第2話 日常

 激しい雨が降っていた。

「助けてくれっ!お、お願いだ!命だけ、命だけは...な、な、何でもしますから...だかr…」



 ああ、おいしい。



「食べたら行くぞ、DEADが来る」女が言う。

「ああ、あと同胞殺しも近いな」俺はそう言うと、先ほどまで脈を打っていた心臓20個ほどを保冷パックに入れ、女と共に撤収した。






 「またやられたか」

 殺された人間は全員、麻薬密売に関係していた。罪ある人間を狙って捕食する。間違いなく彼らは、他の死喰人デスイーターとは違う。だとしても、こうも無残に心臓だけえぐり取っては、かえって人間の恐怖心を煽るだけだ。そうなってしまっては、ますます、私たちのような生物が生きづらくなってしまう。



 ......そして何よりも、この人間たちの罪が人間でないものの恐怖によって軽くなるのは耐え難い。



 紫色の長い髪を携えた女は、死体を集め、ガソリンをかけた。そして、


「さようなら、地獄で悔い改めなさい」


 真っ赤に燃える港を背に彼女は急いで彼らを追った。


 彼らと話したい。彼らのやっていることは私の理想に近いのかもしれないから、彼らとなら分かり合えるかもしれないから。

 でも、分かり合えなかったときは殺してしまいましょう。



 この同胞殺しの名において。






「お帰りなさいませ、レイン様。お食事にしますか?お風呂にしますか?それとも、わ・た・s…」

「今、食べてきたばかりだ。お前とバカやってる気分じゃない」


 そう言ってレインは風呂場へ姿を消した。


「あいつはまだ慣れないんだよ、今はそっとしておいてやって」

「お帰りなさいませ、クォーレ様。麻薬組織の壊滅、ご苦労様です。ご主人様はお部屋にいらっしゃいます」

「ありがとう、アイン。あんたも休みな」


 そう言うと、金色の髪を結びなおしてクォーレは去っていった。


「では、レイン様のお背中でも流しに参りましょう」

 反省しない顔も声も無表情な黒髪メイド、アインはレインを追いかけて風呂場へと向かった。



「俺はまた...」

 シャワーを浴びながらレインは先刻のことを思い出していた。あの殺しは人間を食べなければいけない俺ら死喰人にとっては正当な殺しと言えるはずだ。罪なき者や弱き者を捕食したのではないから。でも、幸せに感じてしまう。殺しに、捕食に幸福感を得ている自分が恐ろしい...


 いつか、壊れてしまいそうで恐ろしい...



 シャワー同様、外の雨は強く地面に打ちつけられていた。まるで、なにかを非難するように...

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