第14話 女子さんはゴブリンと仲がよろしいようで?

 



 これも一種の感動の再会と言えるのだろうか? まあ、別にこっちは会いたいだなんて微塵も思ってもいなかったんだけど、相変わらず運命さんは俺に厄介ごとを押し付ける気満々のようだ――おっと。


「えーと、こんなところで何してるの? ゴブリンと一緒に優雅な朝ご飯でも食べてたの? 実は仲良しさん?」


 疑問を投げかけながらゴブリンの棍棒を避ける。ステータス由来の速さがあろうと、技量の伴っていない単純な振り下ろし。それを左右へのステップを入れて狙いを錯乱し、惑った隙に最後の個体を斬り捨てた。やはり馬鹿だ。

 迷わなければ良かったのに。俺より力も強くて頑丈なくせに、中途半端にその貧相な頭で考えようとするから結果的に遅くなる。せっかくの強みが殺される。


 脳筋は脳筋らしく、脳死して本能のままに戦えばよかったのだ。


 気付けば周囲には死屍累々とゴブリンの死体が倒れ、屍山血河の如く積み重なっていた。バクンバクンとこれまでの酷使に抗議する心臓を宥めるよう息を吸えば、濃密な血臭が溶け込んだ霧が肺になだれ込んでくる。うーん、空気が不味い。


「空閑、くん……? なん、で……どうして……?」


 と、そこで蚊の鳴くような掠れた声がかけられる。

 視線を向ければ、ボロボロで薄汚れた制服姿のクラスメイト達が、あり得ないものでも見たかのような表情でこちらを見つめてきていた。地味に傷つく。


 そう、それこそ幽霊でも発見したかのような眼差し……って、もしやこれも【憑依】の仕業なのか!? おのれ!


 違うよー、俺ちゃんと生きてるからねー? 生身の人間だからねー? ついでに影も薄くないよー?


 数は……えー、ひのふのみで……五人? 全員が女子さんだ。


 それにしても、本当にどうして彼女たちはこんな早朝にこんなところに、しかも少人数でいるのだろうか? 三十人くらいいた残りのクラスメイト達は何処に?


 はっ……ま、まさか彼女たちは他の皆には内緒でゴブリンたちと口では言えないような遊びをしていたのだろうか!? 朝帰り!? レッツパーリィーとか言いながら非行に走ってたの!? キャッキャウフフと見せられないよな大人の階段を駆け上がってあんなことやこんなことをゴブリン相手に実戦で実践しちゃって――


「ねぇ、何か言ってよ! どうして空閑くんがこんな場所にいるの!?」

「ん?」


 俺が未成年お断りな想像の翼を羽ばたかせていると、先頭でへたり込みながらも皆を庇うような位置取りをしていた一人――クラス委員長だった女子が攻撃的な口調で詰問してきた。どうやら機嫌が悪いらしい。

 やはり俺が乱入するまでゴブリンたちと楽しく戯れていたのだろうか? お邪魔しちゃったの? くっ、なんて羨まけしからん成敗だー! って、既にゴブリンの方は成敗しちゃってたよ! 皆殺しで一匹も残ってないよ!


 ぐぬぬ……っ! 胸の内にやり場のないどす黒い感情が……仕方ないので、これは後で別のゴブリンに晴らすとしよう。八つ当たりだ!


「どうしてって……食後の運動?」

「……………………は?」


 首を傾げながら答えれば、間の抜けたような顔で唖然と呟かれた。何故に?


「いや、健康で文化的な生活には、日々の適度な食事と睡眠に運動が欠かせないんだよ? それはもう憲法で保証されてるんだから間違いないんだって。だからまあ……ってみた?」

「…………………えぇー」


 どうやら理解は得られなかったようだ。解せぬ。


 まったく嘆かわしい限りである。近頃の若者の生活習慣の乱れは伝え聞く以上に深刻なようだ。風紀も乱れてるし? せっかくのご近所さんなのだから俺も誘ってほしかったのに……あれ、もしかしてハブられてたのかな!?


