第4話 民泊を始めよう

 「そうだ、民泊を始めよう」

ブーミンは起き上がって部屋を見回した。

 「1回に2組は、いけるだろう」

 鈍子は顔をしかめる。

 「え〜。旅館なんてやったことないよ」

 「いいんだよ。旅館じゃなくて民泊なんだから。そのほうが、

             不器用な鈍子にも合っているだろう」

 「そんな、部屋はあっても素人にすぐ始められるわけないよ、」

ブーミンは鴬谷周辺の地図を広げる。

 「見たか、この立地」

                  ……?

ラブホばっかりだけど。

 

ブーミンが得意げに顎をあげる。

  「周囲が旅館業ばかりの中で民泊をやる」

 ドンコはさっぱり分からず首を左右に振ってみせた。

  「もう、鈍子は名前の通り鈍感だな。住宅街じゃないから、

                周囲から反対運動が起きない」

  「でも、ブーミン、女の子達には入りにくい街かもよ」

 ブーミンはキザにチッチッチッと指を振る。

  「鈍子、お前が育った街だろう。別の視点でみられないのか。いいか?」

 ブーミンは大きなスケッチブックを広げると早書きしながら

                         紙芝居風に説明した。


  「まずホームページを作る。外国人向けのね。

     外国人は東京人と違ってラブホテル街であることをしらないだろ。

     寧ろ、これからは、格安のアジア風の内装のホテルがあるという

                         認識になってくるぞ」

 鈍子は正座して真面目に聞き始めた。

 「へーっそういうもの?」

 「ドンコ、もっと外国人の目線で見てみな」

 口を尖らせ黙る鈍子。

 「私、日本人だし」

 「地球人だ」

 「アキバも近いし、浅草も近いのを忘れてるんじゃないのか?」

 鈍子はポンと手を叩くと、1階に駈けて行き、都内の地図を持ってきた。


 「なるほどね。山手線周りは名所が沢山あるけど、本格的なホテルは高いか」

 ブーミンは地図を指差し満足そうに頷いた。

  「ようやく、ピントがあってきたな。それにこの部屋。

               こういう畳のザ・ジャポネが今ウケるんだ」

 感心してブーミンを眺めるドンコ。


  「ブーミンさんは行動力がありますね」

 いつの間にか、部屋にアリャが上がり込んで話を聞いていたらしい。

  「私もお店が暇なとき手伝いマスよ。英語とタイ語の通訳は任せて下さい」

  「アリャ、頼もしい。ブーミンは?このあいだフランス語喋ってたね」

  「フランス語、英語、中国語、韓国語」

  「私、語学も苦手なんだけど」

 おずおずと言い出す鈍子にブーミンが冷たく言い放つ。

  「鈍感鈍子はいい。別の役割があるから」

  「ブーミンさん。ドンコの名前は鈍感の鈍デハないですよ。ね、ドンコ」

 鈍子が口ごもる。

  「話してあげてくださいよ」

  「いや、そんなにいい意味ではないから」

 アリャのわくわくする顔と、ブーミンの胡散臭そうな顔を見て

                           言葉が出ない鈍子。

  「本当は純子なんデスよ。美しい名前デス」

 固まるブーミン。

  「私の母が届け出るとき書き間違えたの」

 吹き出すブーミン。

  「鈍子のママはドジコだったか」

  「言わないでよ〜」

 ブーミンは鈍子の鼻先にホームラン宣言の様に

                マジックペンを突き出し宣言した。


  「ドンコの役目は、外国人に、日本にもドジがいると

                    親しみを持たせることだ」

 アリャが手を叩いて喜ぶ。

  「私も鈍子に出会って日本人に親しみ持てましたよ」

  「褒められている気がしないんだけど」

凹む鈍子にブーミンが追い打ちをかけた。

  「褒めているわけではない、消去法だ」

 ブーミンはやることをスケッチブックに箇条書きにして行った。

  「そうと決まったら民泊の届け出をする。

            書類を貰ってくるから鈍子が書いて出すんだ」

  「ブーミンさん、やってあげてくださいよ。

             鈍子が間違えて書いてしまったら大変デス」

 鈍子も首を激しく縦に振って同意の意志を示している。


 ブーミンがにやりと笑うと口を開く。

   「忘れたのか、オレは未成年だ」

 顔を見合わせる鈍子とアリャ。

 鈍子は座布団をブータンに向って振り下ろす。

  ブータンは太った身体に似合わずひらりと身をかわして鈍子に背を向ける。

   「気をつけないと児童さまの虐待になるぞ」

 階段を下りて行くブーミンの背中に当たらない様に

                    鈍子は壁に向って座布団を投げる。

   「クソガキ〜」

 ブーミンは涼しい顔で戻ってきた。

   「腹が減った。飯はまだか?」

 鈍子は複雑な顔をして立ち上がった。

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