未来の腹心を育てよう
平八郎が嫡子誕生の報告をしてきた。幼名は鍋乃介と付けたらしい。
「そうか、すでに生まれて半年ほどか」
「はい、ようやく首も据わりましてな」
「うん、今度連れてくるがよい。本多の血を引く赤子じゃ、さぞやよき面構えをしておろう」
「いやあ、最初見たときはしわくちゃでしてな。それでも月日が経つとどことなく儂とか妻に似てきておるのです」
「うん、先が楽しみな話じゃな。ちと気が早いが鍋乃介に名を授けよう。元服の折には……そうじゃな。忠勝と名乗らせるがよい。松平にただ勝利をもたらす将となるに違いなし」
「殿……我が子にそこまでご期待をいただけるとは……」
「唐家の柱石たる本多の跡取りじゃぞ?」
「はっ、ありがたきお言葉。粉骨砕身の覚悟をもって奉公いたします」
「期待しておる」
先日、尾張から引っこ抜いてきた藤吉郎と小竹は、択彦和尚を招いて学問を修めさせている。家族も呼び寄せ、親類とかも保護した。ありていに言えば囲い込みだ。
野鍛冶をしていた加藤某とか、福島某とか。後年の秀吉を支えた家臣たちの親世代である。ほかには大和守家に仕えていたもので弾正忠家で居心地が悪そうな連中も引き取った。堀尾泰晴とか山内一豊とかだ。
形式上は弾正忠家の家臣で、与力兼目付という形にしてある。これで禄は半分あっち持ちだ。そして、譜代ではないので禄は銭で渡している。
銭も徐々にであるが流通しており、領民の生活に変化が生じ始めている。税以外の余剰は基本備蓄していたが、銭による取引で余剰物資や作物が流通し始めている。そうなれば、より生活をよくするため更なる生産に励むことだろう。
さて、佐治水軍の協力を弾正忠家経由であるが得られることになった。これは二つの意味がある。三河の西岸に影響力を持つことができること。これにより、岡崎から西の勢力の後背を脅かすことができるようになった。
もう一つは交易路の確保で、尾張や伊勢との間に販路ができたことを意味する。これはついでで漁業を奨励し、イワシなどから魚肥の生産を始めた。
これには大きな意味がある。綿花だ。
綿花の栽培には大量の肥料を必要とするが、魚肥によってそれをまかなえれば、木綿による衣服の改善ができる。ほか、火縄の材料にもなる。衣食住というが、これが充足していれば、まず一揆などは起こらない。のだが、その確保は困難を極める。
今は戦国の世、自国で食料が不足しているのなら他所から奪ってくればいいじゃない。という飛んでも理論が普通に常識なのだ。ゆえに、国を富ませることは侵攻のリスクを高めることにもなるのだ。
まあ、そこはそれ、並行して軍備も行えばリスクを軽減できるが、食い詰めた人間の思考回路は理性ではなく本能だ。リスクマネジメント何それおいしいの? っていうくらいの無茶苦茶をやらかす。
逆にそれが奇襲となって、敵を敗走させることもあるらしいが、まあ、まずないだろう。まれなケースではないか?
つらつらと考えを巡らせていると、藤吉郎がお茶を持ってきてくれた。
「殿様、お茶でごぜえます」
「おう、すまんな……うん、うまい」
のどが渇いていたところにぬるめのお茶を具備っと飲み干す。
「おかわりはいかがですか?」
「もらおう」
「はい、こちらです」
今度は熱いお茶が入っていた。暑気払いにちょうど良い。
「ふむ、この茶の出し方は誰に教わった?」
「いえ、自分で考えてございます」
「ほう、ではなぜこのようにした?」
「はい、まず殿さまはお仕事で飲まず食わずでしたので、まずは喉がお渇きだろうと。だからぐびぐびっと行けるぬるさと、多めの量でお出ししました」
「ふむ、次の茶はどうじゃ?」
「はい、今日はちと暑いので、暑気払いに熱めのお茶を少し入れてお出ししました」
「その理由は?」
「暑いときには熱いものを飲むと良いと聞いておりましたので」
「うむ、見事なる心遣いよ」
「へえ、和尚様に、相手の身になって考えよと教わりましたので、自分なりにやってみてございます」
これが人たらしか!? こういうこまやかな心遣いで対応されれば、そりゃ心を開くわ。そして横でその様子を無言で見ている小竹がいた。ある意味で相手の身になって考えることはこいつの方がすごいかも知れぬ。目立ちたがりの藤吉郎の陰で、黙々と役目をこなす小竹。しかも人並外れた才を持つとなれば天下に手が届くのもある意味理解できると言うものか。
そして、先日の約定通り吉殿の弟、喜六郎殿がうちに派遣されてきた。そして彼は初対面で爆弾を落としてきたのだ。
「えっと、松平先輩ですよね?」
俺のところに来た喜六郎殿が葵の後輩だった件について。
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