第5話 同胞殺し
「や、やめて!子供だけは!どうか、子供だけは!」
その母親は泣きながら子供をかばっていた。
「こっちだって生きてくためだ!俺のガキだってもう2ヶ月も人を食ってないんだ...きれいごとなんて言ってられるか...食ってやる...二人とも...」
男は、暗く人気のない路地で後ろに子供をかばう母親の首をわしづかみにした。
「恨むならこの世界を恨め、せめて痛みのないように殺してやる」
死喰人の男はそう言い、懐から刃物を取り出した。
そして、泣きわめく子供に最後に母は
「大丈夫よ、お母さんがついてる」と微笑み、血がアスファルトをどす黒く染めた。
「わ...私...まだ生きてる...」
地面に落ちた首は女のものではなく男のものだった。
その首の傍に佇むのは、紫の髪を携えたきれいな女性だった。
死喰人の五感は、人間のそれを遥かに凌駕する。
その死喰人の五感をもってしても感知できなかった間合いからの攻撃。これを可能にした紫の髪の少女は死喰人の2倍、つまり常人の10倍の脚力を持っていることになる。それ故に、死喰人からは、レッグ持ちと呼ばれている。しかし、彼女の二つ名はそれだけではない。
彼女は人間を決して襲わず、死喰人のみを襲う。
同胞殺し死喰人はそう呼ぶ。
同胞殺しは、腰を抜かし立ち上がれない母親の傍へ立ち寄り、手を差し出す。
「大丈夫ですか?お怪我は...」
しかし、返答はなく、その母親は、変わりに恐怖と絶望が入り混じった顔で返した。
「私は、他の死喰人と違い、人間を食べることはしませんのでどうかご安心ください。この辺は、よく死喰人が現れますのでこれからは別の道をお使いください」
と、同胞殺しが立ち去ろうとした時、サイレンが聞こえた。
「そうやって、私たちを油断させて食べるつもりだったのだろうけど、もう遅いわ!もうすぐDEADが来てお前は殺される!消えろ!害虫!不必要な存在が!はははははははは!ざまあみr...」
狂気の表情で言葉を吐く母親の声は、そこで途切れた。
「お母さん。子供が聞いてるんだ。汚い言葉遣いはだめだろ~」
そこには、膝から崩れ落ちる母親を受け止める白髪の男がいた。
「お前は!」
同胞殺しは目を丸めてその男の突然の登場に驚く。
「安心しろ、坊主、お母さんは気絶しただけだ。あとお巡りさんが来たら、川の方へ逃げたって言ってくれ!頼んだぞ!」
「さあ、行くぞ!」
突然現れた白髪の少年レインは同胞殺しの腕をつかんで走りだした。
「ちょっ!」
「早くしろって、俺を殺すのは逃げてからにしろ!」
レインは強く腕を引っ張り駆け出した。
「お姉ちゃん!」
先ほどの男の子が声を張り上げて、
「助けてくれてありがとう!」
同胞殺しは、それに振り向いたが返事は返さず、
「引っ張るな、自分で走れる」
と、握られた手を放し、二人は街を背に山の中へと逃げていった。
「大丈夫ですか!」
「女性1名子供1名確認!女性の方は気を失っているだけです」
「こっちの男は死喰人です。殺されています。これは...殺され方が似ています!例のレッグ持ちがこの付近にいる可能性があります!」
死喰人を絶滅させるため国連によって組織された対死喰人特別武装組織、通称DEADが先ほどの現場に到着し、一通りの現場調査を終えていた。
「ご苦労。では、聞いていいかな少年?死喰人達はどちらに逃げたかな?」
質問された先ほどの少年は指を指し
「あ、あっちです」
指の先には橋が架かっていた。
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