第16話 夢想郷《ドリームランド》
エルニカは、妖精郷への出入りの仕方、妖精からの身の守り方等を、数日かけてテオから学んだ。更に、万一妖精郷から脱出できなくなったり、何らかの理由で身動きがとれなくなったりした時のために、テオへの通信手段も授かった。
テオの魔術特性の一つに、
次にエルニカは、ライールを頼った。ライールは、誰より頻繁に妖精郷を調査していたし、妖精に関する知識も豊富だ。同行出来れば、エルニカにも色々な利がある。
だが、そもそもライールの居所を見つけるのが困難だった。エドガーの工房から連絡が取れると思っていたが、様々な魔術師の元を転々としているライールの、その日の居所を捜し当てるのには苦労した。居所が分かったと思ったら今度は妖精郷調査に行っているという。ライールがいつ戻るかわからないので、エドガーの工房を拠点として使わせてもらっていた(カイは大変喜んだ)。心情的に、真珠の家やテオの工房には戻れなかったのだ。が、一週間待っても、ライールは現れなかった。
ついにエルニカはしびれを切らし、単独での妖精郷調査に乗り出した。彼には策があった。女王のお触れのせいで、妖精郷調査を行う魔術師は増えている。その調査日程を調べ上げ、勝手に便乗するのである。これはライールの居所を調べるより随分楽で、二、三日で目星がつけられた。魔術師の工房での噂や、エルニカ自身が何気ない会話から情報を収集するなどして、ある魔術師の行動予定を調べ上げた。あとは彼らを尾行して、妖精郷への入り口を見つけるだけだった。妖精郷に入ってからも、念のため慣れるまではと彼らの後をつけ、妖精郷での実際の対処の様子を盗み見て学んだ。裏社会で生きてきたエルニカにとって、この程度は朝飯前だったし、
実際には、コルネリアやテオに警告された割には、身の危険を感じることは多くなかった。というのも、新規に妖精郷調査を始めた魔術師たちも、汚染の影響はそれなりに警戒しており、妖精郷にいる時間は長くなかった。毎回同じ妖精郷を調査できるならまだ対処も蓄積出来ようが、同じ妖精郷の入り口でも、通り抜けると毎回全く違う異界へ出てしまうからであった。
入り口自体は、それぞれの妖精郷で別段違った様子はない。大抵、路地裏に妙に規則的な配列できのこ茸が生えていたり、草むらの草が幾何学的な形に倒れていたりする。その他、カビやコケなども概ね「不自然な形」になる。妖精派の間で
妖精郷の様相は実に多彩だった。以前エルニカが迷い込んだような奇妙な森もあれば、ひたすら嵐が吹き荒れており、数歩先の視界も得られないような場所もある。全てが水晶で出来た美しい場所もあれば、汚泥のような悪臭を放つ場所もあった。小さい妖精もいれば巨大な妖精もおり、異境の神々が統治する秩序だった場所もあれば、名状しがたき異形の怪物が闊歩する混沌とした場所もあった。
エルニカは、これらを『妖精郷』と一括りに扱うのは無理がある気がした。便宜上妖精郷として扱われている、異教の神々の支配する異界を除いたとしても、多様すぎる。妖精派ですら調査に難儀する理由がわかった。
更に不思議なことに、滞在中に朝靄のように消えてしまう妖精郷があった。そういった場合、つい先ほどまで妖精郷にいたと思っていたのに、霧が晴れたような感覚とともに、ロンドンの道端に帰ってきているのだ。エルニカが尾行していた幾つかのグループの調査では、ロンドンに出現した妖精郷のほとんどにこの現象が見られるという。彼らは、この現象に関して様々な予想をしていた。
仮説一。妖精郷は実は突発的に泡のように生まれるものであり、それぞれ存在の強さのようなものがあって、存在の力の弱いものは、妖精郷として永続せずに消えていく。
仮説二。妖精郷と世俗の世界にはある種の距離があって、距離が無くなるとき、つまり世界同士が重なった時には、はっきりとその存在を感じ取れるが、距離が離れてしまう事でそれぞれの世界は遠のき、それが靄が消えるように見える。
仮説三。妖精郷は何者かの魔術が生み出したものであり、魔力が尽きると消える、等々。
仮説三などは、やはり犯人はコルネリアだという決まり文句に結びつくので、エルニカは単なる誹謗だと思っていた。
頻繁に出現している妖精郷は、ほとんどこの朝靄のようなものであったために、その内これらは
かくしてエルニカは、たった一人で妖精郷へと足を踏み入れた。
