大馬鹿者のお前へ

夜煎炉

「お前、馬鹿だな」

「そっすか?」

「本当大馬鹿。馬鹿のオリンピックが存在したら、金メダルを獲れるんじゃねぇの?」

「えー」

「馬鹿って言葉はアンタの為にあるんだろうな」

「あんまり馬鹿馬鹿言わないで欲しいっす!!」

「だって、馬鹿だろ?」

「じゃあ具体的にどんな所が?」


 オレが「馬鹿」と言う度に、コイツは怒るでも、ねるでもなく、ただ明るく笑ってみせる。

 オレの言葉がなければ、微笑ましい友人同士のやりとりにも見えるかもしれない。

 いつもと変わらずに笑う目の前の男。10年以上前から何も変わらないし、これから先も何も変わらないと思っていた。


 明るいアイツの笑顔に応える様にオレも微笑んでみせる。



「オレなんかに未だ、見切りを付けない所」


 ああ、本当の馬鹿はコイツじゃなくてオレなんだ。

 何時までもコイツを縛って、コイツに縋っているオレの方が馬鹿。


 10年以上前から一緒に笑っていたコイツと、オレはこの先の10年を笑いあう事が出来ないけれど、コイツはこの先の10年も20年も笑顔が残っているんだから。

 オレを見捨てないコイツが馬鹿なんじゃない。コイツから離れられないオレが馬鹿なんだ。



 そんな気持ちを全て押し殺して笑ってみせた。上手く笑えているだろうか。

 今日も変わらず、部屋は薬品のニオイで満ちている。

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