13.襲撃
「おっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
我ながら情け無いテンプレな悲鳴を上げたような気がするが、あんなでかい蜘蛛が頭上からこっちを襲撃してくればだれでもこうなるだろう。
「ジュンイチ!」
とっさに動けない俺を横にいたレオが押し倒した。
すんでのところで俺は蜘蛛を避けた。
木の幹を背にして俺たちは起き上がる。
「――っつー、すまん、助かった!」
「気をつけてジュンイチ……アレで終わらないみたいだ……」
レオの言葉に、何だと、と周りを見た俺は言葉の意味を知る。
蜘蛛は一匹ではなかった。周囲、俺たちを取り囲むように、続々と木の枝から降りてきている。
「おいおい……マジかよ……!?」
「ジュンイチ、ひとまずいつでも銃を撃てるようにして。……あれは、普通の蜘蛛じゃない」
さすがにランクEであるレオは既に双剣を抜いて戦闘状態に入っている。しかし、その表情には焦りが浮かんでもいた。
「魔物ってことか? でもこの森はそんなのいないって話だったはずじゃないか!?」
この森はクエスト詳細にも『安全』と書かれていた。人に聞いてみても皆そうだったし、第一以前来た事があるレオも魔物は見た事が無いと言っていたはずだ。
「ごめん、ボクもそう思ってたんだけど、現実はそうじゃなかったみたいだ」
どちらにしろ、現状をどうにか打破しなければならない。でなければ数十分後には俺たちがこいつらの餌に成り果てるだろう。
「数は目視で十五。見た感じ、身体はそう硬くなさそうだけど動きが素早いようだね……。ジュンイチ、ボクが前衛をするから、後ろから援護お願いできる?」
「あ、ああ。自信は無いけど、やれることはやってみるさ」
俺はそう答えて銃を構えた。
「目標は全滅。だけど無理そうなら一点突破で退路を開くからボクの合図で走って」
「了解」
「……それじゃあ戦闘開始だ」
そう言ってレオは蜘蛛に向かって走り出した。
それと同時に、蜘蛛が二匹、レオに向かって襲い掛かった。
やはり、普通ではない。大きさもそうだが、跳躍力が高く、一度俺の身長よりも高い位置まで跳んでそのまま空中からの襲撃だ。
対し、レオは右の剣を下から上に振り上げ、一匹目を縦に切り裂いた。
そのまま側面を向きながら、腕を円を描くようにして、反対を向く事で、左の剣での再度の迎撃を行う。
結果として、二匹目も一匹目の後を追うことになった。
しかし、そこに三匹目が襲い掛かってきた。
「やらせるかよ!」
俺は狙いを絞り、引き金を引いた。
実戦はこれが初めてだが、動く的相手には練習を積んでいた。
実はこの一週間、リーシャとの訓練で魔流活性の練習の他に、彼女に魔法で簡単な標的を作って貰い、射撃の練習をしていたのだ。
それが実を結んだのか、弾丸は三匹目を直撃する。
「よし!」
「その調子だよジュンイチ!」
既に七体を流れるように倒したレオが言葉を飛ばしてくる。
――可愛い顔してもうあんなに倒してる……最近の子は怖い。
そんなことを思いながらも俺は射撃を継続する。
敵の数は既に半分だが、一匹だけでも脅威だ。
あんなジャングルの奥地にいるような蜘蛛よりでかい蜘蛛が普通なわけがないのだ。
「レオ! リロードしたいからカバーしてくれ!」
FPSゲームをやってるような単語を連発するが、意味が通じたようで、レオがこちらに戻ってくる。
「――ふう、後半分だよジュンイチ。がんばって」
「おう、大半まかせちまって悪い」
弾丸をつめながらレオに謝罪する。
「いいよ、それが前衛だもの――後もう少し、がんばろう」
俺の補給を確認したレオは再度双剣を握り締めて走った。
その後、何度か危ない目にあいながらも、俺たちは互いに庇い合いながら敵を倒していった。
●●●
「……これで全部か?」
最後の蜘蛛を斬り倒したレオを眺めながら俺は周りを見渡した。
半分になったり穴が開いてしまっているのがほとんどだが、数えてみれば十五匹の死体が転がっている。
「はぁぁぁぁ、疲れたぁ……」
簡単なクエストのはずが、思いもよらないことになった。
正直な話、レオが居なければ確実にやられていた。
「この森はずっと前から安全が確認されてたのに。これじゃあ一般の人が危険だ」
「あぁ、ランクFじゃあんなのには太刀打ちできないぞ。急いで戻って報告しよう――」
言って、俺は見てしまった。
もう一匹、黒い蟲が、その赤い目をぎらつかせながらこちらに急降下してきているのを。
「レ――!」
俺がレオに警告するよりも早く、レオが剣をしまおうとした、その腕にばっと着地した蜘蛛はそのままレオの肉に食いついた。
「!?」
噛み付かれたレオは突然の痛みからか、左の剣を落としてしまう。
「くそっ! この野郎!」
レオの剣を拾った俺はレオに噛み付いていた蜘蛛を力いっぱい斬り捨てた。
「大丈夫か!?」
「う、うん……ボクは大丈夫だから、とにかくここを離れよう――」
俺たちは武器をしまって落ちていた素材を回収して森を出た。
●●●
俺たちは、森を出てすぐに街道に入った。
さすがにここまでくれば安全だろう。
「とにかくレオ、街に着いたら医者に見てもらおう」
そう言って振り向いた俺はレオがちょうど倒れるところをみてしまった。
「レオ! おい!大丈夫か!」
近寄って見れば、息が荒く、高熱を発していた。
風邪だった様子もないし、考えられる可能性は絞られる。
そう、俺たちを襲ったのが毒蜘蛛だった可能性だ。
しかし、周囲を見ても民家など無く、旅人なども見ていない。
「くそっ! 何か無いのか何か……!」
悔しいが、解毒薬なんて持ってないし、回復魔法だって知らない。
こうなったらレオを担いで街まで走るしかない、街まで行けば解毒薬か回復薬があるはずだ!
そう思ったときだった。
『《
突如、頭の中で機械的な音声が響いた。
――作成……? 何だ……?
『《作成者》条件を達成――スタンバイ』
意味がわからない。だが、この際なんでもいい、レオを助けたい!
そう強く思い、手に力をこめた。すると、機械的な音声がまた響いた。
『実行容認確認――』
「なん――」
言い終わる前に俺は見た。俺の手が触れている、さっき拾ったクーゲの実とレオが拾っていた横たわっている草が一瞬にして消えたのだ。
と同時に少しの脱力感。
『《作成者》工程完了――容器の不所持を確認――魔力の余剰を確認、《創造者》にて代用を実行――完了』
先ほどよりも強い脱力感に襲われた俺は、しかし、何も無い空間から目の前にガラスの容器が出現したのを見た。その中に薄い緑色の液体が満ちていた。
「これって……」
色合い的にゲームとかである、俗に言う『ポーション』ではないか? 指に付けて甞めてみると苦い。だが、薬剤的な感じで効果はありそうだ。
「くっ、あてはないんだ、これでどうにかなってくれ」
液体をレオに飲ませる。
すると効果があったのか、次第に荒い息だったのが落ち着いてくる。
とはいえ、安心はしていられない。
レオを抱き上げた俺は残りすべての魔力を振り絞って魔流活性でラインアルストまで走った。
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