……しかし、いざ調査となると、エルニカは何を調べて良いか分からなかった。妖精郷に入っても、出入り口付近でうろうろするしかない。妖精郷頻出の謎を解き、可能ならばそれを終わらせる必要があるが、そもそも情報が不足していた。そこで彼は、エドガーの工房の大量の蔵書を思い出した。中にはエドガーが正気の時に書き残したものがあるはずである。問題はカイがエドガーの研究書簡を見せてくれるか、だった。魔術師は己の研究を他の者には見せたがらない。直接の弟子がすんなりそれを見せるとは思えなかったが……。
「いいですよ、幾らでもご覧になって下さい。ここにあっても宝の持ち腐れと言うか」
エドガーの蔵書はカイの許諾を得た上で、すんなりと借りることが出来た。研究書簡はラテン語で書かれていたが、真珠の家での読み聞かせのおかげで、楽に読み解くことが出来た。
調べてみると、何十年も前から妖精郷の出現例はあるが、ロンドン市内とその近郊に限れば、年に一度あるかないか、概ね十一月の万聖節の前後に出現することが多いようである。それが四、五年前から徐々に増え始めた。最初の増加は年に四回。それぞれの出現時期は概ね三ヶ月離れている。次の年には一度おさまり、その翌年には年に八回。これも概ね時期は均等に離れている。昨年の秋頃、ついに月に一度のペースで出現し始める。エルニカがコルネリアに出会う直前である。
エドガーの調査記録はそこで途絶えている。恐らく汚染の影響で、正気でいられる時間が短くなり、調査が中断されているのだろう。
その後はエルニカも知るとおりだ。現在に至るや、同時に複数の妖精郷が出現している有様だ。明らかに頻度は増えていて、規則性もないように思える。
エルニカはまず、妖精郷の入口を調べることにした。一見違いがない
「エルニカさん、大変そうですねぇ」
「別に大変って事はないけど。徒労感はあるね」
「エルニカさんが一旗上げようという気持ちは分かりますが、僕らは所詮徒弟ですよ。
とは言え、妖精郷に入らずに調査しているのだから危険度はかなり低い。そろそろ内側の調査をした方が良いかと、スープの中の豆をほおばりながら、エルニカは考えた。
食事も終わろうかという頃、台所の床板を叩く音が響いた。地下通路への出入り口だ。
「誰でしょう」
カイが合言葉で素性を確認し、客を中に招いた。
緑色の衣装は薄汚れており、肌は砂や泥で黒ずんでいたが、特徴的な尖った耳と、黒すぎて青く見える髪は、ライール・カースのものに違いなかった。
「やぁ、お久しぶり」
「先輩! 今までどこに行ってたんですか、随分探してたんですよ!」
「おやおや、それは何とも情熱的ですね」
「エルニカさんは、ライール先輩に大事な用があったみたいですよ」
「それは失礼しました。その用件を聞く前に、このいい匂いの料理を食べたいですね。妖精郷の中で食料が尽きて四日は経っているので、空腹で仕方がないのです」
ライールはスープを噛みしめるように食べながら、エルニカの用件を聞きはじめた。
「女王が報奨金を……よほどの事態になっているようですね」
「ライール先輩は妖精郷を調査していたのに、知らないんですか?」
「カイ君、僕はハドリアヌスの長城まで足をのばしていまして、ロンドンの情報は入ってこなかったのですよ」
ハドリアヌスの長城は、スコットランド国境付近にある建造物だ。イングランドがローマの支配を受けていた頃に作られた、異民族の侵入を防ぐための防壁である。皇帝ハドリアヌスの命で建造されたことからそう呼ばれる。
「何でそんな所まで。向こうは女王をよく思わない貴族も多いって、剣呑な話を聞きますけど」
カイはエドガーの世話によほど飽きているのか、嬉々としてライールに質問している。
「聞き込みと実地で、妖精郷の出現状況の調査です。ロンドンでは妖精郷出現の頻度が上がっていますが、他の地域はどうかと考えたのです」
「それで、どうだったんですか?」
カイがかぶりつくように聞く。
「ロンドン近郊以外では、妖精郷の出現頻度は昔からほぼ変わりません。年に一度か二度、周期的に出現している程度でした。この頻発現象はごく一部で起こっているだけのようです」
エルニカはその話を聞いて、どうもそれが事象の鍵である気がしてきた。ロンドン近郊にのみ起こる現象ならば、それは土地に由来するか、或いは人為的なものなのではないか――。
そこで、ライールの今までの経験の中で、
「『
「あのすみません、僕一応妖精派に籍を置いていてエドガー先生の弟子扱いになってますけど、だからこういうこと聞くとアホみたいなので聞きたくないんですけど聞かないと話に入れないんで恥を忍んで聞きますね。そもそも妖精郷ってどうして出現するんですかね」