 気付いてしまった可能性に愕然とするが、そう言えば思い返してみても彼女たちとはまともに会話した記憶自体がなかった。そりゃあボッチですから、女子との接触自体が皆無に近いですしおすし?

 なお、馬鹿は女の子と認めないものとする。アレを異性にカテゴライズしたら全国の女性陣から非難轟々だろう。うん、だって生態が野獣だし? 何より色々と物足りないし?


 瞬間、察知スキルに新たな反応が――って、ヤバい!? パターン赤、激高状態ゲキオコです!


 見通しの悪い樹々の隙間を影が走り、憤怒の咆哮が白霧を震わせる。悪夢の体現者にして恐怖の狩人が、目にも留まらぬ速さで一直線に襲い掛かってくる――そう、足を止めたせいで馬鹿に追い付かれたのだ!


「りぃぃいくぅうううううんんッッ!!」

「ふぎゃあぁぁああぁあああっ!?」


 真っ先に急所たる頸部に回された腕に、頭部に走る鋭い痛み。唾液に塗れた鋭利な歯が髪を掻きわけ皮膚に食い込む。うん、端的に言って齧られたんだよ? 滅茶苦茶痛いな。


「フカー! フカーッ! フシャーッ!」

「うぇ!? そ、染園……さん、だよね? 怒り狂った野良猫みたいな唸り声上げて齧りついてるけど、間違いなく人間だよ……ね?」

「いやいやそんな冷静に首傾げて状況を分析してないでひとまずこのチンチクリンな野獣を外し(ガブゥ!)――にぎゃぁぁぁ!」




 ――その後、何とか『ニンゲンヤメマシタ?』状態の馬鹿を、あの手この手で宥めすかして人の理性を取り戻させることに成功した。ありがとう、委員長……。





          ◇





 ひとまず立ち話もなんだという事で、委員長たちを俺の寝床に案内することになった。まあ、正確には寝床の目印になっている大樹が立っている場所だが。

 清く正しい男子高校生な俺は、同級生の女子を不用意に部屋にあげたりしないのだ。なお、馬鹿は(ry


 聞いてみると彼女たちはまだ朝食を取っていないようなので、近場で採れた茸や木の実をご馳走してみる。意外にも大好評だった。こんなに不味いのに?

 疑問には思ったが、俺は細やかな心配りが出来る男子なので、喉を詰まらせないよう錬金術で作ったお水もセットで提供してみる。どこぞの人を呼び出しておいてお茶も出さない根暗な引きこもりとは違うのだよ。


「――んで、委員長たちはあんな所で何をしてたの? やっぱりゴブリンたちと秘密の逢瀬中で、秘められた情事中だった? わくわく?」

「な、ん、でっ、よりによってそんな考えになっちゃうの!? 違うから! あと染園さんも信じないで! そんな驚いた顔しないでよ!」


 しばらく無言での食事が続き、ようやく彼女たちが一息ついたところで問いかけると突然委員長が絶叫した。あれ、違ったのかな? でも顔が真っ赤だし、きっと恥ずかしがって公言できないだけなのだろう。

 大体、年頃の女の子って人には言えない関係とか背徳感とか大好物だし(偏見)? 禁じられた恋とかの方が燃え上がるんだよね、俺知ってる。なお(ry


「うんうん、大丈夫だよ委員長。趣味って人それぞれだから、俺は頭からは否定しないよ? でもできれば親御さんのことも考えてあげてね?」

「全くこれっぽっちも信じられてない!? とにかく違うんだってばー!」


 優しくポンポンと肩を叩いて穏やかな笑みを浮かべながら肯定してあげると、委員長は頭を抱えて恥ずかしがっていた。耳まで真っ赤になっている。どうやら自分でもゴブリンフェチは特殊性癖だという自覚はあるようだ?

 何故だか残りの女子さん達からジットリとした半眼が向けられるが、君たちもお仲間さんだよね? と思った瞬間に視線に殺気が篭った! 怖っ!?


