第14話 マヨネーズイベント

 

 アリスがエリスの膝の上に座り、凄い勢いで骨付き肉に、むしゃぶりついている。


「この肉とても美味しいのじゃ!この肉は何の肉なのじゃ!」


「ただの鶏肉よ。たくさん作ってあるからもっと食べてね」


「ただの鶏肉も家族で食べると美味しいのう!」


 アリスが何故か涙を流しながら鶏肉の骨をしゃぶっている。


 テーブルには、骨付き肉の他、サラダ、カボチャスープ、茶碗蒸しの様な食べ物、それからサンドイッチなども用意されている。


 正直、こちらの世界の料理はあまり美味しくない。すべて薄味なのだ。


 普通の食事の場合、ライ麦パンに似た、少し黒めの固いパンに、干し肉、それと果物が付いてくる。


 それだと毎日味気ないので、少しずつ前の世界の料理のレシピを、東の大陸の料理だと偽って、エリスとシャンティに仕込み、最近ではレパートリーも増えてきているのだ。


 だが、俺は基本サンドイッチばかり食べている。


 サンドイッチは間違いないのだ。


 固い黒パンを干し肉の塩気だけで食べるのは、前世の食事に慣れている俺には相当に無理な事であった。


 それと魔法の勉強もしたかったので、勉強しながら食べれて、色々な味が楽しめるサンドイッチを思い付いたのだ!


 しかし問題があった。


 この世界には、チーズはあるがバターとマヨネーズが無いのだ!


 サンドイッチにバターとマヨネーズが使えないのは死活問題だ。


 正直、バターの作り方は分からない。


 しかし、マヨネーズの作り方は分かる!


 なぜなら、マヨネーズ作りは、異世界転生モノの鉄板イベントなのだ!


 俺が前世の時に読んだ、膨大な異世界モノのラノベでも、何度もマヨネーズの作り方が紹介されていたのだ!


 これは、避けては通れない最大のイベントなので、異世界転生者のはしくれとしては必ず成功させるぞ!


 と意気込む必要もなく、呆気(あっけ)なく完成する事ができた。


 実をいうと、前世で作った事があるのだ。


 前世では、家にずっと引きこもって暇を持て余していたので、ラノベで見たマヨネーズを作ってみたのだ。


 それが、以外と良く出来ていたので、それからはmyマヨネーズは自分で作っていたのだ。


 材料は、この世界に全部あったので、エリスにレシピと作り方を教えて作り置きしてもらっている。


 それから、普通のマヨネーズの他に、カラシを混ぜたカラシマヨネーズもストックしている。


 サンドイッチには、カラシマヨネーズが良く合うのだ。


 最近のお気に入りは、ゆで卵を潰した物に、カラシマヨネーズを混ぜて作った卵サンドだ。


 こっちの世界には、卵を、ゆで卵にするという概念がなかったのか、エリスなどは、ゆで卵で作った卵サンドを食べて、こんな美味しな卵料理を食べた事が無いと興奮していた。


 それから、卵焼きにトマトケチャップとカラシマヨネーズとキュウリを挟んだサンドイッチが食べたいのだが、トマトケチャップのレシピがわからない。


 色々試しているのだが、中々上手くいかない。


 トマトを刻んだ物を煮込んで、塩とにんにくを入れて見たのだが、パンチが足りない。


 これから色々試す余地がある。


 この世界には、基本的な調味料はあるのだが、手がくわえられいる調味料がないのだ。


 カラシはあるがマスタードがなかったり、ソースや醤油、それから胡椒もない。


 基本的に、すべて塩味なのだ。


 例えば、アリスがむりゃぶりついていた鶏肉なら、俺は鳥の唐揚げにして食べたいのだが、醤油と生姜と胡椒がない。


 塩とニンニクの味付けでも美味しいかもしれないのだが、俺は本物の唐揚げを知っている。


 アリスの様に多分、平安時代位に封印された人なら、この世界のご飯でも満足できるかもしれないが、俺は知っているのだ!


 美味しい食事というものを。



 ---




 そうこうしてるうちに、食事会はお開きになった。


「母様の料理とても美味しかったのじゃ!」


「私はほとんど作ってないわよ。シャンティちゃんが作ってくれたのよ」


「そうじゃったか! シャンティが作った料理じゃたったか! シャンティは料理が上手いのう!」



「アッ…有難うございます…アリスお嬢様にお褒め頂き…大変嬉しく思います…」


 また、シャンティが泣いている…



 どんだけアリスに心酔してるんだよ…




 なんか急に疲れてきたな…







「アッ!! アリスちゃん!!」




 エリスの腕の中から、アリスが消えていた。


『なんなのじゃ! もっと母様と一緒にいたかったのじゃ! 兄様早く魔素を復活させるのじゃ!』


 アリスが頭の中で怒鳴ってる。


 俺は今日2度目の魔素切れで朦朧もうろうとしている。




「アリスお嬢様ー!」




 シャンティが叫び、何故か俺を睨みつけている…



 シャンティ先生…怖いよ…俺だってどうする事もできないんだよ…




「アレン坊ちゃん! 明日から特訓です!」


「最低でも、アリスお嬢様の召喚時間を、龍の状態で3時間、ハーフエルフの状態で13時間維持できるようにしてもらいます!」


「明日の朝までに、トレーニングの予定表を製作しておくので覚悟しておいてください!」



「……」




 俺は朦朧とする中、シャンティが何かを考えながら不気味に笑っているのを、ぼんやり見ながら…

 意識を失った…


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