「妖精郷は突然現れる訳じゃないようですね。いつでもすぐそこにあるんです。それが何かのきっかけでこちらの世界と繋がってしまうと、妖精派では考えています」
「じゃあ何で年に一度とかなんです? 今みたいにバンバン繋がってもおかしくはないわけですよね。周期的に起こるって事は、何か理屈がある、みたいな予想はついているんでしょう?」
「さすが、カイくんは
ライールは懐から折り畳まれた紙を取り出した。黄ばんで所々破れているのは、何度も開いては閉じしたからだろう。テーブルの上に広げると、それは今年の暦だった。
「どうやら暦と関係があるようなのです。以前は周期的に秋頃現れていました。夏至と秋分の間くらい……そう、十一月一日付近。教会で言う
「祝日と妖精郷に何の関係があるんです? 信徒はその日ミサに行くって言うじゃないですか。むしろ聖人の神聖な力で守ってもらえそうな気がしますけど」
「実はこの日はもう一つの祭日と関係がありまして。ちょうどこの時期は古いアイルランドの年末年始と言われています」
エルニカにとっては年末と言えば
「昔のアイルランド人ってのはせっかちだね。それじゃあ十二月末まで二ヶ月もどうするんだか」
「まぁ、暦と言っても人間が勝手に作ったものですから。どこを『始まり』とするかは暦を作った人次第ですね。ただ、基本的に太陽や月の動きを基準とするので、春分や秋分、夏至や冬至は普遍的に重視されます」
ライールは暦のそれぞれの日付を指さした。既に丸印が描かれている。
「そして十一月一日、この日はちょうど秋分と冬至の中間点ですから、日付としては切りが良い。収穫や種まきも終わる時期ですから、農事歴として考えるとこの先、特に畑仕事はしないわけです。そう考えると、農作業の終わり……つまり年の終わりと考えるのでしょうね」
ライールは暦の六月末と十二月末のあたりを交互に指さした。
「夏至は太陽の力が最大になります。そして冬至に太陽の力が最小になるわけですね」
次に、九月末と十二月末の間で指を交互に動かす。
「秋分は昼と夜がちょうど同じ時間になる……つまり太陽の力も一年の間でちょうど中間に当たるわけです。と言うことは秋分から徐々に太陽の力が衰えはじめるのですが、この万聖節の頃には太陽の恩恵が減り始めると考えられたのでしょう。光の時期が終わりを告げ、闇の時期が始まる――光と闇が入れ替わる時期。だからでしょうか、この頃に死者の世界から亡くなった親族が帰ってくると信じられていました。収穫を祝い、先祖を迎える。この時期は古アイルランド人にとって重要な祭日なのですね。今の万聖節の前夜祭はそのころの名残だと考えられます」
ライールは暦から指を離し、顔を上げた。エルニカの目を見つめる。
「この祭日を古アイルランド人はサワンとか、サウォインと呼んだようです。サウォインには死者が冥界から帰ってくると伝えられていますが、一緒に悪霊も異界から現れます。これは遙か昔から、この時期に妖精郷が出現していたという事なのではないか――と妖精派では考えています」
――サウォイン。エルニカはその言葉をどこかで聞いたことがあるような気がした。どこでだったかうまく思い出せない。一度ならず何度か聞いたことがあるような――
――我が名はサウォインの憧憬――
「ああ、婆さんの二つ名か!」
「ええ、コルネリアの異名もここから取られています。彼女はこの時期に自然に起こる現象と同じ事を魔術で起こせますから。毎年サウォインの時期になると儀式的な魔術の実験をしていますしね」
ここまでの説明を聞くと、妖精郷頻発事件の容疑者としてコルネリアの名が挙げられる状況証拠が揃いすぎている。たとえ犯人でなくとも疑われるのは無理もないと思えた。
カイは難しい顔をしていたが、考えがまとまったのか、ライールに質問を浴びせた。
「ライール先輩、妖精郷の出現が太陽の周期と関係があるのなら、やっぱり今の頻発現象に合理的な説明が出来ませんよね。だからこそ妖精派の方々は調査しているんだと思うんですけど」
「それは僕もまだうまく説明できません。エドガーは何か仮説を持っていたようですが」
(太陽の周期……)
エルニカはふと気になり、ライールの暦をじっと見つめた。エドガーの残した記録によれば、最初の妖精郷の増加は年に四回だった。もしや夏至や冬至と関係あるかと考えたのだ。
しかし記録とそれら四つの日付は全く一致しない。ほとんど一ヶ月半ものずれがある。
(一ヶ月半のずれ……?)