 仕方がないので話を変えてみる。どうして彼女たちがこんな場所に少人数でいたのか、俺たちが抜け出した後にクラスメイト達に何があったのかを――だって本人たちがメッチャ語りたそうな顔してたし?


「えっと、実は――」


 遠慮するようでいて、その実『待っていました』と言わんばかりに威勢よく委員長が口を開く。やはり女子さんってお喋りが大好きなんだなー。


 それによると彼女曰く、委員長たちはあの集団を追い出されたらしい? 本人たちは逃げてきたと主張しているが、本質的にはどちらも変わらないだろう。


「あの後、何とか混乱する皆を落ち着かせることは出来たの。けど、どうすれば学校に戻れるかもわかんないし、こっちには寝る場所も食べ物も着替えも何もないでしょ? みんなで話し合っても建設的な意見なんて一つも出てこない上に、一部の男子たちは興奮してて会話にすらならなかったし!」


 委員長が語る。ひとまずの安息を得て張りつめていた精神が緩んだのか、まるでマシンガンの如く当時の様相を愚痴交じりに吐き散らす。

 ちょっと珍しいって言うか、どんな状況でも泰然自若とクラスメイト達を取りまとめていた彼女らしくない姿だ。


 きっと色々と大変な目に遭ってストレスをため込んでいるのだろう。だからゴブリン相手に非行に走っちゃったのだろうか? 何となく精神安定剤代わりに火で炙った茸を追加で差し出しておく。


 結局、一時は冷静になったものの、それが逆に自らが置かれた現状を正確に理解することに繋がってしまったのだろう。話し合いの途中で一部の気弱な女子生徒たちが号泣し始めた。

 それに釣られるよう、今度は男子の一部……って言うか、オタクどもと不良どもがイキがり始める。きっと異世界転移でチートでテンプレな状況にテンション上がっちゃったんだよね、わかるよ。


 とにもかくにも、せっかく委員長たちがまとめた集団は、またもや儚く瓦解することになった。

 どうやらラノベやネット小説によく出てくるような、圧倒的なカリスマで周囲を統率する勇者クンはウチのクラスにはいなかったようだ。残念。まあ、委員長もよくやった方だとは思うよ。


 玩具で遊ぶ子供のように、好き勝手にチートスキルを振り回す男子たち。中にはその力を盾に女子へ半ば強引に迫るような輩もいたようだが、普段ならその行いを注意できる委員長らもチートスキルに委縮して行動を起こせなかったらしい。


「大体なんなのよ、スキルとかステータスって! 私そういうゲームとかやったことないし、本とかも読んだことないもの! 守ってやるとか言われても意味不明だし、何より目つきがいやらし過ぎだから! 安心できないから!」

「あー……うん。まあ、委員長みたいな真面目さんには縁遠い知識ジャンルだよね、そういうのって」


 腹いせのように咥えた茸をガジガジと乱雑に齧りながら、委員長様が理不尽と男子への憤怒を込めた眼差しでそう仰られる。

 うん、そいつらには幾らでも怒ってくれていいんだけど、その目を俺に向けないでね? 怖いんだよ? 馬鹿もビビって震えながら俺の背中に隠れてるし、きっと彼女の後ろに夜叉とか般若を見ちゃったのだろう。もしかしたら阿修羅かもしれない。


 そしてその後、集団での騒ぎを聞きつけたのか何処からか現れたゴブリンたち。

 それをオタクと不良たちがチートスキルを用いて倒してしまった事で、クラスメイト間における力関係が決定づけられたらしい。


 すなわち、異世界転移こういったことに知識と親和性があって戦う力を有していたオタクたちや不良たちの層と、それ以外の真面目さんたちの層へと。生徒序列クラスカーストの逆転だ。

