第12話 豆柴

 


「ワッハハハハ!わらわは、最強、最悪の厄災龍!紅龍アリス様じゃ!」


 そいつは、青白く輝いた魔法陣の中から、やかましく登場した。


「ワッハハハハ!遂に、妾は復活したのじや!ワッハハハハ!」


「アリスお嬢様、遂に復活されたのですね!わたくしはこの時を待ち望んでおりました!」


 シャンティが地面に崩れ落ち鼻水を垂らして涙ぐんでいる。


「ハッ!!何じゃ!この身体は?!」


「妾の美しい、しなやかなシルエットはどこに行ってしまったのじゃ!」


 紅龍アリスと名乗る人物が突然涙目になって叫びだした。


「何で、ちびっこくなってるのじゃ!それに、羽まで生えておる!こんなずんぐりむっくりな体では、とぐろも巻けないではないか!」





「ワァー。可愛い龍ちゃんね!赤龍ちゃんに似てるわね!」


 エリスがニコニコしながら空中に飛んでいた、紅龍アリスと名乗る豆柴ぐらいの赤黒い子供の龍を捕まえて顔を近づけてマジマジ見ている。



「あっ!母様…」



 赤黒い子供の龍の目に、見る見る涙が溢れてきて、ワンワン泣き出した。



「あらあら。アリスちゃんだっけ?どうしちゃったの?大丈夫?」



「ウー…母様~」



 アリスの涙は止まらない。



「母様?私がアリスちゃんの母様?」



「うぇーん。母様-」



「うーん。アレンの使い魔なら、私がお母さんって事でいいのかな?」



「母様ぁ…」



 アリスが涙で顔をグチャグチャにして、エリスに抱きついた。


 それを見てシャンティが何故か泣きながらウンウン言っている。



 アリスが俺の使い魔か…


 もしかしたら、とは思ってたけどまさかな…



「アリスちゃん、今日はお祝いだから、ご飯食べて行くでしょ」


「母様ぁ」


「家で食べて行くって事でいいのね!」


「シャンティちゃん、アリスちゃんのご飯の用意もお願いね!」


「はい。エリス奥様!」


 アリスは、エリスに連れられて家に入って行った。



 ウーン。


 アリスはイメージしてたのと、全然違うな。


 もっと禍々しくて恐ろしい感じの奴を想像してたのに…


 どっちかと言うと、小さいのもあるが可愛いらしい感じだな。


 多分、転生した事によって子供になってしまったって事か。


 それより、夕飯までまだまだ時間があると思うんだけど、


 確か、シャンティ先生、最初の使い魔の召喚時間は1時間程って言ってたけど大丈夫なのか?


 案の定、アリスは1時間後消えてしまった。


 俺はごっそり魔素がなくなり、初めて魔素の喪失状態を味わった。


『アレン!早く魔素を回復させるのじゃ!妾は、母様とお祝いの食事を食べるのじゃ!』


 と頭の中でアリスが怒鳴っている…


 召喚時間が切れるとまた俺の身体に戻るのか…


 魔素の回復ってどうすればいいんだ?


 取り敢えず、シャンティ先生に聞いてみるか。


「普通の人族なら魔素をMAXにするのに一晩かかりますが、大気中の魔素も取り込めるアレン坊ちゃんなら3時間位で完全復活できますわよ」


「それにしても、アリスお嬢様は本当に凄いです。アレン様の魔素総量は相当なものなのに、それを1時間で消費するなんて、なんて素敵なんでしょう。さすが、神獣様ですわ」


 シャンティ先生はどこか遠くを見て、うっとりとした顔をしている。


 完全に、アリス教に心酔しきっている…


『3時間位で復活できるってさ!』


『3時間も待てぬ!妾は母様に抱っこされたいのじゃ!』


『それに、また1時間で強制終了してしまう。何とかならぬのか?』


『ウーン。どうしたものかね。龍の体だから燃費が悪いのか?俺のラノベ脳だと、高位の龍だとよく人間に変身できるんだけどアリスできないのか?』


『ふむ…その手があったか!妾はやった事はなかったが、よく妖怪がやっていたあれか!狸や、狐の獣でもやっていた事が妾にできぬはずはないのじゃ!』


『あっ!今すぐ試すのは止めてね!オレ今、スッカラカンだから、せめて1時間後にしてね』


『ウー…分かったのじゃ。それまで、イメージトレーニングしておくのじゃ!』


 俺はアリスと喋り終わった後、時間潰しに書庫で本を読んでいたのだが、初めての魔素喪失で疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。


 ---




『アレン!アレン!起きるのじゃ!

 既に、1時間経っているのじゃ!』


 俺はアリスのけたたましい怒鳴り声で目が覚めた。


 身体が軽い。寝た事によって魔素がある程度回復したのか。


『そんなに急がなくても、食事の時間はもうチョット後だぞ』


『ウー…母様に早く会いたいのじゃ』


『今までだって、俺の意識がない時にあってたんじゃないのか?』


『そうなんじゃが…アレンの身体は、妾の身体であっても本当の妾の身体ではなかったので、妾に主導権がある時も、母様と接する時は、なるだけアレンの仕草や喋り方を真似て振る舞ってきたのじゃ…』


『それが今日、わらわ自身の身体を得て、母様に抱っこされたら、今まで我慢してきた感情が抑えきれなくなってしまったのじゃ…』


 と、少し震えた様な、悲しい声で言ってきた。


 そうか…俺の場合、前世の両親や、妹の方が過ごしてきた年月が長かったので、まだエリスが自分の母親だって言う実感は湧かないが、アリスにとっては、初めての母親や兄弟なので、俺が思っている以上に家族の事を大切に思っているのか…


『分かったよ。食事にはまだ早いが、アリスを召喚しよう』


『よいのか?』


『お母さんに早く会いたいんだろ』


 俺は、昨日シャンティ先生に散々書き取りさせられた、召喚用の魔法陣が書かれた紙を、机の上から一枚だけ手に取り、魔素を送り込んだ。




「我が召喚の求めに応じ、いでよアリス!」


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