万聖節は秋分の日から一ヶ月半ずれている。そこで、エルニカにはあるひらめきが浮かんだ。
「あの、先輩。気になったんですが。サウォイン以外にそういう祭りはあるんですか」
「ええ。冬至と春分の中間にイムボルグ、春分と夏至の中間にビョールティナ、夏至と秋分の間にルーナサーという祭りがあります。
ライールはそれぞれの日付を暦の上で指さした。エルニカは思い出す、最初に妖精郷が増加した四つの日付……。
「先輩、分かりましたよ。妖精郷の出現が増加したのは、古アイルランドの祭りの日じゃないですか?」
エルニカは参考にしていたエドガーの研究書簡を引っ張り出してきた。
「ほら、見て下さい。五年ほど前から、祭りの前後に妖精郷の出現があります。五年前はまたサウォインだけになってますが、三年前には出現回数が八回に増えてます。これは……四節季と四大祭です」
「ご明察じゃ」
しばらく沈黙を保っていたエドガーが口を開いたので、三人は体を震わせて驚いた。
「せ、先生、起きてたんですね……。ずっと黙っているので寝てしまったとばかり」
「エルニカよ、よう気付いた。成長したのう。知識を知恵に変えたという事は、これまで学んだことがお前さんの身になってきたという事じゃ。食べたもので体が作られるようにの」
エドガーは正気に戻っていた。ライールの訪問があると正気に戻ることが多くなるのだった。
「ライール、久しいのう。ようやく頭の中の霧が晴れたわい」
「お久しぶりです、エドガー。貴方は随分前にこのことに気付いていたのですね。他の
「その前に身嗜みを整えさせてはくれんか。どうやらまた粗相をしてしまったようじゃ」
エドガーは、自分の胸に巻いてあるエプロンから衣服にかけて、スープが食べこぼされているのを発見してうんざりしたような顔になった。
「カイくんにはいつも迷惑をかける」
「先生、それは言わない約束です。僕は先生が貯めていた研究資金で毎日ご飯食べてるんです」
エドガーが別室で着替えてくると、すっかり雰囲気が違っていた。半袖に肩から薄布をかけた姿は、如何にも賢者という出で立ちで、どこか古代の哲人のようにも見える。その目には力が戻り、理知的な光がともっている。
「さてライール、先ほどの質問に答えよう。わしも四節季と四大祭の日付が鍵じゃと考えた。妖精郷の出現は、五年前に四回、三年前は八回。ここまでではまだ確信が得られていなかったが、一昨年も同時期に八回。もうこれは間違いないと思うた。わしの記録を見ていたとは言え、これに気付いたエルニカは大慧眼じゃな」
エルニカは自分一人でエドガーの考えに追いついた事を驚くとともに、誇りに思った。
「当然わしも
「ど、どうしてですか?」
せっかく辿り着いた答えをひっくり返され、エルニカは落胆した。
「エルニカ、去年と今年の記録を勘定に入れなければならん。昨年の秋からは、この八つの日付とは全く関係のない時期に妖精郷が出現するようになってしもうた。最近では『
そう言えばそうだったと、エルニカははっとした。良い思いつきだと思っていたが、自分の体験したはずのことを、まるで無いものとしていた。
「机上の空論じゃった。まぁ、今のわしには、それしかこねくり回せないのじゃが……」
結局袋小路に至ってしまい、エルニカのやる気は大変損なわれた。そもそも誰かの後をつけるか、『入口』付近しか調査していないのだから、煮詰まるのも不思議ではない。そこへようやくまともな研究から答えが導き出せると思ったところでこれである。
最早エルニカには、妖精郷の奥深くまで調査するほか道はないように思われた。
「ライール先輩、僕を次の調査に連れて行ってはくれませんか」