 ついでに、もはや言わずとも察せられるが、この委員長を含めた女子さん五人は戦う力を持たない後者に属しているようだ。


 以降、クラスメイト達の集団は一部の戦闘力の高い者たちが、残りの者たちを率いて差配する……言い方を変えれば支配するような形で生活していたらしい。


 ――が、少しばかり引っかかったので聞いてみる。


「そこ疑問なんだけどさー、なんで委員長たちはチートスキル要求しなかったの? いや、持ってるんだろうけど戦闘には使えないのかな? どっちにしろ、せっかく事前に尋ねてくれたのにチョット不用心じゃない?」


 異世界に召喚される直前、俺たちは一度あの暗黒空間で『声なき意思』に問い掛けられた。どんな力が欲しいのか、どんな願いを持っているのかと。

 破滅とか崩壊とか救済とか生贄とか、あれだけ散々に物騒な前置きを繰り返された上での問いだったのだ。いくらその手の文化に馴染みがなかろうと、護身のための手段くらいは求めてしかるべきだろう――と、思っていたのだが。


「それってもしかして、あの頭の中で直接響くような叫びの事? あんな途切れ途切れの上に支離滅裂な状態だったのに、何を伝えたいかなんてわかる訳ないじゃない。かろうじて望みを叶えてくれるってことだけは理解できたけど……それで戦うための力を要求するなんて無理よ」

「ん、んんんー? そうなの? わからなかったの?」


 眉間にしわを寄せ、憮然とした表情で反論する委員長に疑問を抱く。他の女子さんたちにも目線で問いかけてみるが、返ってくるのは肯定の頷きばかりだ。

 念のため、未だに人の背中に隠れている馬鹿に聞いてみても、理解できたのは精々『願いを叶えてくれる』ことと『謎の焦燥感』くらいだそう。


 それ以外の部分については全員が、まるで砂嵐で掻き消されたように、あるいは使用している言語からして違うかのように、どう頑張っても聞き取ることが出来なかったようだ。


 となると、個人によって受け取れた情報量に差があった?


 …………あー、なるほど。だから馬鹿も委員長たちも他のクラスメイトも、皆こんなに呑気でいられるのか。

 そして、恐らく俺が一番多くの情報を得られたのは……アレが原因だよなー。微妙に気に喰わないけど。


 まあ、納得はした。以前から色々と疑問に感じていたことが解決したのならば、委員長たちとの再会にも一応のメリットはあったみたいだ。まあ、別に大したことじゃないけど。俺のやる事には変わりない。


 なにより、そんなどうでもいい事よりも――


「そんな訳で、あの男子たちと一緒だと身の危険を感じるし、何より戦えなくて日に日に邪魔者扱いされて居心地も悪かったから、それならいっそのこと……って、みんなで逃げ出してきたの」

「うんうん、なるほどなるほど…………それで?」

「それでって、他に何があるの? 私たちの事情は全部話したわよ?」


 続きを促してみるが、委員長は不機嫌そうに眉根を寄せる。これ以上語ることはないのだと主張する――けど。


「いやいや、まだ肝心の説明が抜けてるんじゃない? まだ何かあったと思うんだけどなー?」

「「「…………」」」


 その言葉に委員長が固まった。いや、彼女だけじゃない。他の女子さんたちもみんな身動きが止まる。

 もしかすると隠そうとしていたのかもしれない。彼女たちが危険を承知で逃げ出す羽目になった理由の根幹、これまで意図して明言を避けていた決定的な出来事を。


 一部の男子が高圧的で傲慢になった? なるほど、確かにそれもあるだろう。幾らか言葉を濁してはいたが、もっと露骨に身体の関係も迫られていたのかもしれない。


 戦う力がないから邪魔者扱いされた? それはそうだ、こんな危険地帯で足手纏いを庇いながら生き抜くほど大変なこともない。


 けれど、それだけでもないはずだ。今日で異世界に来てから早くも一週間経った、されど一週間しか経っていないとも言える。目に見えて地雷だらけの集団だろうと、何か重大な理由がない限り仲間割れには些か早すぎる。

 それを彼女たちの口から説明されない限り、俺が彼女たちに気を許すことはあり得ない。


「な、何のこと? 私たちはただ増長した男子たちの、やり口に我慢でき、で、ぇっ――っ!?」


 鋭い眼光で射抜く。虚偽黙秘は許さないとの意思を込めた視線に、言葉を詰まらせながら委員長は弁解しようとし――喉を詰まらせる。

 驚いたろう。だって自身の意思じゃないんだから。彼女は目を見開きながら首に手を当てようとし、その手すらも満足に動かせない事実に愕然としている。


 うん、さっきから彼女たちにご馳走してた食べ物って、実は全部毒持ちなんだよ?


