第2話

『雑には雑を‼︎』をモットーにしている。

同レベルじゃないか、と蔑まれても構わない。封筒の中の万札ばらまいて撒き散らしてやろう、

『お前みたいな奴は彼氏出来ない バーカ』

『一生不幸でいろ バーカ』

『接客なんて辞めてしまえバーカ』

不思議とバーカという低次元な言葉に爽快感

を憶える。


不意に携帯が鳴り出す。表示はK

「クッ」思わず我を取り戻す。

「なに?」こんな場面で携帯取るのはマナー違反だが、この場面では構わない。

「ダメだぞ!」

「なにがよ」私は素っ気なく答える。

「分かってるよ、波動来るから、堪えなさい」「無理」

通話オフにする。

雑女は指でコツコツカウンター叩きながら

ブスッとしている。


チャイム音、コンビニの扉が開く。

女性客が息を呑むのが分かる。

Kか、見なくても分かる。空気の変動。

K の容姿に惹かれ物珍しそうに女性客も後から複数押し寄せる。

一瞬にしてその場をとろけさすような

甘いマスク、長身、イケメン、体躯に合った筋肉、全身から放つオーラは『芸能人』『モデル』のそれと言っても過言ではない。


ツカツカと私に歩み寄るK。

「よっ」と私に声を掛ける。 私は応じない。

レジの雑女は頭をフル回転させている。

これは多分、姉弟 と判断したのだろう。

私への態度も一転させる。

「こちらのお振込みの他にご用意はないですか?」

「ありません」抑揚つけずにピシャリ。

この場面、雑なのは私の方になってしまう。

「そうですか。お客様はお急ぎのご用はないですか?」とKに向かって身を乗り出す。

もはや私のことは眼中にない。

Kは店員を一瞥して首を横に振り薄く笑う。雑女はフリーズした。ノックアウトされた瞬間だ。


甘やかな期待を秘めて、頬を紅潮させてうぶな乙女みたいに手を胸に当てる。最高と思われる笑顔を作ってKに返す。『無駄なのに』

雑女はKに取り入る秘策はないか考えを巡らせている。

『ハンカチでも落とせばいいのに』とか

余計ことを思う私。

Kは眼中にない顔をして、私を視界に入れる。「行くぞ」K は私の手を掴む。まるでドラマのワンシーンだ。

Kを目で追い続けていた店員の女は

驚愕と仰天の表情をする。

『えっ、なんで⁈姉弟じゃないの⁈まさかの恋人⁈』って素の顔。

「まだ用済んでないから待ってよ」

Kは私の頭をクシュっと撫で、耳元で

「待ちきれない」と熱を帯びた顔で言う。

周りの女たちの羨望の混ざった刺すような冷たい視線を一身に浴びる。

一番唖然としているのは雑女である。

『そんなのあり得ない 』心の声が聞こえてきそうだ。

雑女の手のからKは振込み用紙を取り上げる。「そうゆうことで」

私の肩を包み、そこを後にする。


Kの声はアナウンサー並に通るし、トーンもいい。店内の女性陣を数秒で虜にしたまま雑女の称号の店員を置き去りにKは私は店から連れ出した。


途中、地元で名の知れたパン屋で焼きたての

パンを買ってコーヒーを片手に

雑踏を離れた町中の公園でベンチに腰掛け足を芝生に乗せる。

恋人ごっこはもうおしまい。

Kも私も素のままだ。

「なんかいい天気 だね」

「どう、少しは落ち着いたか?」Kは優しい笑顔で私を見る。

「落ち着くもなにも、リベンジさせてくれないじゃん」本当はどうでもいいほどバカらしくなっていた。

「今、Sピンチだろ、俺の出番かなって」

「タイミング良すぎ…だよ」

「S、乗り切れよ。つまらないことでエネルギー無駄に使うなよ」尚も続ける。

「こんなことでSには崩れて欲しくないし俺も無駄にブレたくない」

「分かってる」私は慎重に答える。

傍目には2人は歳の離れた恋人に映るだろうか?実際には違う。


私はKに恋心はないしそれはKも同様だ。

100人の女性がいたらおよそ全員を虜に出来る。確信して言えるほど恐ろしいほどの魅力と魔力と優しさを持ち合わせているK。

そんなKに魅力を感じないのは恐らく遺伝子の関係だろう。

血縁ではなくXYとかXXの方…

誤解がないように、2人とも普通の性癖の

持ち主で例外なくストレートだ。


この関係を説明するのは難しい。

私たちは、他の人間には到底考えられない

敏感な感覚の持ち主だ。

何かの本にあったが、エビとハゼのように

異種ではないが互いの役割を持って共生している。

Kは私のアンガーマネージの役割をする。

察知して抑止する。

私はKの絶望を取り除くヒールの役割をする。Kを愛する者は必ず傷つく。滅多にないがKが愛した対象は間違いなくこの世から滅びてしまう。

絶対的な容姿を持ちがながら心を閉ざし感情を押し殺し生きてきたK、ヒールの使命を持ちながら生きてきたSこと私。

Sこと私の心の安定こそKには不可欠で

そこはシンクロするようにリンクしている。

2人がなぜなんのために共生するか、

互いにもよく分からない。


話しが雑女から逸れてしまった。

コンビニの雑女はともかく、雑女のような存在で私のヒールの力は減退する。

私の受けた辛酸を共有して払拭してくれたのがK…私は使命を取り戻しつつある。


そのエピソードについてはまた次回に…




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