第3話 葛藤と思いと
その日の夜、宿舎から何気に外を眺めていたら誰かが暗闇の中を走り抜けていく姿が見えた。
「今のはミリィさん?」
それは今日一日だけの暫定パートナーであったミリィさん。
何故彼女だと一目で分かったかと言うと、答えは彼女の事をまさに今考えていたから。
今日一日一緒にいて感じた事だが、彼女は何か大きな使命のようなものを背負っているように思えた。訓練に対しても人一倍真剣に取り組むというか、自分を訓練で傷つけているように感じたのだ。まるで数年前の僕のように……
気になった僕は素早く着替え、何時も身につけている三つの輪が重なった腕輪を取りミリィさんが向かったと思われる港の方へと走った。
この腕輪は亡くなった母の形見の品、子供の頃に母から譲り受けてそれから肌身離さず身につけている。男の僕がこんなものを付けていると色々言ってくる人間もいるが、これは一種のお守り、だから誰に何と言われようがこれだけは手放す気にはなれない。
遅れる事数分、すっかりミリィさんを見失ってしまったが、港から少し離れた浜辺のほうから彼女の魔力が感じられる。恐らく訓練でもしているんだろう、この魔力が高まれば戦闘に巻き込まれている可能性はあるが、どうやらその可能性は低そうだ。
僕は物陰から一目確認してから戻ろうと思い様子を伺う、しかし予想に反して彼女は一人ではなかった。
「お探ししましたよミリアリア王女、我らと共に来て頂きます」
「口説いわ、あなた達の言いなりになるつもりなんてコレッポチもないわよ」
「困りましたね、王家の血を引くあなたがいないと封印が解けないのですよ」
「おいおい、そんなマドロっこしい事言ってねぇでぶっ倒せばいいじゃねぇか。生きてさえいればいいんろ? さっさとやっちまおうぜ」
ここから見える範囲では、ミリィさんの前に立ちふさがるのは二人の男性。内容まではよく聞こえないが、様子から察するとどうも友好的な関係ではなさそうだ。
すると……
「舐めんじゃないわよ!」
先に仕掛けたのはミリィさんの方、ちょっと女の子としてはどうよと突っ込みたい言葉使いだが、いきなり戦闘に突入してしまった。
「おっ、いいね。楽しめそうだ。」
そう言って一人の男性が
「やるじゃねぇか、女のくせに。だがアメェんだよ」
「くっ」
ミリィさんは確かに強い、僕の目から見ても二人の実力差はさほど開いてはいないだろう。だけどミリィさんからすればもう一人の男性を警戒しなければならないし、短剣使いはいざとなれば仲間の支援が受けられるからと攻撃に余裕が見える。
このままじゃ無理だ、せめてミリィさんを援護出来る者がもう一人いれば対等に戦えるかもしれないが、今の僕が出て行っても逆に足を引っ張ってしまうだろう。
くそっ、こんな時だって言うのに僕はまだあの日の事を怖がっているのか。
「頑張るじゃねぇか、それじゃこいつはどうだ!」
短剣使いが切り込みながら幾つもの魔法弾を同時に発動させる。
ミリィさんは慌てて後方へと下がるが、その差を詰めるようにさらに短剣使いが前へと出る。
キンッ!
ミリィさんは後方へと下がったせいで一気に防戦に一方に切り替わり、短剣を剣で受け止めたせいで魔法弾への対応が出来なくなってしまう。
「ぐっはっ」
「ほらほらどうした!」
無防備な状態で全ての魔法弾を受けてしまい、全身のあちらこちらから血がにじみ出ている。
くそっ、このままじゃミリィさんの命の危険さえも……
「きゃっ」
ミリィさんが短剣使いの攻撃で大きく後方へと突き飛ばされる。
「おらよ!」
短剣使いの魔法で地面に縫い止められるミリィさん。必死に手足を動かし拘束から逃れようとしているが、ビクとも動かない。
「ほらほら、とっとと諦めろよ」
「きゃ、うっ」
短剣使いは動けないミリィさんに対し小さな魔法弾を放って痛めつける。
「誰が、誰が貴方達の言う事を聞くもんですか、お母様を殺した貴方達なんかに!」
!!
「……だったら、テメェも死ねや!」
短剣使がさっきまでとは比べもののならないくらいの大きな魔法弾をミリィさんに向けた解き放った。
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