尾張との協力体制

 久しぶりに尾張に来た。定期的に吉殿と合う予定にはなっていたのだが、三河のあまりのグダグダぶりにいろいろと手を打っていたのだ。

 俺の合戦稽古の報告を聞いた吉殿はしばらく笑い転げて呼吸もできなかった。

「我を笑い殺す気か?」


 顔どころか首まで真っ赤にして、息も絶え絶えだ。この人笑い上戸なんだっけか?

 そういえば、配下の武士の冗談に息ができないほど笑い転げたってエピソードあったな。


「そんなつもりは毛頭ありませんが?」

 シレっと答えてやる。この人が笑い死んだらどうなるんだって話だ。

「まあ良い、戯れじゃ。して、そなたが城攻めで使ったやり方を詳しく聞きたい」

「ああ、付け城ですか?」

 戦術の話をすると食いつきが非常に良い。民政とかもかなり食いつくが、やはり戦に勝つことを常に考えているのだろう。

「うむ、城を攻めるに今まで盾を使った支寄りが多かった故な。包囲して城兵と外部の連絡を絶つ。これで徐々に城兵は疲弊するだろう」

「更に迎撃に出てくればこっちの城に籠ればいいのです」

「うむ、そうやって徐々に兵力を削れるか。というか、黒鍬衆の訓練、これを見越しておったな?」

「そういうことです。城攻めで力押しをやりますと被害が大きくなりますからね。孫子曰く城を攻めるは下策、心を攻めるこそ上策ということです」

「閉じ込められた敵は自滅するか。疑心を煽ってやればなおさらというわけじゃな?」

「さすがです」

「ふむ、しかし、兵糧攻め訓練、我もやろうかのう……」


 吉殿もなんかいろいろ溜まってるようだ。イライラとかストレスは健康の大敵だからな。だから後押しをしてやった。

「うちの家臣たちは実に聞き分けが良くなりましたよ?」

「よし、やろう。爺! 聞いておったな? 聞き分けの無い戯けどもを中心に選抜せよ!」

「はっ! 若、この平手にお任せあれ!」

 うん、どこの国も脳筋は始末に負えないらしい。平手殿の笑顔が黒すぎる。二人して顔を見合わせてクククとかケケケとか笑ってるよ。ヤバス。


 さて、択彦和尚と漢籍について語り合う。のは表向きで、反目しあう過信の掌握に心を砕いているとのことだ。誰がって? むろん信秀様ですよ。知恵を借りたいとのことなので葵の知識からパクることにした。


「このように諭してみてはいかがでしょう?」

「何か良いたとえがありますかな?」

「和尚、拍手をしてくだされ」

 パァンといい音がする。

「これがなにか?」

「和尚、拍手の音は右手が鳴らしたのか、それとも左手か?」

「むむむ!?」

「天下に鳴り響く音を奏でるは一人では成せぬ。これが結論にござるが」

「そうか! 右手でも左手でもなく両手が音を打ち鳴らす。そういうことですな?」

「左様。孤掌は鳴り難しというわけです」

「ちとこじつけめいておりますが、力を合わせよという話に持っていけそうですじゃ」

「ええ、よろしく頼みます」

「しかし竹千代殿……失礼、今は蔵人殿でしたか?」

「ええ、先祖の名前をもらい受けまして、蔵人長康と名乗っております」

「長く安康をという願いですか」

「されば三郎殿の諱も信義を長ずると読めますな。この乱世を終わらせ太平の世を迎えるにどちらも大切なことでしょう」

「なるほど。腑に落ち申した。これからも若の良き友人で在ってくだされよ」

「無論です!」


 さて、今回の訪問で、国境線の砦や支城の廃止について話しあうこととなった。同時に街道の整備についても行う。

 税としての賦役ではなく、農閑期に出稼ぎの仕事として行う。日当は銭で支払うが、無論食事も出す。そして尾張から商人を呼び寄せ、市を開いてもらう。

 こうすることで、銭についての認知と流通を活性化させるのだ。よくある公共事業による景気賦活策だ。よくある、すなわち陳腐化しているということは有効な手ということだ。効果が望めるから繰り返される。

 民に銭が回りそれで生活が豊かになれば、一揆を起こす理由もなくなる。流民はいい方は悪いがどこにでもいる。河原者などを取り込み、領民を増やす。食わせるのが大変だが、最終的に人口が多ければ国力は上がる。


 余分な城塞を維持管理するコストも馬鹿にならない。それならば、東三河方面への兵力を増強するために再配置を行うべきだ。

 というわけで、ばっさりとそっち方面リストラした。農兵も兵役を解いた。そして織田家と協力して野党を取り締まる。兵を減らすと言っても治安維持の人員は当然残す。

 おとなしく降れば兵として雇い入れる。さもなくば根切りだ。一銭斬りを提唱し、犯罪には断固として対処する。こうすることで治安が安定し、商人の往来も増えるだろう。

 物流を安定させれば景気は基本良くなる。モノを運ぶコストを下げれば、商品はその分安くできる。宿場町を整備して行商人は安く泊まれるようにしてもいいかもしれない。


 などと言うことを熱く語ってしまった。信秀様、吉殿、平手殿あたりがすごい勢いでメモを取っている。

 さて、ここでまた人を押し付けられた。語弊はあるがそんな感じだ。まずは吉殿の弟、喜六郎殿だ。年恰好は俺と同じくらい。そしてこレがあったから受け入れたのだが、小姓見習いで藤吉郎と小竹の兄弟をもらい受けた。

 農民とは思えない実績を残したこの兄弟を手元に置いて使えるというのは非常に良いことだ。そう、良いことだ……前世のうっ憤を晴らしたりしませんよ? 天下人は心が広いのです。

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