第3話 嫌味な女

Sこと私の名前は『清川聖奈』


合コンで人気ある職業上位の国家資格

を有しながらも、理由あって一線は遠ざかり

今は飲食店で働いている。


オープニングスタッフである私は、レイアウトから携わり、会社の理念、方針、マナー、挨拶、接客、お客様の要望に迅速に答えるべく

真面目に勤務している。


オープンから数ヶ月して、『大島さん』が

入職した。大島さんは大らかで朗らかで、仕事覚えも早く、洞察力もあり頼れる年配のパートさんだったはずだ。

「頼もしいな」始めはそう思っていた。


ある瞬間までは…

Kこと香澄俊介が私に会いに来てからだろうか、態度が一転した。驚いたことに大島さんと俊介は知り合いだった。

いくら慧眼の大島さんでも私たちの関係は

分かるまい、ゆえに次第に勘ぐりが多くなってエスカレートしてゆく。


「清パンは、(大島んは私を清パンと女子アナみたいに呼ぶ)大事な俊介くんとどうゆう関係⁈まさか私が心配する関係じゃないわよね?」

ド直球で微塵の遠慮もない。

「弟みたいなもので、そんな全然なにも」

「当たり前じゃない、釣り合わない」朗らかさの中の棘。還暦を過ぎていても、女は女?

まぁ多分息子愛みたいな、母性的な感情なのだろう。


暫くはなにもなかった。

ある懇親会の席で、まだスピーチしている

店長を前にして、私が一足早くビール缶を開けてしまった。シンを静まってた席に『シュッパ』て音が響き渡る。クスクスっと笑うクルーをよそに大島さんだけは

「信じられないわー」と大きな声で非難した。


私に言わせると大島さんの方が信じられない、仕事中に堂々と私用電話をする、なんの断りもなく、『携帯の持ち込み禁止ですから』シフト勤務でも平気で休む、勤務中でもオヤツを食べる、人のロッカーを無断で開ける。


店長も皆知っているが、大島さんだからと言う理由でなぜか許されていて注意もされない。


ある時、外国人のお客様が来てオーダーの

説明でかなりテンパってしまった。

その日の帰り際、大島さんに呼び止められた『清パンって、テンパった時のリアクション

大きいよね、留学してたのって本当なの?まさか詐称とか?」

またも満面の笑顔。


この頃から大島さんアレルギーが出始める。


常連の男性客に笑顔で接しただけで

「ああゆうのって、どうなんだろ。私たちクルーはなんか好きじゃないのよね、不潔だから」『不潔』の部分を声を上げて強調した。そんな風に言い放たれたこともある。


大島さんは日増しにモンスターみたいに

増幅してゆく。

シフトの交替を丁重に断ると

『どうせなんの予定もないくせに」と

明け透けに言う。

LINEの返信は「○○ちゃんならすぐ返して

くれるのに 友達でいられるかしら?」呟く。もはやテレビドラマの意地悪な姑だ。根性悪の姑と言うアンケートがあったら間違いなく大島さんの名前を書くだろう。


他のクルーには挨拶して、私の挨拶は

聞こえないフリをする。そんなの気のせい

と言われても私には分かる、だって大島さんは地獄耳。


俊介に相談するつもりはなかった。2人は

知り合いのようだし、今回は彼の出る幕ではない。私の波動が乱れてるのを心配した俊介はある時さりげなく私を喫茶店に呼び出した。


手作りパンケーキで有名なここの喫茶店は私のお気に入りの店だ。席に着くと

「マロンホットケーキとコーヒー」俊介はウエイトレスに私の定番メニューを告げる。

始めは他愛ない世間話をする。

頃合いを見て俊介は

「最近乱れてるでしょ?」と正面から私の瞳を覗き込む。

「さぁ?どうかな?」惚けてみせる。

「隠すなよ、分かるって。るり子さんだろ?」俊介は大島さんをるり子さんと呼ぶ。

「うん、まぁ、少しそうかな」

「るり子さん、いい人なんだけどなー」

「ほら、俊介まで…だから言いたくなかったのに」

「違うよ、俺のこと実の息子みたいに思ってくれてるからさ」

「なんの知り合いなの?」

「俺が荒れてた頃の…ね いつもは俺から離れてくけど、今回の聖奈との関係が見えなくて

イラついてる」

「2人でなにか話したの?」不思議に思い問う私。

「あの子はやめとけって」言われた。

『どうゆう意味だ』

俊介は続ける。

「あの人も波動少しはある、俺たちほどでは

ないけど…」

「そうなんだ、ふぅん」

『どうする?」

「いいよ別に。俊介の出る幕じゃないし、仕事変えればいいだけの話」

「大丈夫か」

「いずれにせよ変える予定だったからね」

「そうか」なにかを逡巡している。


店を出て、2人で駅に向かっていると駅前で

大島さんに出くわす。大島さんは駅前でチラシを配布する布教活動の最中だった。


特に偏見はないし、そのことは知っていた。

大島さんは俊介に笑顔を向ける。私には

目もくれない。


俊介は意を決してツカツカと大島さんに歩む

「るり子さん、あんたさー、いくらそうやって布教活動して幸せ掴みとろうとしたってそんなんじゃダメじゃん。

どれだけ多くの人幸せにはしたって、だれか一人でも傷つけたり不幸にしてたらな〜んにも意味ないンだぜ」相変わらずよく通る声だ。

道行く人がなにごとかと振り返る。

「そんなことない 絶対にない」大島さんが語気を荒げ取り乱す。

「あるね… あんたは俺の大事な聖奈を傷つけた。想像以上に酷くね。それは俺を傷つけたことにも変わりないんだぜ」

「どうゆうこと?」布教活動そっちのけで地味かつ聖人の面持ちは崩れつつある。

「あんたには関係ない。とにかく、その罪かなり重いから…」

「酷い、俊ちゃんがそんなこと言うなんて

信じられない…この女のせいなの?」

「だから違うって。まぁそうやって偽善者ぶってても天国は無理だな。二度と連絡しないでくれ」

俊介の殺傷能力のある鋭利な刃物のような

冷酷さ極まりない口調。

俊介をよく知る私でさえ、背筋がゾクっとする冷たさだ。


「聖奈、もう心配ない行こう」

穏やかな口調に変え俊介が私の肩を抱く。


「俊ちゃん、分かった。だから待って

行かないで…」すがりつく大島さん。

「どけ、邪魔だババア」通行人にも罵られる大島さんを横目に、私は大島さんを一暼して僅かに冷ややかに口角を上げる。


まだ肌寒さが残る夕暮れに、私はまた勝利を味わった。すがるような大島さんを横目に

その場を立ち去った。


「この世からまた一人、私に危害を加える

悪い奴を退治した」




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