第11話 時間とは知らぬ間に過ぎ去っている

 






























 ――――――…………………馬鹿。





          ◇





 目が覚めました。超頭痛いです。


「う゛あ゛ぁぁぁ…………」


 口からゾンビのような呻き声が漏れた。頭痛が酷い。気持ち悪い。吐き気がする。死にそう。ここは何処だ? でも死んでない。生きてる? 辛い苦しい。どれだけ寝てた? 馬鹿はどこにいった?


 思考にまとまりがなく、夜空に消える流星のように取り留めのない単語が現れては別の単語に塗りつぶされる。


「っ…………はあ……すぅ…………」


 調息、乱れた呼吸を歯を食い縛って正す。とっ散らかった脳内を一つにふん縛って整理する。

 吸って吐いて吸って吐いて、規則正しい調子リズムを作る。しばらく意識して一つの物事に集中しているうちに、どうにか最低限の判断能力は取り戻せたと思う。


 しかし夢でもみていたのだろうか? 眠っている間、何かに長い事話しかけられていた気がする。あくまで気がするってだけだが、何故だか最後に馬鹿にされたのだけは覚えていた。うん、ボッチって自分の話題には敏感な地獄耳さんだからねって煩いよ!


 身体を起こす。いや、起こそうとして失敗する。どうしようもなく身体が重く動かしづらかった。首のあたりで神経が断線しているみたいに反応が鈍い。

 仕方ないので立ち上がることは諦め、周囲の観察に勤める。土肌の剥き出しになった狭苦しい穴倉……うん、これ俺が作った寝床だわ。


 戻ってきちゃったの? せっかく進んだのに? スタートに戻るマスでも踏んじゃった?


 と、そんなことを考えていると外から弾丸のごとく馬鹿が飛び込んできた。飛びかかって飛びついて飛び乗って号泣中だ。


「ぅう゛え゛えぇええええぇええっ! り゛ぃぐぅうんんんん!」

「ああ、うっせぇ! 泣くな喚くな抱き着くな!」


 人の話も聞かずに延々とエンエンワンワン騒ぐせいでグワングワンと頭の中が反響して気分が悪い。愚者がグシャグシャな顔でグシャグシャになるほど制服を握り締めてきて、無理やり引きはがそうにも身体は重いし馬鹿も重いしで目覚めて早々ロクなことが無かった。


「だっでぇ、だっでぇ! りぃぐん二日も目ぇ覚まさながったがらぁ!」

「え……マジすか?」


 何度も子供のように……って見た目まんま子供なんだが、とにかくコクコクと幼子のように喉を詰まらせで頷く優奈。驚愕の新事実が発覚してしまった。


 だがまあ、それならば納得だ。きっとこの馬鹿はお腹が減っているのだろう。だって食料と水の確保は全部俺がやっていたのだから。

 赤ちゃんは泣くことで空腹を親に訴える。そしてこの馬鹿の知能は赤子と同レベルだ。つまりこいつはお腹が減っているから泣いているに違いない。完璧な証明だ。Q.E.D.だ。


 しかしあまりにも鬱陶しかったので、いい加減泣き止めと錬金術で水を作ってぶっかけてやる。少しは落ち着けって言うか鼻水擦り付けんじゃねぇ。汚いな?


 ……が、何か変だ。どうにも違和感があるというか、そもそもの『手応え』が違う? まあ、どうせレベルアップで変わったステータスやらスキル辺りが犯人なんだろうけど。

 ぶっ倒れたとはいえ最後にかなりの大物を倒しているので、少しだけ胸を躍らせながら俺はステータスを表示させる。


「ステータス」



――――――――――

名前:空閑 律樹

種族:人族?

職業:錬金術師Lv15(8up)/$%??%


HP:42/146(67up)

MP:3/17(2down)


Str:97(45up)

Vit:84(36up)

Int:200(111up)

Min:231(134up)

Dex:169(85up)

Agi:142(67up)

Luk:82(41up)


技能:

【剣術Ⅰ(new)】

【見切りⅡ(new)】【回避Ⅰ(new)】【調息Ⅰ(new)】

【錬金術Ⅵ(3up)】【暗黒魔法Ⅱ(up)】

【火魔術Ⅱ(new)】

【魔力操作Ⅵ(4up)】【魔力回復Ⅲ(2up)】【魔力察知Ⅱ(new)】

【気配察知Ⅴ(3up)】【隠蔽Ⅳ(2up)】【奇襲Ⅳ(2up)】

【高速思考Ⅲ(new)】【並列思考Ⅰ(new)】【分析Ⅱ(new)】

【回復Ⅱ(new)】【苦痛耐性Ⅵ(new)】

【料理Ⅴ(3up)】【速読Ⅶ(3up)】【記憶術Ⅵ(3up)】

【素材鑑定Ⅴ(up)】【言語翻訳Ⅹ】

【憑依Ⅳ(2up)】【感応Ⅱ(up)】


称号:

《異世界転移者》《*#%?&=》《%&&!?@》

《鬼殺し(new)》《理の閲覧者(new)》

――――――――――



 ………………あー、うん。

 なんだろう、色々と上がったり増えたりしているが、まず言わせてほしい。


「なんでレベルが上がったのに魔力が減ってんだよっ!?」


 馬鹿な、おかしいあり得ない、理不尽だ不条理だ非合理的だ。もはや世界の方が間違っているとしか思えない。だって相変わらず表示が一部バグってるし、種族には疑問符がついたままだし。

 挙句に【憑依】が二つも上がってる……あれか? もしかして俺は寝ている間に幽体離脱とか経験しちゃってたのか? 三途の川を渡ってたの? 危ないな!?


