第21話 団子三兄弟

 


「ドッカーン!!」


「ギャー!!」


「助けてー!!」



「ぐっわはっはっはっ!!愚かな人間共め!!

  泣きわめけ!! そして、己の無力さを呪うがいい!ぐっわはっはっはっ!!」



 闘技場の扉からデーモンが3匹現れた!!



 闘技場の中にいた試験官達が慌てて、デーモンに立ち向かっていったが、デーモンが口から吐く火球によって、たちまち試験官達を丸焦げにしてしまった。


「シャンティちゃん!!」


「解っております。エリス奥様」


 シャンティ先生は、すぐに試験官達に回復魔法をかけて復活させた。



「こっ…これは、ちょっとまずいな…

 冒険者のランク試験用に捕らえていたA級モンスター達が逃げ出したか!」



 そう言ってクラタンが闘技場にいるアリスの前に出てきた。



「ワッハハハ!

 妾の試験用のモンスターが出てきたか!

 なかなか骨がありそうな奴らじゃのう!」



「アリスちゃん!

 ちょっと試験どころではなくなっちゃったから、お母さんとシャンティ先輩の所に隠れておいで」



 クラタンはそう言ってから、観覧席で冒険者試験の応援をしていた冒険者に指示を出した。



「B級以下の冒険者は避難しろ!

 先程のデーモンとは、同じAクラスでもランクが違う!こいつら、全員爵位持ちだ!」



「何を言っておるのじゃ!

 此奴らは、妾の獲物じゃ!

 それから、ここにいる者、全員逃げてはならぬ!

 妾の初陣を、とくと目に焼き付けるのじゃ!

 ワッハハハ!」



「アリスちゃん、これは遊びではないんだよ!

 早くお逃げなさい」



「グチグチうるさいのじゃ!

 シャンティ!」



「心得ております。アリスお嬢様!

 クラタン!お下がりなさい!

 アリスお嬢様の邪魔になります!」



「しかし、シャンティ先輩。アリスちゃんは、まだ、子供なんですよ!

 先輩がなんと言おうと僕は引きませんからね!」



「クラタン、あなたいつからわたくしに向かって、そんな態度取れる身分になったのかしら?

 ヤリヤルのギルド長になったからって、調子に乗っているんじゃなくて?

 それから、私が今までに判断を間違えた事があったかしら?」



「そっ…そう言われればそうですけど…」


 クラタンが、黙りこんでしまった…

 シャンティ先生とクラタンがどういう関係なのか、今のやり取りでだいたいの力関係は解った…



「皆様方、逃げなくても大丈夫です!

 結界を張りますので、存分にアリスお嬢様の勇姿をお楽しみください!」



 シャンティ先生は、そう言って空を飛びながら、スカートの両裾を少し持ち上げて、軽く会釈した。



「それでは、エリス奥様、宜しくお願い致します」



「それじゃぁ、みんな、私の近くに集まって!

 みんなでアリスちゃんを応援しましょう!」



 エリスが、闘技場にいる人達を全員集め、結界スキルのある精霊達を体内召喚し、自分の回りに結界を張った。



「アリスちゃん、準備出来たわよ!

 頑張ってね!」



 エリスがアリスに向かって、一生懸命手を振っている。



 この人は娘の事が心配ではないのか?



 俺が不安な顔で見ていると、クラタンが話かけてきた。



「アリスちゃんは、大丈夫ですよ。

 シャンティ先輩が大丈夫と言えば大丈夫なんです。

 エリスさんも、勿論、僕も、元『犬の肉球』のメンバーであれば、シャンティさんが立案した作戦に、失敗が無い事を知っていますから」



「『犬の肉球』って何ですか?」



「アレン君、知らなかったのか。『犬の肉球』は、僕や、エリスさん、それからアレックスも入っていたギルドだよ!

 ちなみに、エリスさんは創立メンバーの1人で、シャンティ先輩は『犬の肉球』の作戦参謀。

 僕は、2代目ギルドマスターで、アレックが三代目ギルドマスターだったんだよ!」



 クラタんの話を聞いていると、アリスが、チラチラこちらを伺っているのを感じた。

 アリスの方に目を向けるとニヤッと悪い顔をした。何だ?



「ワッハハハ!準備ができたようじゃな!

 妾は、最強になる予定の、最悪の厄災、紅龍アリス様じゃ!

 ワッハハハ!

 貴様らは妾が最強になる為の、最初の供犠くぎになるのじゃ!

