11.魔流活性

「それでは今からジュンイチさんには魔力を扱えるようになってもらいます」


 いきなりの要求が来た。


「魔力を扱う、つったって……」


 難易度が高すぎる気がする。魔法と魔力について、理屈はわかったが、結局のところ魔力そのものについては未だ理解し切れていないのだ。

 困った様子の俺を見て、うーん、という風にリーシャが腕を組んだ。

 ――強調、強調されてるよ! リーシャさん!

 煩悩いっぱいの俺に対して、リーシャは真面目に提案してくる。


「――そうですね……では、自身の魔力を身体中に流れる『気』のようなものだと思ってください」


「あれ、なんか胡散臭い話になってきてないかな?」


「……あくまで例えです。真に受けないでください」


 ごめんなさい。


「まあ、良いです。話を戻しますが、魔力を扱えるようになったら、そのまま魔力で身体能力を強化する『魔流活性まりゅうかっせい』というものをできるようになってもらいます。魔法を教えるのはそれからです」


「まりゅー……かっせい?」


 また聴き慣れない言葉が出てきた。

 

「はい。……とは言っても、ジュンイチさんは、あの日、私から逃げる際には出来ていたようですが」


 ――そうだ。普通、俺が出せないような速度で走った、あれか。

 俺は既に魔流活性とやらを行っていたようだ。

 だが、疑問が出てくる。


「でも、何でできてたんだ? 魔力なんて今聞いたばかりだし」


「魔流活性は身体の一部分に魔力を集中させて強化するものですから、おそらく逃走する際に無意識に魔力を操作していたのでしょう」


 たしかにガルフから逃げる時もリーシャの時も足にすごい力を入れていた気がする。


「この技は先ほどから言っている通り、身体強化ですので、戦闘だけでなく、日々の肉体労働にも応用が出来るんですよ。その点から見ても、やはり今のジュンイチさんには必要なことだと思います」


 そうか、身体を強化できれば今まで持つ事が出来なかったものや辛かったものも楽々になるということか。

 それならぜひとも欲しい。


「そうですね、とりあえず腕から先を魔流活性して昨夜まともに持てなかったこの剣を持てるようにしてみましょう」


 言われたとおり、腕に力を入れてみた。そのままリーシャから剣を受け取ってみた。

 だが、昨夜と同じく、重いままだ。


「筋肉を強張らせる、という意味で力を入れるという感じではなく、落ち着いて、意識を腕から先に集中して、力を送る感覚です」


 なるほど、リラックスして意識を集中させる。

 俺は深呼吸して、腕から先に『気』を送るイメージを意識した。

 するとどうだ。スッと剣が持ち上がったではないか。

 これはすごい。


「基本的には今のように、腕を強化して重いものを持ったり、脚力を強化して移動速度や俊敏性をあげたりする用途が多くなるとは思います。

 ……あとはそうですね、こめる魔力の質にも寄るのですが、剣や矢などで攻撃を受けても魔流活性で身体を強化していれば、傷を受けなくなったりしますね」


 まさに攻守を一手にまかなえる技ということか。しかし、


「それって常に身体中を魔流活性してれば強くない?」


「うーん、それが出来れば苦労しません。それなりに魔力は消費しますし、集中力だって必要です。そんな離れ業、現実で出来る人が居るとしたらもう人間を超えていると言うか……」


 たしかに、この集中力を常に維持してるってしんどい。


「ともあれ、普段の日常生活であればよいのですが、こと戦闘においては瞬時に発動できなければ命に関わることもあります。そこで今日からしばらくはこれを練習していきます」


「そっかー。すぐ魔法使えると思ってワクワクしてたんだけど」


 俺としては正直期待はずれ、という感覚だ。

 手から火の玉とか出せると思ってたから余計にだ。


「そう言わずにがんばってください。これができれば魔法も近い感覚でできるようになりますし。そもそも戦闘に使うのですから、真面目にやっていただかなくては」


 それに、とリーシャは一息ついてから間を開け、顔を横に背けてから俺に言った。


「――せっかくできた友人なんですから、討伐クエストなどで危ない目にあってほしくないんです。だから、がんばってください」


 あ、なんかずきゅーんときた。


「はい、リーシャ先生の言うとおりにします」


 自分で言うのもなんだが、俺は単純な生き物だと思う。

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