先輩ってお前誰だ!?
衝撃なんてもんじゃなかった。というか俺の記憶は現代知識で、自分自身が現代でどんな生活を送っていたかがすっぽりと抜け落ちていたからだ。学生だったのか? 社会人か? 歳は? どこに住んでいた?
などの情報が全く思い出せない。そういう意味で、前世? の知り合いが現れたということは驚くべきことだった。
「松平先輩、俺です。喜多川秀隆です」
彼の名前を聞くと、記憶がよみがえってきた。そう、彼は織田家の末裔と言われていた。しかしなぜ信長の弟に?
「俺は、どうやら家康の無念に引っ張られたらしい。喜多川はどうなんだ?」
「ええ、多分ですが、ご先祖様の無念でしょうねえ。中々衝撃的な内容でしたよ」
「へえ、良かったら聞かせてくれないか?」
「いやあ、追体験しなければとても信じられませんよ」
「ふむ。で、お前さんのご先祖様は誰なんだ?」
「ええ、織田喜六郎秀孝です」
「いまのお前さんだな……まて、喜六郎秀孝は若いうちに事故死してただろ?」
「それなんですがね。実は信長の影武者として生きてたんですよ」
そのまま話を聞いた。なんちゅう内容だ。そもそも、俺(家康)が兄とも慕っていた信長は別人だったというのだ。
信長は遠乗りの最中に暗殺された。犯人は津々木蔵人。主君たる勘十郎信勝を討たれた仇討であったという。
しかし尾張は信長が主導権を握ったばかりで、美濃の後ろ盾があって何とか勢力を保っていた。そんなさなか信長が死んだとなれば、間違いなく他国に攻め込まれる。
そうして最も顔立ちの似ていた秀孝が影武者として後を継いだのである。
どっかの史書にあった信長と帰蝶の不仲説は、道三敗死後にそうなったと言われている。また急に人が変わったように振る舞い始めたという説もあった。そりゃそうだ、中身入れ替わってるんだから。
さらに信長の子供たちは信忠、信雄、五徳までで、信孝は秀孝の子であったという。たしかに母親が違うよな。
幸か不幸か、秀孝には将才があった。運にも恵まれたが桶狭間で今川を打ち破り尾張を完全に平定し美濃を制圧した。あとの歴史は皆さんもご存知というやつだ。
そして本能寺で討たれ……え? 討たれてない? 死んだことにする偽装? なんでそんなことしたの? 疲れた? そんな無責任な……まあたしかに気持ちはわからんでもないけどさ。
そういや昔読んだトンデモ説で、信長を秘密裏に暗殺して秀孝が成り代わっていたって話あったよな。まさか事実とは。もうびっくりだ。
「結局、ご先祖様の無念って何だったの?」
「自分の人生を生きたいと」
「なるほど。妙に納得できる理由だ」
「ということで、利害は一致すると思うんです」
「だな。現代知識を持つものが二人いて協力できるならアドバンテージは大きい」
「ま、ほかにもいるかもしれませんけどね。それこそ武田とか」
「ぞっとしないな。って現代の頃、武田の末裔とか知り合いにいたっけ?」
「確かいなかったと思うんですけどね。ただ、一応家系は残ってるそうなんで、いてもおかしくはないですね」
「笑えねえ。現代知識とかこれから何が起きるって部分が全く役に立たないのか」
「ってかすでに大きく変わってませんかねえ? 父上がほぼ尾張を手中にしてる時点で」
「あー、たしかに。松平もこの時点で独立してるしなあ」
「織田の服属大名扱いですけどね。西三河のさらに北西部しか影響力ないですし」
「松平一族すらまとめきれてないからなあ。やっぱあれか、家系図でっち上げか」
「得川ですか? もーちと三河で勢力伸ばしてからがいいと思いますけどね」
「そうそう、一つ言っておく。もう一人松平竹千代がいるから」
「あの今川に送り込まれた影武者殿ですか?」
「そう、あっちは今現在の竹千代、のちの家康がメイン人格で、さらに過去から逆行した家康の知識を持ってる」
「なんですかねえ、内部から今川乗っ取りそうじゃありませんか?」
「……ありうる。氏真は実はそこまで無能じゃないが、いくさの能力は皆無だ。そこはそれ、うまく岡部とか朝比奈とかを使えればいいんだけどな」
「それ自体も本人に箔がいるじゃないですか」
「たしかにな。それこそ松平を攻め滅ぼして箔を付けるって話か?」
「こっちの後ろ盾は織田がいますけどね。出来たらこっちの戦線は固定して、織田の方で北伊勢を制圧してもらえば、伊勢湾の上りを取り込めるんですけどね」
「そこらへんはうちも噛もう。銭はいくらあっても足りやしねえ」
「現代人の算数レベルを持ち込めたのは大きいですね。識字率もそうですけど、計数を理解できる人間を増やせば統治も楽になりますし」
「とりあえず脳筋どもは干殺しにしてやったからな」
「先輩、笑顔が黒いっす。というかうちの父上も同じ笑み浮かべてました」
「信秀様も? あー、平手殿から提案が行ったか」
「ええ、逝ってました。兄上も手加減してくれたらいいんですけどね。篠木に砦を築いてそこに攻めかかる設定らしいですよ?」
「稲生の戦いの再現じゃねえか」
「というか先輩が話したんじゃないですか?」
「色々聞かれたからなあ。耳川の戦いの詳細は説明済みだぞ? 後沖田畷もな」
「だからか……妙に訓練が厳しいと」
「囮部隊が崩れたらそのまま敗走しかねないからなあ」
「まあ、織田兵が強くなる分には文句はないっすけどね」
などなど、俺たちは深更まで話し込むことになった。まずは三国同盟の阻止と、今川の全面攻勢の回避だな。
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