 ワッハハハ!」




「うわっははは!

 小娘!

 我に闘いを挑むとは、滑稽な!

 そこにいる、巨大な魔力を持った仲間に助けてもらえばいいものを、そなたの様なちっぽけな者に勝負を挑まれるとは、片腹痛いわ!

 生皮を剥いて、表面だけ焼き、レアステーキにして食ってやるぞ!

 うわっははは!」



 口上が、似たもの同士だ…

 と、思って見てたら、また、アリスが俺の方を見てニヤッと笑った。



「ワッハハハ!

 妾の見た目だけを見て、妾の本当の実力が解らぬとは!

 自分の見る目のなさを、恥じるといいのじゃ!」



 と言い、アリスの目付きが変わった

 …



 アリスは浮き上がり、自分の魔素濃度を全開に解放し、デーモン達を睨み付けた…



 デーモン達は、突然の事で動揺している様だ。



 突然、自分達の魔素総量を軽く上回る怪物が、目の前に現れたからだ!



 先程まで、小鹿のような華奢な子供が、一瞬にして、獲物を狙う捕食者の様な殺気を出すのだから無理もない。



 それに加え、精霊級の最上級でも、できないような空中浮遊までしているのだ!



 ビビらない理由がない。



「お主ら、何をとぼけたつらで妾を見ているのじゃ!

 頭が高いのじゃ!ワッハハハ!」



 とっ、言った瞬間、3匹のデーモンが突然、地面に倒れこんだ!



「うぅぅぅ…」



 デーモンは、無理やり何かの力を受けて地面に押さえつけられているようだ!



「ワッハハハ!わかればいいのじゃ!ワッハハハ!」



 デーモン達が、何かに解放されたのか、何とか立ち上がり、ブルブル震えている。



「偉大なる御方、どうか、無知な我らをお許しください」



 真ん中にいる、一番偉そうなデーモンが頭を下げた。



 アリスがまた、俺の方をチラリと見て、してやったりと言う顔をしている。



 最近、俺は修行の成果か、魔素探知ができる様になってきた。



 そして気が付いたのだが、アリスとエリスが巨大な魔素をダダ流しにしているという事だ。



 前世の記憶がある俺にとっては、強者は、殺気を隠すものなのだ。



 殺気をダダ漏れにする者は、一流とは言えない。



 それをアリスに言ったらやけに納得し、それから強力な魔素を抑える練習を毎日する様になり、そして魔素を隠す方法を会得えとくしていたのだ。



 多分、うまくいったので俺に褒めて欲しいのだろう…



 俺は皆に見えない様に親指を立てた。



 それを見た目アリスは、満足げな顔をした後、

デーモンの方に振り返り、キッ と睨みつけ、



「お主らを許して、このまま何もしなかったら、妾の凄さが皆に伝わらないのじゃ!」



 と言い放ち、赤黒い龍に変身した!



「アッあれは赤龍様じゃないのか?」


「でも、小さいぞ!」


「あーアリスお嬢様~

 何と神々しい御姿なのでしょう」



 また、外野が騒ぎ始めた。



「誰じゃ?赤龍とは!妾は紅龍アリス様じゃ!ワッハハハ!」



 デーモン達はガクガク震えながら涙目になっている。



「それでは、妾の力を見せてやろう!」



 頭上にどんどん雲が集まってきて、大きな積乱雲ができ、周りがどんどん暗くなってきた。



 デーモン達の震えは止まらない。



「どうかお許しください!

 貴方様がどんなに偉大な方だったのか知らなかったのです!

 我々は貴方様に永遠の忠誠を誓います!

 どうか我々を殺さないでください!」




「ワッハハハ!そうか、妾に忠誠を誓うと申すか!

それでは許すとしよう!

妾は寛大じゃからな!ワッハハハ!」




「我らが主、アリス様ありがとうございます!

我ら必ずやアリス様のお役に立ってみせます!」



デーモン達が、ひざまつき、深々とお辞儀をしている。



「そうか、そうか!良きにせよ!

ウムッ!!

 この魔法はどうしようかのう!今更止められんし…オッ、あそこにするのじゃ!!」



 巨大な積乱雲がピカッと光った瞬間





 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!





 という、怒号と共に強力なイカズチが何十本も、城塞都市ヤリヤルの城壁の外側にある広大な空き地に落ちた。




 空き地には砂煙が舞い、それが晴れてくると、クレーターの様な窪みがいくつもできていたのであった。



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