第26話 婚約
「じゃあ、とっとっと始めるか!
ジュリ!審判してくれ!」
「お父さん! アリスちゃんまで泣かさないでよ!」
ケンセイとアリスが道場の中央に対峙した。
「ワッハハハ!妾は、最強になる予定の、元『犬の肉球』アレックスとエリスの娘!アリス様じゃ!ワッハハハ!」
「俺は元『犬の肉球』副団長、最強の剣士、剣聖サトウだ!ハッハッハッハッ!」
「あの…アリスちゃん、お父さん、もう試合始めていいかな?」
「妾はいつでもいいのじゃ!」
「俺もいつでもいいぜ!」
「それでは始めッ!!」
「んッ!!」
ケンセイの体が固まって動けない。
「ワッハハハ!どうじゃ!妾の魔法は!」
「体外魔法か!
俺の体の周りの魔素をコントロールして、俺の体の自由を奪っているんだな!」
「ワッハハハ!そうじゃ!
本当は押し潰そうとしているのじゃが、立っていられるとは、さすが『犬の肉球』副団長と言ったところか!
ワッハハハ!」
「フッフッフッフッフ!
アリス、お前は甘いな!
俺の動きを止めた時点で、安心しきって攻撃してこないとは!
もしも、止めたと同時に攻撃していたら勝てたかもしれなかったのにな!」
「なっ…なんじゃと!」
「フン!!」
ケンセイの体から、何かユラユラと煙のような赤い膜がおおった!
次の瞬間!!
既に、アリスの喉元スレスレに剣先が止まっていた。
「お前も実践なら死んでたぜ!
剣士相手にお前ら魔法使いが接近戦で勝とうなんて、100年早いぜ!ハッハッハッハッハ!」
「なっ…何が起こったのじゃ!」
アリスが目を白黒させている。
「闘気を
お前がコントロールしていた俺の周りの魔素を、闘気の力で吹き飛ばして、体の自由を復活させたのさ!」
ほとんど無双状態に見えたアリスを倒してしまうとは、この世界の剣士は侮れない。
しかも、ケンセイの剣筋さえも見えていないのだ。
やはり、剣術や格闘術などの近接戦に有利なスキルを身につけなければ、この世界の魔法使いは、接近戦でスグに負けてしまうという事か…
「ケンセイさん、俺に剣術を教えて下さい!」
「オイオイ、今度はなんだ?
さっき
「お願いします。シャンティ先生に頼んでちゃんと月謝もキチンと払いますので。」
「お…おお…。まあ、月謝さえ払ってもらえば剣術教えるのは仕事だし、断る理由は無いわな。
だけど、ジュリは絶対にお前には渡さないぞ!」
「大丈夫です!必ずケンセイさんより強くなって、奪ってみせますので。」
「な…何だと!
やっぱりお前には教えん!」
「お父さん、なんでアレン君をいじめるの!
あんまりアレン君に酷い事するんだったら、もう口聞いてあげないんだから。」
---
結局、ジュリエットの口利きで、ケンセイから剣術を教えてもらう約束を取り付けた。
「それでは、母さんとシャンティ先生がギルド会館で待ってるから帰ります。」
「おお、エリスとシャンティによろしく言っといてくれよ!」
「アレン君、アリスちゃん。私がギルド会館まで送ってあげるよ!また人狩りに襲われたらいけないからね!」
「お…お願いします。ジュリ…ジュリエットさん。」
「ジュリでいいわよ! アレン君、ジュリエットって言いにくそうにしているもんね!」
「はっ…はい。ジュリさん。」
ジュリと、どう接したら良いのか解らない。
前世の時は、俺の妹で年下だったのに、この世界のジュリは年上なのだ。
俺は年下の妹としてのジュリとしか接した事がなかったので、この世界のジュリを無意識に妹として扱ってしまいそうになるのだが、実際は年上なのである。
そして当のジュリはと言うと、当たり前の様にお姉さんみたいに接してくるのだ!
だが、俺はジュリの事を姉のように見る事がどうしてもできないのだ。
前の世界で俺の妹として、大人になっていくジュリの成長過程も見て知っている。
俺が兄をしていた時の7歳の時のジュリも、20歳の時のジュリも知っているのだ。
だから、この世界で実際で年上だったとしても、俺の妹としての20歳の時のジュリも知っているので、どうしても年上として扱いづらいのだ!
「それから、さっき言ってた事、本気にしていいんだよね…」
頭の中で色々考えていたら、ジュリが話しかけてきた。
「へ?」
「へ?って、とぼけないでよ!
例え、あなたが年下だとしても、女の子に言わせるべき言葉じゃないでしょ!」
何の事だ?
俺はさっきジュリさんに、何かを言ったのか?
「さっきお父さんに言ってたじゃない!
私をお父さんから奪うって!
つまり、私をお嫁さんに貰うってことでしょ!」
「えぇ――――っ!!」
どういう事だ?
どうしてそうなったのだ?
俺は確かにジュリを奪うと言ったが、妹としてのジュリを奪うと言ったのであって、決して嫁にしようとか、彼女にしようと思って言った訳では無いのだ。
俺の中では、ジュリは妹で、そもそも
そんな発想は元々ないのだ!
いや待てよ、あの言い方ならそうなるのか?
3歳の俺が7歳のジュリを嫁に貰うと言ったので、ケンセイは俺の事を体は子供、中身がオッサンの変態野郎と罵ったのか!
たしかに俺はオッサンだ、3歳でもエロい事の仕方は知っている。
確かにケンセイから見たら、俺は変態野郎だ。
3歳なのにオッサンの知識を持っていて、無理やり自分の娘を
性欲魔人にしか見えなかっただろう…
「えぇ――――っ!!じゃないわよ!
まさか冗談だった訳じゃないでしょ!
あんなに一生懸命、私のお父さんに立ち向かって頑張ってたのに…
それを見て、私…感動して、あなたのお嫁さんになってもいいかもと思ったのに…」
ジュリが泣きそうな顔をしている…
俺は兄として、前世で苦労をかけた、ジュリを悲しませる訳にはいけないのだ。
「心配しなくていいよ。
ジュリのお父さんより強くなって、
必ずジュリを俺のお嫁さんにする為に迎えに行くから。」
俺は思わず言ってしまった…
前世で自分の実の妹だったジュリと結婚するって…
この世界では、血の繋がりはないので決して近親相関ではないのだが、とても悪い事をしている様な気がする…
しかし、俺は結婚すると決めてしまったのだ!
妹を、いや、姉の様に見える妹?
よく分からなくなってきたが、とにかく俺は妹と結婚すると決めたのだった…
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