 一つ一つは気付けないほど微弱なもの。だけど複数ある種類を組み合わせて、さらに大量に摂取すれば確実に身体の動きを封じる弱い弱い麻痺毒。何か使い道はないかと確保していたものだ。


 だからさっき言ったよねー、不用心だって。


「信用できるはずないよね? だって、もしかしたら今まで喋ったこと全部嘘で、あの集団から追放されるだけのヤバい事しでかしてるかもしれないんだから。と言うか、隠し事するならもっと上手く隠せよ?」

「っ!?」


 ついにはバタリと糸の切れた人形のように地面に倒れる女子さん達。そんな彼女らを見下みおろしながら、見下みくだしながら問い詰めれば、驚愕したように一斉に息を止める。


 無条件で庇ってくれると思っていたのだろうか? 自分たちがか弱い女の子だから、守られても当然だと信じていたのだろうか? 甘い甘いよ甘すぎる、チョコレートを煮詰めてシロップとハチミツを混ぜた後に砂糖を山盛りかけたくらいに激甘だ。


 こんな異世界だ、誰がどんな風に変わっていたとしても不思議じゃない。

 まさか全員が口を噤めばバレないと、誤魔化し切れると本気で考えてた? この世界にはスキルがあるんだよ?


 【感応】――本来は『外界からの働きかけによって心が深く感じ入る』ことを意味する言葉だ。

 要は感性が豊かになる。些細な仕草や立ち振る舞いの変化から微に入り細を穿ち、隠された本質を見抜く洞察力、直感的な理解力をもたらす……と、良いなと思ったので【言語翻訳】さんにお願いしてみた。うん、またお得意の誤用と曲解だ。


「わ、っ……わた、し、たちは……なにっも、わるく……ないっ!」

「うんうん、悪人って皆そう言うんだよ? まあ悪くなくても言うんだけど? 相互理解コミュニケーションって難しいよね?」


 その答えにギュッと唇を噛み締めた委員長が、縋るようにこの場の最後の一人である優奈に視線を送る……が、無駄だって。まるでゴミを見るような目で眺めている。

 だって、俺よりも先に委員長たちの秘密に気づいたのがこの馬鹿なのだ。さっきから一言も委員長たちと口きいてないよね? 警戒してるんだよ?


 野生の嗅覚の前には隠し事なんて無意味なのだ。うん、他ならぬ俺が一番体感しちゃってるのだ!


「それで、これからどうするの、りーくん?」

「どーしよーかなー? 委員長たちってゴブリンと仲がいいみたいだし、彼らに引き取ってもらうのも手だよね?」


 俺たちのやり取りに、サッと顔から血の気が引く女子たち。

 そりゃあ、彼女たちも実際にゴブリンを間近で目にしたことがあるし? 女性が彼らの前に引きずり出されることの意味も理解できているだろう。あいつら薄い腰みのしか身に着けてないから、反応すると一発でわかっちゃうのだ。


 これは脅しだ。けれど、本気の脅しでもある。

 これ以上の欺瞞を続けるようであれば、問答無用で斬り捨てるというこちら側からの意思表示だ。


「まっ、て……くだ、さい! わたっし! しゃべり、ますっから! まっ、て……っ!」


 そして、それが誤解の余地なく伝わったからだろう。

 必死に声を上げたのは悔しそうに俯く委員長ではなく、今までその後ろで縮こまっていた女子の一人であった。



 

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