12.街の外でのクエスト
今日も今日とて、晴天だ。
俺がレイ・ウィングズに来てから既にニ週間が経過した。
ギルドに連れてこられた際の事から、俺に疑心だった連中の誤解も解けたため、ギルドにはうまく馴染め、レオやリーシャ以外の知り合いも増えつつある。
あれからリーシャとの特訓は毎日続いている。そのおかげか、魔流活性については問題なく使えるようになった。
武器である銃も誰も使わないということから、ギルドのものを借りて練習したおかげか、ある程度はものにした。実戦はまだ経験が無いが、そろそろ普通の動物を狩猟するクエストぐらいであれば受けられてもいいはずだ。
仕事の方も順調だ。
ランクFの仕事というのはあまり儲からない、ということがギルドでの一般認識らしいが、一日を過ごす分には余裕が出るほどだ。それも俺の場合は住居分が浮いているからか。
というより他のギルドメンバーのやつらは、もらった金を酒場とかでパーッと使い過ぎなだけだと思う。
しかし、環境に適応すると人間はどうにもそれ以上を欲するようになるらしい。
電気が無いのにはもう慣れてしまったし、このファンタジー世界においては仕方が無い問題だ、それは置いておく。
端的に言えば食事だった。
「日本の飯が恋しい……!」
この世界でも米は生産されているらしく、食べようと思えば食べれるわけだが、如何せんお世辞にも美味しいものとは言いがたい。
加えて、調味料の類も決して良いとは思えない、というかあまり無い。例えば醤油だ。それ以外にも、慣れ親しんだマヨネーズやソース等も無いのだ。否、調味料という文化自体はあるようだが、基本は塩、とかそんなのばかりで、日本の一般生活で使われる味には到底及ばない。
食事の味自体も悪くは無いのだが、未だ旨い! と心から思うものには出会ってない。
――やっぱ日本って飯がうまいところだったんだなぁ……。
しみじみと思った。
こちらに来てから外食しかしていないが、元は一人暮らしで自炊もしていた身だ。
……マヨネーズぐらいなら何とか作れないかな?
以前テレビかなにかで作り方を見た気がする。醤油は醗酵やらなにやらの手順があり、素人である俺では到底作ることはできないだろう。
どうにか食生活を豊かにする、それが俺の目標の一つに掲げられたのは言うまでもない。
●●●
さて、今日は初めてラインアルストの街の外での仕事だ。ランクFの採集クエストであり、町の近くにある森で木の実をとってきてほしいというものだった。
目的地は安全が確認されている森林だが、この世界に来たとき、ガルフに襲われた森だって、街の近隣だということを考えると油断は出来ない。
俺一人で大丈夫か……? とクエストボード前で思案しているとレオが話しかけてきた。
どうやらレオも同じ森に違うものを採りに行くようで、ランクEで核上のレオがいれば心強い。俺は便乗させてもらうことにした。
●●●
「ここが目的地だね」
ラインアルストを出て徒歩で一時間で俺たちは目的の森に着いた。
「とりあえずレオの用事を済ませちゃおうか」
こちらは便乗させてもらっている身だ。
レオが探しているものは『ハイモン草』という植物らしく、何かの薬に使われるらしい。
「前にも来た事があるからどこにあるかは覚えてるんだ」
レオが言いながら、森を進んでいく。
10分ほど歩くと、ふとレオが立ち止まった。
「えーと、たしか前はここに……あった」
「それがハイモン草か? なんか……」
俺にはどう見ても雑草にしか見えない。
残念ながら俺は花の名前も本当にメジャーなもの以外はわからない人間なので、草の種別なんてつくわけもない。
「ははは、ボクも最初は、今のジュンイチみたいな感じだったよ。でもこの草、けっこういろんなところで使われるみたいだからジュンイチも覚えても良いかもしれないよ?」
言いながらレオは適当な量を刈り取るとアイテムポーチに詰める。
「……レオはストックスだっけか、あれはできないのか?」
「収納魔法? ボクは全然できないよ。アレができる人って実は結構少ないんだよ?」
「そうなのか?」
「うん、ストックスは分類的には無属性の中級魔法に当たるんだけど、クセが強くて習得するのが結構難しいんだ。しかも覚えても保有魔力量で収納量も変わってくるからボクとかが覚えてもあんまり物はつめられないだろうなぁ……」
そういえばリーシャに魔法について講義を受けたときに魔法の等級を聞いたのを思い出した。
等級は全部で7種類あるとされ、下から下級、中級、上級、超級、滅級、覇級、神級だそうだ。
魔法の大部分は下級と中級で占められており、上級は高度な魔法ばかり。超級は戦争において状況を覆すことが出来るレベルだと言う。戦略兵器か何かかよ。ちなみに滅級と覇級は使うことや会得することすら禁止されているらしい。神級にいたっては神話だけの存在とかなんとか。
下から二番目なら簡単そうなものだが、現実はそうでもないということか。
俺とレオは次の目的地に向かって歩き出した。
「ラインアルスト支部でもストックスが使えるのは支部長とケインさん、あとはリーシャさんぐらいじゃないかな?」
「え、そんなにいないのか!?」
三人、しかも実力者ばかりだ。つまりそれぐらい難しいということか。
「ストックス自体は中級魔法だけどやっぱりクセが強くてねー。一度できれば簡単だ、なんてケインさんは言ってたけどさ」
「うーん、今夜あたり、リーシャにでも聞いてみるか。レオも一緒にどうだ?」
「えっ、い、いいよ。二人の邪魔しちゃ悪いし……」
別に邪魔になることなんてないんだが。
言っている意味はわかる。しかし、だ。あんな可愛い子、既に彼氏の一人や二人はいるだろう。
「じゃあ、コツとか聞き出せたらそのまま教えるよ」
「ありがと――あ、あれってクーゲの実じゃない? 確かジュンイチが必要なやつでしょ?」
言われて、俺はレオが指差した方を見た。
確かにあった。
生い茂った木の、少し高い位置に親指大の赤い実が生っている。
「これなら魔流活性で跳ぶ必要も無いな」
軽く跳んだ俺はそのままクーゲの実を掴んだ。
それを何度か繰り返し、両手いっぱいになるまで採集する。
「っと、これぐらいあれば十分か」
「そうだねー、あまり採り過ぎたら今度は実らなくなっちゃうかもだし」
「おう、しかし簡単に見つかったなぁ。俺の予想では夕方ぐらいまでかかると思ったんだけど、これなら昼過ぎには街に戻れるだろ」
「まあ、ランクFの仕事だから、そこまで難しくは無いはずだよ。でも、ジュンイチもそろそろ討伐クエストの受注許可とか下りるんじゃない?」
討伐クエスト。
その名のとおり、対象を討伐することが目的のクエストだ。
魔物の素材が欲しいだの、被害があって困っているなどの魔物討伐クエストは多々あるが、実は対象は魔物だけではない。
ランクFでは魔物ではなく、一般的な動物、例えば害獣などの駆除などが主なクエストとなる。
「確かに、俺もこの銃に慣れてきたしなー。魔物は無理だけど普通の動物くらいならなんとかできそうだ」
肩から紐で担いでいる銃を見る。
「銃かぁ。ジュンイチも珍しいもの選んだよねー」
「それ言われたの何回目かわかんないぞ」
他愛ない話で盛り上がる俺たち。
その時、ふと、俺の視界の端――上の方で何か黒いものが動いたような気がした。
……ん?
俺は気になって、頭上にある大きな木の枝を見た。
その瞬間、視界に入ったのは、人間の頭部ぐらいの大きさの、蜘蛛だった。
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