第2話 『辿り着いた楽園』

「いらっしゃいませー!」


 来店すると、店員が元気に挨拶。

 それにかしこまることなく、気軽に入店。

 様々な商品が棚に陳列されて、大抵の物はここで手に入る。

 そう、ここはそんな風に気楽に入れて、様々な商品を取り扱う、便利なお店。


 その名も、コンビニである。


 正式名称、コンビニエンスストアの店内を物色して、目当ての物をすぐに発見。

 私が求めていた、味噌ラーメンと牛丼が、そこにあった。

 商品名もごくシンプルで余計なワードが入ることなく、そのままだ。

 捉えようによっては素っ気なくも思えるかも知れないが、私は好ましいと思う。


 これらがコンビニで売ってると知ったのは、ついこの間のこと。

 飲み物を買おうとレジに向かう際に、偶然発見した。

 それは私にとって世紀の大発見とすら言えよう。


 大袈裟だって?

 いやいや、ところがどっこい。

 見方を変えれば、その偉大さが身に染みる筈だ。


 牛丼はまだわかる。

 弁当の延長線上に位置している。

 しかし、よもや味噌ラーメンがコンビニで売っているとは、思わなんだ。


 しかも、その味噌ラーメンはレンジ専用商品らしく、つゆがゼラチン状に固まっていた。

 つまり、商品棚に陳列していても麺が伸びることがないのだ。

 ついでに、輸送の際にもつゆがないほうが運びやすいとも思われる。

 これを誰が開発したのかは知らないが、ノーベル賞に匹敵する大発明と言っても過言ではあるまい。


 えっ? カップラーメン?

 笑止。それとこれとを一緒にするな。

 とはいえ、私も最初は同一視していた。

 だが、実際にレンジで温められたそれを見て、自らの愚昧さを思い知った。


 これは、店で出されるラーメンと、同じだ。


 カップラーメンでは出せない、本物の香りがプンプンした。

 もちろん、香りだけでなく、味も本格的。

 これを一度食べたらもう、カップラーメンには戻れない。


 それでは牛丼の方はどうかと言えば、こちらは良くも悪くも想像通り。

 期待を遙かに超える美味さ、とは言えないが、期待を裏切らない味だった。

 少なくとも、私には店で食べる牛丼と大差ないと感じられた。


 何はともあれ、こうしてようやく満足できる商品を見つけた私は、今日も今日とてウキウキ気分でコンビニへ向かう。


 味噌ラーメンと牛丼を一緒にレジまで持って行くと、いつものように。


「温めますか?」


 答えはもちろん、YESだ。

 むしろ聞かなくても結構。

 迅速さを重視する私にとってこの無駄な時間が何よりもどかしい。

 そして、温めている間も試練は続く。


「お箸は何膳入れましょうか?」

「……二膳、お願いします」


 私はこの問いかけに、いつも嘘をつく。

 本当は一膳でいいのに、箸を二膳受け取る。

 だって、一膳と言えば、ひとりでどちらも食べることがバレるから。

 それを知られて、憐れに思われることが、怖かった。


「お待たせしました」

「ありがと、ございます」


 嘘をついた罪悪感に駆られて、商品を受け取った後はそそくさと店を出る。

 駐車場の端っこに止めた自分の車に乗り込み、ほっとひといき。

 ここまで来れば、もう安全だ。

 誰にも見咎められることなく、食事が出来る。


 まずは牛丼をパクついて。

 そして味噌ラーメンのスープを一口。


 お、おいちぃー!!


 感動して悶えながら、また牛丼をかっこむ。

 そして、今度はたっぷりの野菜と共に、麺をすする。

 やはり、牛丼には味噌ラーメンが相応しい。

 野菜スープも売っていたので試してみたが、あれでは駄目だ。

 この濃い組み合わせが一番だった。


 ああ、美味しいなぁ。

 本当に美味しい。

 美味しくて、幸せ。


 この瞬間の為に、私は生きていた。

 これがあるから、嫌な仕事も頑張れる。

 また来週も、そのまた来週も、このささやかな幸せを楽しみに乗り切ろう。


 しかし、その翌週。

 いつものようにコンビニに来店した私は、困難に直面することとなる。

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