家中統制は脳筋だらけで大変だ
「何をやっとるかこのタワケがああああああああああああああああああ!!!」
岡崎城、評定の間。俺の怒号が響いている。
事の起こりは軍備を行うにあたり、兵糧や武具の買い付けを命じたことだった。
予算を渡し、相場から算出した目標値を設定する。例えばだが、三千貫の予算で兵糧を一千石買い付けると言った感じだ。
目標値に届かないのはまだよい。取引の内容などを聞き取り、不正な取引をした商人の摘発や、家臣の得手不得手などを探ることができる。
今回俺がブチ切れたのはそういう問題ではなかった。取り引きを商人に丸投げした挙句、資金だけをだまし取られやがった。しかも、「商人のまねごとなど武士のやることではない」などと逆切れを決めてくれた。とりあえず、こいつは見せしめにすることが決定した。
「ほう、商人のまねごと、な。では聞こうか。役目に失敗したのは誰じゃ?」
「ですから商人のまねごとなど、武士の沽券にかかわります!」
「沽券? そう言うのはな、きっちり役目をはたして初めて保たれるんだよ。で貴様の出した結果は資金を全持ち逃げだったよな? どう責任を取る?」
「武士の務めは戦場にあり! 先陣を申しつけていただきたい!」
「あ? 貴様阿呆か? 商人に騙されるような間抜けを先陣に出してみよ。我が兵を道連れに犬死するのが落ちであろうが?」
「なっ!?」
「今回は銭で、いい方は悪いが、まだ取り返しがつく。しかし、貴様は敵が我らを騙さんとでも思うのか? 武士の嘘は武略であろうが。敵が卑怯なことをしてきたので兵を失いましたとでも言うつもりか?」
「ぐぬぬ……」
「取引の記録を出せ」
「なぜ記録など?」
「なんで要らんと思ったのだ? 俺は命じたときにはっきりと伝えたはずだ。どのような商談を行ったかを記載せよと。また、商人との間に証文を取り交わせと」
「しかしこれまではそのようなことは」
「やったことないからこれからもせんでいいと言いたいか? そのようなこと貴様に決める権限があるとでも言いたいのか?」
「一度任された以上は口出しは無用にございます!」
「ほう、その結果がどうなった? もうよい。貴様のようなタワケは不要。以後出仕に及ばず」
「なんですと!?」
俺が首を宣言すると周囲の家臣どもも騒ぎ始めた。確かにこいつは勇敢だ。いくつかの手柄も上げている。そしてそれを鼻にかけていることもだ。
だから俺に対しても舐めた態度をとる。こっちを子供だと舐めているのもあるだろう。故にこれほどの失敗に対して堂々と逆切れをしやがる。腹でも切らせるかと思ったが、逆に変な風に同情が集まる可能性がある。であれば追放して今川にでも寝返ってもらい、堂々と討ち取ってくれよう。
「不満があるならばいつでも受けて立つぞ?」
俺が笑みすら浮かべて告げると、脇に控えていた平八郎が殺気すらにじませて周囲を見渡す。これで場は静まった。松平一の猛将の睨みはさすがに効くようだ。
大荒れの評定はいったん中断した。かのタワケは顔を真っ赤にして自邸へと舞い戻ったようだ。保長に命じて動向を探らせる。詫びを入れてくれば良し、何かを企むようならそれこそ家中統制のための生贄だ。一罰百戒というわけだな。
「何か変わったことがあれば報告を頼む」
「はっ!」
改めて保長に命じる、と言ったあたりで喜六郎が帰ってきた。
「殿、ただいま戻りました」
とりあえず現代のしゃべり方は人目があろうがなかろうがしないことにした。変な風に怪しまれても困る。よって、表面上は主従関係とし、それに応じた話し方をするようにした。
さて、喜六郎が帰ったということは、弾正忠家からの援助を引き出せたということか。
「殿、父上より五千貫せしめてまいりました」
「せしめてとか言うなよ……まあ、いい。しかしなんだ、この時代って脳筋しかいないのか?」
「其処は仕方ないかと、まず武勇が貴ばれるご時世故」
「そうは言うがな、猪武者など何人いても一人の知恵者の前に敗れ去るであろうが」
「それはそうですが、それなりの使い道がありますでしょうに」
「まあ、な。それにしても腹が立つ。武具調達の資金を集めるのに俺がどれだけ苦労したと……」
そこに保長がやってきた。
「それにつきまして、こちらを」
保長の報告書には、かのタワケが証人と結託して資金を横領したことが書かれていた。
「舐めた真似しくさって……」
怒りが一定量を超えると逆に冷静になるって本当だな。なんかもう表情が消えたのが自分でもわかる。そしてなんか固まってる保長と喜六郎。いやだなあ、俺は冷静ですよ?
とりあえず、どう見せしめに使うか、それを考え始めた。もはや助命という選択肢はない。こうなったら徹底的に利用させてもらおうか……。
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