いろいろやろうぜ
朝比奈勢を破った影響は大きかった。まだ今川に色気を見せていた小勢力がこちらに一斉になびき始めたのだ。しかも、あの包囲殲滅を指揮したのが、松平の当主であるという。即ち俺だ。
神童と名が高まるのは良いが、当然子供と侮る者もいる。そこらへん、うつけのイメージを覆すのに吉殿も苦労したんだろうなーと変なところで共感する。
さて、降ってきた土豪たちを編成する。酒井、石川、大久保、本多らを旗頭に、彼らをその寄り子とした。要するに今川の軍制のパクリである。
寄り親は寄り子を統率し軍事的に従属させる。彼らの領主としての権限には踏み込まない。というかそれやったら反乱が相次ぐな。
付け城の大まかなフォーマットを定めた。まず、堀を掘削し、その土を盛り上げ、これを簡易な城壁とする。文字通り塁とするわけだ。あとは柵や木塀で防御施設とする。
櫓を建設するのは場合に寄りとしておいた。あとは、弩の生産を増やし、矢も作らせる。
職人に任せると生産量がまちまちになるので、規格を決めてパーツごとに分業することにした。矢柄を作る者、鏃を作る者、矢羽を整える者。そしてそれを組み立てる者。
長さや重さを均一化することで、最高級の矢はできないが、安定した品質は確保できる。これで、撃つときの違和感を減らし、安定した射撃を可能にするのだ。
あとは、河原者といった流民に仕事を与える。石を集めさせ、投石部隊の弾丸を確保するのだ。あとは川砂を掘らせる。
石灰と砂利と砂を混合してローマンコンクリートを作る。配合比率は……忘れたので職人に試行錯誤してもらった。
これを使用することで、城砦の防御能力を大きく上げることができる。銃弾すら防ぎ、矢も刺さらず、そしてなにより燃えない。火攻めを防げるだけで堅牢さがあがる。
そしてうち(松平)の財力ではこれを用意できなかったので、喜六郎を派遣して弾正忠家から援助を引っ張り出したのである。
ところで信秀様は非常に子煩悩な方で、子供からの要望はすぐに首を縦に振る癖がある。
そして喜六郎は身長後期にこう記述がある。
「齢15、6にして、御膚は白粉の如く、たんくわんのくちびる、柔和なすがた、容顔美麗、人にすぐれていつくしきとも、中々たとへにも及び難き御方様なり」
要するに美少年である。狸と言われた俺はとりあえずごつい体つきだ。縦にも横にも。お世辞にも美形とは言われないだろう。
まあ、それだけに、絶世の美女と言われた市姫が許嫁とか鼻の下が伸びまくるのである。
話がそれた。それほどの美形ゆえに、父たる信秀様は喜六郎を溺愛している。よって……
「ちちうえー。蔵人殿がこんくりーと? なるものを作りたいそうですが、銭が足りぬと」
「おっしゃ分かった。五千貫持っていけ。足りねばまた言うがよい!」
「大殿おおおおおお!!」
平手殿の悲痛な叫びが響き渡ったそうであった。林佐渡どのはもはやため息しか出ぬと。
しかし、後日に現物を献上したところ大儲けのネタじゃと平手殿の目がキュピーンと輝いていたそうである。
実際、作事に使い道は無限だからなあ。城砦の強化のみならず、芯に鉄筋を入れることで強度は飛躍的に上がる。まあ、そこまでの鉄を用意すること自体が難しい。それゆえに当面は境目の城の防御向上と、街道整備に力を入れてもらうことにした。
あとは喜六郎と相談して、蜂蜜の巣箱を再現した。ほかには、この時代、シイタケって高級食材だったんだな。知らなんだ。
菌糸を利用した人工栽培は、織田、松平両家のトップシークレットにされた。シイタケは干物にして願証寺に売りつける。相場よりちょいと安めにするのがコツだ。
奴らは石山本山にそれを流して利益を得る。こっちはこっちで長島の財力を削り取ることができる。一応先を見据えた戦略ということにしておこうか。
一向宗自体はこちらから突かなければ向こうから牙をむくことは今のところない。ないはず。
対今川に備えて、可能な限り味方につけておきたいところだ。尾張としても、北伊勢の交易路を確保するに、陸路はどうしても長島の勢力圏が近くなる。
であれば、彼らにも利を与えて協力できるようにしておいた方がいい。あとは市之島の服部左京か。あれは利害ではなく感情で対立しているから始末が良くない。
願証寺経由で、シイタケで釣って押さえてもらうのが手っ取り早いか。
うん、いろいろとやることはあるな。武勲を立てて少しは土台が固められてきた気がした。
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