 【暗黒魔法】の方は……まあ馬鹿相手に使っちゃったし? 仕方ないって言うかギリギリに渋々と嫌々ながらやむを得ず受け入れられなくもない、かな? みたいな? 感じ? ………… ちっ


「えーと? ひとまずスキルを整理すると――」


 新しく覚えたスキルが、


 【剣術】【見切り】【回避】【調息】

 【火魔術】【魔力察知】

 【高速思考】【並列思考】【分析】

 【回復】【苦痛耐性】


 ――の十一個って、幾ら何でも多すぎだよ! 打ち切り間近のバトル漫画じゃないんだから、いきなりインフレし過ぎなんだって!

 まあ、真面目に考えればそれだけの経験を積んだという事なのだろう。裏を返せばそれだけ危険だったという事でもあるが。


 【剣術】【見切り】【回避】については特に言及することなし。むしろこれまでの経験で覚えていなかった方が遅いと言える。だってメチャクチャ石剣振ってたんだよ? ゴブリンの棍棒とか避けまくってたよ? 耐久低いから当たれないんだって。

 【調息】はそのまま呼吸を整えるスキルなのだろうか? これまでも意図的にやって来た事なのだが、わざわざスキル化するようなことか?


 一番謎なのは【火魔術】のスキルだ。魔法じゃなくて魔術? 違いが判らないが、別物としてステータスに乗っている以上は何かしらの差があるはずだ。

 思い当たる節と言えば、これは恐らく【錬金術】を経由して習得したことだろうか? うん、同じ繋がりで関係がありそうだ。


 【魔力察知】も特に気になる点はない。これまで以上に魔力を通して周囲の状況が察せられるっていうか、ホントにいつまで人の上に乗っているつもりなのだろうかこの馬鹿は? あっ、こっそり人の服で鼻をかむな!?


 三つの情報系スキルである【高速思考】【並列思考】【分析】に関しては、明らかにアレが原因だろう。うん、錬金術が下手人だ。

 そもそもこれくらいのサポートが充実してないと、四大元素による物質変換なんて本来は手を出してはならないのだ。冗談抜きで情報過多で脳細胞が焼け落ちて死にかけた。


 そして、それ故に【回復】が出たのだろう。これがなければ意識を取り戻すこともなかった。今もスキルが頭の中を必死に修復している感覚がある。おかげで未だに頭痛が収まっていない。


 【苦痛耐性】は……これちゃんと機能してるの? 馬鹿による精神的苦痛が全然軽減されてないよ? いい加減にどいて欲しいのに全然どいてくれないよ? 不良報告は何処に挙げればいいのだろうか?


「既存のスキルについては……やっぱそうだよなぁ」


 今回、スキルレベルが三つ以上上がっていたのは――【錬金術】【魔力操作】【気配察知】【料理】【速読】【記憶術】、どれも最後のボスゴブとの戦いを決定づけたスキルだ。


 うん、だって今から考えても明らかにおかしいんだよ?


 【錬金術】に関してはもう諦めてるし、【魔力操作】も合わせて一番多く使ってるスキルだ。この成長速度にも納得できなくはない。

 でも、他の四つはダメだろう。そもそもなんで【料理】で相手の身体の構造がわかるの? 【気配察知】で敵の行動予測が出来るのはなんで? 【速読】で相手の情報を読み込んで【記憶術】で脳裏に焼き付けるって意味不明なんだけど?


 ふざけた使い方だ。誤用の悪用が乱用で思わず問答無用に御用されちゃうくらい、あり得ないほど仕様が間違った使用方法だ。

 けれど、それでも通用して適用されたのだ。


 ――で、あるならば。やはり理由があるはずなのだ。


 だよねー? 今回唯一レベルが上りも下がりもしてなくて、素知らぬ顔で無関係を主張してる【言語翻訳】さん? お前が実行犯スキルを唆した黒幕だ。


 噛み合わないはずの歯車を無理やりに噛み合わせた。本来の効果を強引に捻じ曲げた。俺の意志に合わせる形でスキルを通訳して解釈して矯正を強制した。だから発動した。

 意図的に本来の意義スキルと似たような単語のうりょく翻訳すおきかえることで、作為的にスキルを変質させる。要するにズルだ。


 そして、そんな風に無理強いしたからどれもレベルが爆上がりしてる。かかった負担が半端なかったのだ。


「おかげで助かったし、本来ならば感謝するべきなんだろうけどさー。なんで俺のスキルは【錬金術】を筆頭に斜め上の方向というか、どれも捻った使い方をしなきゃいけないんだろうね?」


 まさか持ってる本人が捻くれてるからとか? だとすれば制裁案件がまた増えたよ。神様とか運命とかってどこに落ちてるんだろう、今すぐ埋め立ててやりたい。


 称号も増えてるけど、《鬼殺し》って鬼も何も初日からゴブリン虐殺しまくってるよ! 思わず鬼の目にも涙ってくらい蹂躙しちゃってるよ!

 まあ、普通のゴブリンは精々が小鬼程度の大きさしかなかったし? ボスゴブは生意気にも俺より背が高かったから取れたんだろう。


 もう一つの方は本当に意味がわからない。心当たりはやはり最後のアレなのだが、それでどうしてこんな称号がついたのかが理解不能だ。


 と言うか、そもそも称号ってなんなの? 持ってたら良い事でもあるの?


「……はぁ」


 わからないことが多すぎる。それはストレスだ。

 そしてやはり引っ付いて離れない馬鹿。これもストレスだ。


 ともあれ、今は静養に勤めるしかない。身体はボロボロの上に脳はズタズタ、未だにHPもMPも回復しきっていないのだ。もどかしいな?




 …………やはり時間が足りない。



 

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