第32話 初陣
西の大陸の極東、ガリム王国の北側にある城塞都市ヤリヤルはハマオカ王国との国境近くにあり、防衛の要所でもある。
ヤリヤルの近郊には大小のダンジョンが幾つかある為、ヤリヤルの冒険者ギルドには、近隣の他の冒険者ギルドより多くの冒険者が集まっているのだ。
その冒険者ギルドに4歳になったアレンとアリス、8歳のジュリ。
新生『犬の肉球』のメンバーと、保護者として剣聖サトウが来ている。
今日は日曜日で神道異界流の稽古が休みなので、初めての実戦訓練をする為にダンジョンに潜る事にしたのだ。
どうせ潜るなら、ついでにダンジョンでの素材集めなどの依頼がないか調べにきたのだが、他の冒険者達は何故かアレン達を避けるように距離を置いている。
「ケンセイさん、なんで殺気を出しているんですか?」
「フフフフ! 剣聖サトウ様がひさびさに冒険者ギルドに登場したのに、誰にも気付かれなかったら悲しいだろ!」
いつもは殺気を殺せと口酸っぱく言ってた筈なんだが…言ってる事と実際やってる事が全然違うのだけれど…
「師匠! やはり、殺気を殺す時は殺す!
目立つ時は目立つ!
メリハリが大事なのじゃな!」
「おお! アリス! よく分かっているな! ハッハッハッハ!」
駄目師弟だ…
『掲示板を物色しているとジャイアント・アント、表皮100ケ至急必要!
1ケ7000マーブルで引き取ります。
もしもジャイアント·アント·クィーンの表皮が手に入れる事ができた場合は、50000マーブルで引き取ります。』
「おっ! こいつはいいな!
普通ジャイアント·アントの表皮は、商店や冒険者ギルドに売っても5500マーブルがいいとこだ!
よし! これにするぜ!
ジャイアント·アントなら西のダンジョンだ!」
「ケンセイさん。このクエストAランクって書いてありますが、大丈夫なんですか?」
「いざとなったら俺様が何とかしてやるから、大船に乗った気分でドンと構えてろ!」
このパーテイで、本当に大丈夫なのか?
回復職が1人も居ないけど!?
一応、俺とジュリが初級の回復魔法が使えるので 問題ないかもしれないけど、大きい怪我をおった時どうするつもりなんだ?
念の為にエリスに上級ポーションを一本 貰ってきて正解だったな。
ジュリの方を見ると少し心配そうな顔をしているが、アリスの方はというと目をキラキラさせて、いてもたってもいられない様子だ。
ケンセイは掲示板から依頼書を勢い良く剥がし、
「ヨシ! ガキ
と、エントランスに響き渡るように叫んだ。
「ワッハハハハ!初陣なのじゃ!」
アリスも同じ様に叫んだ。
ヤリヤル冒険者ギルド会館1階エントランスが、ザワザワと色めき立つのを
ケンセイは横目でチラリと確認し、悪そうな顔でニヤリと笑った。
そしてケンセイとアリスは、肩で風を切りながら玄関扉を抜けて行く。
その後を俺とジュリは身を屈めて小さくなって付いていくのであった…
---
西のダンジョンに到着した。
西のダンジョンは30層のダンジョンで、ガリム王国では一番最高クラスのAクラスのダンジョンだ。
実際にはダンジョンのボス以外は、ほとんどBランクモンスターしかいないのだが、20層以降はジャイアント·アントの巣になっているのだ。
ジャイアント·アントは1匹1匹はBランクの下の方のモンスターなのだが、それが何万匹もの大群で襲ってくるので、ほとんどの冒険者はラスボスの所までたどり着く前に、ジャイアント·アントの波に飲まれて絶命してしまうのだ。
よって西のダンジョン別名 蟻地獄のダンジョンは、難攻不落のダンジョンと言われているのだ。
「よし!ガキ共、20層までは一気に突き進むぞ!
前衛はジュリとアリス、真ん中はアレン、殿(しんがり)は俺が受け持つ!
魔法は使うな!闘気だけを使え!
但し、体を固く強化する闘気だけだ!
他のを使うと、お前らの修行にならないからな!」
俺達は一気に20層まで突き進んでいく。
全ての敵がアリスに拳(こぶし)で
ボコボコにされるか、
ジュリに1突きされて、絶命して行く。
俺の所におこぼれは1匹たりともこない。
後ろでは、ケンセイが愛剣の村正でアリスとジュリが倒したモンスターを解体していき、コアを起用に取り出し続けている。
さながらマグロの解体ショーだ!
モンスターのコアは、魔素を多く含んでいて、日常生活などで使う魔道具の燃料として使われるのだ。
コアは量り売りで冒険者ギルドで買い取ってくれる。
大体普通のブルーコアで、拳位の大きさが300マーブル位なのだとか…
そして俺は何もする事もなく、無事に20層に到着した。
「それじゃあガキ共、ここからが本番だ!アレンも前線に出てジャイアント·アントを1匹残らず狩り尽くせ!
ここからは、体を固くする闘気の他に、スピードを上げる闘気も使っていいぞ!
なんせ、少しでも気を許して対応が遅れれば、一瞬でジャイアント·アントの波に飲み込まれるからな!
それともう1つ、アリスは拳で戦うから関係ないが、
アレンとジュリは関節の間の節(ふし)を狙え。ボディを傷付けてしまうと、買い取って貰えないからな!
ハッハッハッハ!
それじゃあ、とっとと始めろ!」
そんな器用な事を、波の様にジャイアント·アントが押し寄せてくる中やれというのか!?
頭がおかしいのではないのか…
それにしても、元『犬の肉球』のメンバーの修行は、どれも常軌を逸しているのだ。
当たり前の様にめちゃくちゃな事を要求してくる…前世の世界なら完全に幼児虐待じゃないのか…
と、俺が考え事をしている内に、アリスが1人でジャイアント·アントの群れに、殴りかかっていたのだった…
「ワッハハハハ!妾が、1匹残らず倒してやるのじゃ!ワッハハハハ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます