第18話 城塞都市ヤリヤル

 


  俺とエリスは、城塞都市ヤリヤルの城壁の門の前で検問の順番を待っている。


 城塞都市ヤリヤルは、うちの家族が住んでるモコ村を北に、馬車で1時間程の距離にある人口6000人程の城塞都市である。


 何故、城塞都市ヤリヤルに来ているかというと、家の貯蓄が底をついてしまい、お金が必要になったからだ。


 エリスの旦那のアレックスが、3年前に大規模レイドに参加してから、全く音沙汰なしで、それからずっと収入が無いのだ。


 これまでは、エリスとアレックスが冒険者時代に貯めていた貯蓄を切り崩して生活していたのだが、3年で完全に底をついてしまった。


 そこで、お金を稼ぐ為にヤリヤルに来ているという訳だ。


 幸い、エリスはお金を稼ぐ手段を持っている。


 エリスが作るポーションが高く売れるらしいのだ。


 実際には、エリスが召還した精霊が作るポーションなのだが…


 そのポーションの作り方なのだが、魔力が浸透しやすい精霊水に、好きな効能の魔法をかけるだけで簡単にできてしまう。


 だが、そんなうまい話がある訳がない。


 何かの魔法を使った場合、同じ効能をポーションによって得ようとするなら、10倍の魔素を使わないと得られないのだ。


 例えば、怪我をした時に回復魔法をかけると、体の中の魔素に直接働きかけて、怪我を回復させるのだが、ポーションの場合は口から飲んだり、傷にふりかけたり、体の外から魔素に働きかけるので、効き目が普通の回復魔法より効かないのだ。


 それを、普通に魔法をかけた時と、同程度にするには、普通の魔法の10倍の魔素を使う事になるのだ。


 なので、中級魔術師が初級の回復ポーションを作ろうと思った場合、1日3本が限界なのだが、この世界で規格外の魔素総量を誇るエリスにとっては、1日に何本作ろうとも、微々たるものなのである。


 挙句に、作業は全て精霊にやらせている。


 精霊水は、水の上級精霊であるシャンプーに作らせ、それに光の上級精霊であるシャンティが、回復魔法をかけていく。


 エリスは魔素に殆ど上限がない状態なので、あっという間に、回復ポーションが出来上がっていく。


 尚且つ、エリスの魔素は精霊にとって、濃厚で濃く格別の美味しさなのだ。


 その濃厚で格別な美味しさの魔素で活動し続ける、エリスの精霊が使う魔法も、いつしかエリスの魔素の味に似てきているのだ。


 その魔法で作ったポーションは、人が飲んでも特別なのだ。


 1度飲んだら他のポーションは飲めなくなる。初級ポーションでも中級並の効能、味も1度飲んだら忘れられなくなる美味しさ。


 これが売れない訳がないのだ。



 そして現在、城塞都市ヤリヤルの城壁の門の前で、エリスと2人で検問の順番を待っている。


 何故、エリスと2人きりだけかと言うと理由がある。


 アリスも最初、普通にヤリヤルに行く予定だったのだが、シャンティに止められた。


 アリスの容姿に問題が有るのだ。


 アリスは、俺と同じハーフエルフだが、見た目が、まんまダークエルフなのだ。


 エルフ族のエリスと、褐色の肌の色をしている旦那のアレックスの事を知っていれば、アリスの様な容姿のハーフエルフが産まれるという事が分かるのだが、殆どの人は、見た目だけで、ダークエルフだと思ってしまう。


 西の大陸の人間は、南の大陸のダークエルフを、恐怖の対象と見ている。


 西の大陸の静寂の森のエルフと、南の大陸の漆黒の森のダークエルフは、とても仲が悪いのだ。


 ことある事に小規模な小競り合いが起こり、西の大陸の人間は多少なりとも被害を受けているのだ。


 そのダークエルフが、ノコノコと城塞都市ヤリヤルの城壁の検問に訪れたら大騒ぎになってしまう。


 それを避ける為に、アリスは今、俺の中で潜伏しているのだ。


『兄様、早くヤリヤルの町の中に入りたいのじゃ!』


『冒険者ギルドに着くまで我慢するって約束しただろ!

 冒険者ギルドで冒険者登録の身分証が発行されるまで、街に出る事は許しません!』


『うーん…ダークエルフの容姿が駄目なら、龍の姿だったらよかったのではなかろうか?』


『シャンティ先生が、龍種は希少種だから、それはそれで大騒ぎになるっていってただろ!


 取り敢えず、冒険者ギルドで身分証の発行をしてもらわないと、何か起きた時に面倒な事になるんだよ!


 せっかく、エリスのポーションを冒険者ギルドに全て売るかわりに、アリスの身分証を発行してくれる手筈になったのに、その前に問題を起こしたら元も子もないだろ!』


 そうこう話してる内に、無事検問は突破し冒険者ギルドに着いた。


 城塞都市ヤリヤルの冒険者ギルドは、その街を覆い尽くす城壁と同じ様な石で建てられており、三階建てで他の建物より一際大きい。


 隣には、同じ位の教会の様な建物が立っている。


 取り敢えず、エリスと一緒に冒険者ギルドの扉を開け、中に入った。


 中に入るとエントランスが広がり、10人位が座れそうなテーブル席が幾つも設置されている。


 そこには、なにかを話し合ってる冒険者のグループが5,6組いて、奥にはカウンターがあり、受付の女性が3人くらい並んでいる。


 右側の壁には掲示板があり、何やら依頼書の様なものが貼られいる。


 そして、いかにもファンタジーの冒険者の格好の人達が群がって、

「このBランクのゴブリン退治の依頼がいいんじゃないのか?」

「いや、こっちの依頼の方がいいぞ!」などと話しあっている。


 エリスは、真っ直ぐにカウンターの前に進み、受付の女性に、



「えっと、ギルド長を呼んでください!」


 と言った瞬間、エントランスにいた冒険者の視線がエリスに向かって集まった。



「誰だ?いきなりギルド長を呼ぶ奴は?」



「おい、あれ、S級冒険者の精霊のアイドル、エリスじゃないのか!」



「あの、全ての精霊を骨抜きにして、従わせてしまうという、精霊のアイドル、エリス?」



「自分は、何もしなくても強力な精霊達が勝手に敵を倒してしまうという、あのエリスか?」



「間違いない!普通の冒険者が、いきなりギルド長を呼べないだろう。」





 俺の母親のエリスは、《精霊のアイドル》の異名を持つ二つ名持ちのようだ。


 まあ、そんな気はしてたけどね……








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