハッハッハ!」


「ウ…母様は、赤龍ともお友達なのか…これでは戦う相手が殆ど居ないではないか…」


「ハッハッハッハ!

 心配するな! アリス! 南の大陸に行けば

 有名じゃない強い奴なんてゴロゴロいるぜ! 俺様だってめちゃめちゃツエーのに冒険者の中以外では殆ど無名だぜ!」


「そ…そうなのか! 師匠!!」


「おぉ! そうだぜ! 強い奴はみんな南の大陸に集まるんだ! なにせ、何百、何千ものダンジョン、幾多の魔王や、大魔王、危険な魅力が盛りだくさん、南の大陸は冒険者にとってパラダイスな大陸だからな!!」


「す…凄いのじゃ! 早く南の大陸にむかうのじゃ!!」


 アリスはパッと目を見開いたと思ったら、興奮したのかエントランスの中を飛び回り始めた。


 冒険者ギルドに来ていた、他の冒険者も何事かとアリスを見て騒ぎ初めている。


 突然、アリスはいつものエントランス中央付近でピタッと止まった。


「オイ!みんな。また『犬の肉球』のアリスがなんかおっ始めるみたいだぜ!」


「よっ! アリスちゃん、今日も可愛いよ!」


 アリスは大きな深呼吸をしてから、いつものように演説を始めた。


「ワッハハハハ! 妾は『犬の肉球』アリス様じゃ!

 妾は最強になる為に、今から南の大陸に渡るのじゃ!

 手始めに南の大陸のダンジョンに閉じ込められている王子と父様をチャチャっと救って、南の大陸に居るという強者達を全て倒して、またこの地に戻ってくるのじゃ!」


「いいぞ! アリス!」


「アリスちゃん良かったよ!」


 パチパチパチ…


 冒険者ギルドのエントランスから拍手が沸き起こった。


 アリスは言いたい事を言って満足したのか、いつものように周りを見渡した。

 そして、どうだと言わんばかりに無い胸を突き出して、ふんぞり返るのだった。



 



 第1章 修行編 〜完~

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