ライールは少し驚いたような顔をして、それから微笑んで言った。
「それは……やめておいた方が良いでしょう」
「何故です、僕が半人前だからですか? 確かに足手まといかも知れませんが、ライール先輩はかなり長期間妖精郷を調査しているんでしょう? 熟練の探究者のそばにいれば危険は少ないでしょうし、手伝える事は何でもします」
「いえ、私は別に熟練というわけではないんです。単に体質の問題なのですよ。以前も話したでしょう、僕の体は汚染によって、徐々に若返っている」
若返りが調査にどう有利なのか分からず、エルニカは首を傾げた。ライールもどう説明したらいいか考えている様子だったが、そこにエドガーが助け船を出した。
「ライールの汚染は若返りというより、肉体が時間を遡っていると考えた方がよかろう」
エドガーは食事用のナイフを取り上げた。
「例えば、わしが今このナイフで指を切ったとする。さて、一分前のわしのことを考えてほしい。一分前のわしは指に怪我をしているか? そんなわけはない。さて、ライールの体は日々刻々と一分前の肉体、十分前の肉体と、時の流れを後ろ向きに歩いておる。そんなライールは、妖精郷で汚染されるじゃろうか?」
「汚染されたとしても、汚染される前の肉体に戻る――と言うことですか?」
「ご明察じゃ」
「えっ、先生、それだとおかしくないですか?」
カイが横から口を挟んできた。目が輝いている。こういう議論が好きなのだろう。
「記憶はどうなるんでしょう。覚えたことを段々忘れるんじゃないですか? 血の巡りはどうです、逆流するんですか? 時間が遡るっていうのがどういうことかうまくイメージできないですけど、常に一分経つ毎に、肉体の状態が一分遡るという事はそう言う事じゃないですかね、エドガー先生みたいに『カカシ君、昼ご飯はまだかのう』となるのが自然ではないかと」
さらりと失礼なことを言ったが、慣れているのかエドガーはそこには触れなかった。
「そこがライールの汚染の不思議なところでのう。それについては未だ合理的な説明が出来ん」
「いずれにせよ、エドガーが説明したとおり、僕は恐らく成長を遡りきるまでは汚染を受けません。怪我もすぐに治ってしまいます。だからかなり長期間、妖精郷の調査が出来てしまいます。それに普通の人をつき合わせるのは酷でしょう」
「エルニカ、妖精郷の調査は妖精派の魔術師に任せておくが良い。何も若い君が汚染の危険を冒すことはない。……ところでカモ君、飯はまだかのう」
「さっき食べましたよって、ああ、戻っちゃいましたね。先生、もうすぐ出来ますから、その間に夜着に着替えておきましょう、いえ、時間を効率的に使うためです。決してご飯のことをうやむやにしたいわけではないですよ。すみませんエルニカさん、ライール先輩、僕は先生が
エルニカのツテというツテはこれで使えなくなった。エルニカが落胆を隠さずにいると、ライールはエルニカの肩に手を置いた。
「エドガーの言う通りです。行く必要がないのなら行かないに越したことはありません」
エルニカには行く必要があるのだ。少なくとも彼自身はそう思っている。
「じゃあせめて、先輩が調査してきたという妖精郷の事を教えて下さい」
「それくらいならば、喜んで」
エルニカは、ライールから話を聞きながら、質問の仕方でうまく会話の流れを誘導し、妖精郷調査の心得や、調査の観点を聞き出した。
エルニカは次の日から妖精郷の奥まで単独調査をすると、腹を決めた。
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