第19話 精霊アイドル エリス

 


 エリスと俺は、受付の女性に、カウンターの中に招き入れられ、カウンターの奥にある、職員用の階段から3階にあるギルド長の部屋に行くように言われた。


「やっぱり、本物の精霊アイドル、エリスだよな!」


「間違いないだろ。だって、ギルド長の部屋に案内して貰ってただろ!」


 まだ、後ろのエントランスから、ヒソヒソ話が聞こえてくる。


『ワッハハハ!さすがは妾の母様じゃ!

 皆に噂されておるのじゃ!

 精霊のアイドルとは、母様に相応しいふたつ名なのじゃ!』


 階段を登っていると、頭の中でアリスが誇らしげに喋っている。


 アリスは、エリスが誉めらた事が嬉しくて仕方がない様だ。



『アリス、もう少しでギルト長室に着くので、召喚しておくぞ』


 無詠唱でアリスを召喚した。



「兄様、やはり登場の時、何か言った方が良いのでないか?


 いきなり妾が登場したら、皆がびっくりしてしまうのではなかろうか?」



「皆がビックリするなら、アリス的にOKじゃないのか?

 アリスは登場する時、皆を驚かせたいんだろ」



「そっ、それもそうじゃな!

 確かに、妾が突然登場して、皆を驚かせるのも悪くはないのじゃ!

 ワッハハハ!」



 フッフッフッ…俺もアリスの扱いにだいぶ慣れてきたようだ。


 毎回あんな恥ずかしい、中二チックな登場のセリフなんて言えるかよ。


 そうこうしている内に、3階のギルド長室の扉の前に着いた。



 トントン



「クラタ君いる?」


 エリスは、扉を叩きなが、クラタ君なる人物を呼んだ。



「僕をその名前で呼ぶのは、エリスさんですね。

 どうぞ。開いてますのでお入り下さい」



 扉の中から、渋くて品がある声が聞こえてきた。



 エリスが扉を開けると、部屋の奥にある、書類で山になっている机から、ひょっこりと、メガネをかけたやや美形の50歳位の男性が顔を上げた。



 立ち上がると、以外と背が高く180センチ位で細身だが、服の上から見てもガッシリした筋肉の鎧に覆われているのが分かった。



「頼まれていた、ポーション持って来たわよ!

 それから、冒険者カードの件お願いね!」



 すると、クラタ君と言う人物はチラッとアリスの方を見て、全て納得したという表情をしてから、俺とアリスの目線に合わせる為に、しゃがんで話しかけてきた。



「初めまして、僕は城塞都市ヤリヤルの冒険者ギルド長をしている、クラタン·オズワルドです。


 君達のお母さんには、僕が冒険者になりたての右も左も分からない頃から面倒を見てもらっていたんだ。

 アレックスの方は、彼が子供の頃から知っていて、僕の弟の様な存在なんだよ」


「妾は、アリス母様、アレックス父様の娘で、最強になる予定の、アリスなのじゃ!」


 アリスは、いつもより控え目に自己紹介をしているが、失礼なのには変わらない。



「アリスの双子の兄のアレンです」



 俺は前世の時に培った、無難な挨拶を披露した。



「アレン君は、顔も髪の色もエリスさんにそっくりだね。


 それからアリスちゃんは、アレックスに肌の色、髪の色、目の感じが似ていているね。


 それ以外の顔は、耳の形も含めてエリスさんにそっくりだ!


 エリスさんと、アレックスの両方に、似ているってことだね!」




「そうじゃろ!そうじゃろ!妾は、両方に似ておるのじゃ!」



 アリスは、満足そうに頷いている。


「でもね、アリスちゃん。

 それが問題なんだよ。


 この西の大陸では、ダークエルフが暮らしていくのは難しい事なんだ。


 僕の様に、エリスさんとアレックスの事を最初から知っていれば、アリスちゃんが見た目はダークエルフに見えるけど、本当はハーフエルフなんだ!


 って事が分かるけど、知らない人は、どう見てもダークエルフだと思ってしまうんだ。


 ダークエルフはこの大陸でたくさん悪さしてきたからね」



「ダークエルフ? 誰じゃ?

 そいつは?

 妾はこの体が気に入っているのじゃ!文句を言う奴は倒してしまえばいいのじゃ!

 ワッハハハ!」



「それも、いいかもしれないけど、いちいち相手にするのも面倒臭いよね。


 でも、冒険者ギルドが発行する冒険者カードがあれば、身分が保証されるので、ちょっかいかけてくる人にそれを見せれば、無駄な争いをしなくてよくなるから便利だと思うよ!」



「その冒険者カードとかいう物を、そなたがくれるのか?」



「エリスさんには、お世話になったし、それにエリスさんが作ったポーションを売って貰えるからね!


 本当はテストを受けないと冒険者カードは与えられないのだけど、僕の権限を最大限に利用して、約束通り冒険者カードを発行するよ」


「何か、ズルしている感じがするのじゃ!

 妾は何でも、自らの実力で手に入れたいのじゃ!

 そうじゃないと、面白くないからのう!

 そのテストというのを妾にやらせるのじゃ!」



「やらせるのは、いいんだけど、その歳では、合格は無理だと思うよ。」



 クラタンがエリスの方をチラッと見て様子を伺った。



 エリスはニコニコしながら、二人のやりとりを楽しそうに見ている。



 それを見たクラタンが肩をすくめて、



「仕方がないな。どの道冒険者カードは発行するけど、アリスちゃんやってみる?」



「やるのじゃ!」



 アリスは目を輝かせ大きく頷いた。

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