第6話 大嫌い

「ちょっと待ってくれよ、さすがはレッグ持ちって言われてるだけあるな」

「これでもあなたに合わせていたつもりです。」


完全に息が上がっているレインに対して紫の髪を持つ美少女は1つの息も切らしていない。


「運動不足なのかな…」

「そんなことはいい。なぜ、私を助けた…死喰人の癖に」


紫の美少女はその大きな瞳を弓のように細くしてレインを睨みつけた。


「レディが困っていたら助けるのは紳士として当然かと」

とレインは右腕を前にして片膝をつくように大袈裟にお辞儀をした…のだが、紫の美少女は全く無反応で、その場には風の音しか聞こえなくなってしまった。あれ?ノリ悪い人なのこの人?冷たくない?用件しか聞かないタイプの人間?うちにはもいるわ〜こういう金髪…こうなったら話を真面目な方にシフトしないと

「そ、それよりお前、存外理性はあるようだな、すぐ襲い掛かってきて、共食いでもするのかとおもったぜ」

「それは、ご期待に沿えなくてごめんなさい。なぜ私を助けたのか理由を聞くくらいの猶予は与えてあげようと思ってね」


そして、二人の間には先程までの余裕はなく、空気は徐々に張りつめていた。

「やさしさ痛み入ります。では、単刀直入に。」

レインは先程お辞儀をした時の姿勢で頭を下げこう言い放った。


「俺たちの仲間になってください!」





「…?…?????………????????」


しばらく沈黙が流れた。あれ?この人俺の言葉は耳に入らない特殊な体質な方なのかな?と思い、レインがパープル美少女をお辞儀姿勢から見上げるとレインの言っていることが理解できなかったのであろうか、口を「ぽかぁーん」と開けているパープルがそこにはいた。パープルはそれから二、三秒のうちに再起動を完了し、初めはもごもごした聞き取れないような言葉を顔を赤らめながらつぶやいていたがようやく思考が安定したのかまだ顔は赤いが、強い口調で反撃に出た。


「意味が分からない!なんで私を…私は同胞殺しなんだぞ…お前らの敵なんだぞ…」

少女は俯いてそう呟いた。

「それはわかってんだけどさ、一人だと何かと不便だろう?それに、お前このままだと死ぬぞ」

緊張した空気が流れる。風が吹くが、風は空気を運んで行ってはくれないようだ。

「お前らにか?」

少女は顔を上げ、殺意を徐々にむき出しにしていく。

「お前が、俺らに手を出すって言うなら容赦無くその心臓を食わせてもらうが、その前にお前はどっかの死喰人か人間に殺されちまうよ。お前がどんだけ強かろうと一人じゃ群れには勝てない」

レインも交戦体勢に入る。しかし、彼女の方は肩の力が抜けていて、悲しそうな顔で俯いている。そして何かを悟ような声で

「私は、人間を助けるため、今までずっと、死喰人を殺してきた。私は、人間を餌にするこいつらとは違うんだってわかってもらうために。でも、人間が好きなわけではない。むしろ嫌いだ。大嫌いだ」

紫色の髪は暗がりではもう黒に近く、その落ち着いた心に入ってくるような声によく合っていた。そして彼女は冷たく悲しそうな眼で、レインを見た。

「私は、お前たちも大嫌いだ。みんな嫌い。この世界が嫌いだ、みんながみんな自分の事ばかり、種族が違うからって、誰もお互いの事を分かろうとしない…お互いがもっと…」

「もっと分かり合おうとすればきっと人間と死喰人が共存できる世界になるはず。だろう?」

レインは彼女が言いかけたセリフを、そしてレインが思っていたセリフを彼女に合わせるよう言った。すると彼女は驚いたような表情を浮かべていた。

「ま、暗い話はさ、せめて明るいところで話すとしようぜ。とりあえず、俺らの家に来いよ。きっと目的は同じはずだぜ?」

そうレインは笑った。

「んでお前、名前なんて言うの?」

とレインは素っ気なく聞いた。すると間があってから少しして、彼女は横に垂れた髪を耳にかけながら言った。

「ミーナ、苗字はない。一つ言っておくけど、私はあなたが、大嫌いです」

そう今日一番の笑顔を見せた紫の髪は月の光に照らされてとても美しかった。






きっと、私は嬉しかったのだろう。この人がこの冷たさから救ってくれる気がして。

きっと、私は悲しかったのだろう。この人の温かさは私の過去を否定している気がして...



「私はあなたが、大嫌いです」


だから、私はこう答えた。

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rain @killk

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