フレイオルタ正典

葉桜真琴

フレイオルタ正典

創世記

創星記:第一節

1

はじめに混沌があった。

混沌はまどろみの淵にあり、世界はいまだ明確な形を持っていなかった。

やがて混沌はまどろみの淵より目覚め、世界に光が生まれた。

これに百億年かかった。


2

目覚めた意識は、世界に明確な形を与えようとして、混沌を三つに裂いた。

はじめに、濁り、凝り固まった部分を陸に。

次に、澄み、流れる部分を海に。

最後に、形もなく、捉えどころもないが確かにある部分を空に。

そして、それぞれに名前を付けることにした。

陸神ガイアラキ。

海神ハルマーレ。

空神エルシエル。

これに五十億年かかった。

目覚めた意識は疲れきったので、ガイアラキ、ハルマーレ、エルシエルの三柱にその後を任せることにした。

三柱はかの意識を《父》と呼び慕い、その後の作業を引き継いだ。


3

作業を引き継いだ三柱は、生き物を作ることに決めた。

ガイアラキが地上に生きるものを。

ハルマーレが海に生きるものを。

エルシエルが空に生きるものを。

三柱は同じ物を作ることを防ぐため、誰が最初に着手するかを相談した。


ガイアラキは初めに生まれた者として、後に生まれた二柱に順を譲った。

エルシエルは最後に生まれた者として、先に生まれた二柱に順を譲った。


ハルマーレは二柱の好意にあずかり、海に生きるあらゆるものを生み出した。

次にガイアラキが地上に生きるものとして次のものを生み出した。

植物。地を這うもの、駆けるもの。

そして、空へ飛び立つ鳥を生み出した。


ガイアラキによる鳥の創造に、エルシエルは深く憤った。

空神曰く、「鳥は空を飛ぶものであり、空は私の領分。よって鳥は私へ譲るべき」

陸神曰く、「鳥は常に空を飛ぶのではない。空を生きるのではなく地上にある」

エルシエルはガイアラキが譲らないことに腹を立て、ハルマーレに取り次ぎを頼み込んだ。

海神曰く、「陸なくして海は形を保てず。ゆえに海は陸に寄り添う」

エルシエルはガイアラキの遠慮のなさとハルマーレの日和見、かつての自身が持っていた慎みに深く失望した。

エルシエルは二柱に恨みの言葉を残して遠ざかった。空が陸と海から離れているのは、このときからである。

また、エルシエルの恨みが地上のものと海のものに、病と老いと死をもたらした。

仕方がないのでガイアラキとハルマーレは、生き物が老いて病み、死ぬ数よりも多く生むことにした。

ここまでに十億年かかった。

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