10.魔法について

 次の日も俺は、昼は雑務系クエスト、夜は戦闘訓練という日程を組んでいた。

 クエストの方は今のところ、問題なくできている。

 強いてあげるとすれば、この街の把握、どこに何があるかがわかっていないことが問題だった。

 ギルド支部と宿舎周囲はほぼ覚えたが、それ以外はてんでわからない、という状態だ。

 ……今度、レオに頼んで街を案内してもらった方がよさそうだな……。

 今朝、レオと食堂でしていた雑談を思い出す。

 この世界は王制で成り立っており、大陸中央に王都、そこから東西南北に、その地方において最も重要な大都市が置かれているらしい。

 ここ、ラインアルストは大陸東のライン地方北部に存在しており、一番近い大都市は『極東都市ラインベルニカ』。アーインスキアとの戦時中、中央政府が置かれていた都市であるらしく、当時は王都を占領していたアーインスキアとの戦線がこの街の近くにもあったという。

 しかし、レオの話しぶりからして、やはりこの世界には『国』という概念が無いようだ。おそらく、それに変わる存在が『都市』なのだろうが、それもあくまで地方自治体のようなもので、この世界の統治権は王都に居るという王様が持っているのだろう。

 ――世界征服を望むやつが居たら羨みそうだな……。

 俺の世界なんて同じ世界の人間同士で国境ちょっとを巡って戦争が起こったりするのだ。もしかしたらこの世界も、魔物や異世界という存在――共通の敵がいるからこそ、そうならないでいるのかもしれない。


 話を戻すが、やはり道がわからない状態はよくない。地図でも買った方が良いか、観光名所でも無さそうなこの街に売ってるのかわからんが。

 ……GPSがあれば楽なんだけどなぁ。

 GPSがあれば、今自分がどこがいるか地図に表示されるので、迷うことも無い。

 GPSといえば、俺の持っているスマートフォンだが、まだ電池残量は半分残っており、基本的にスリープモードなので、まだ使えはするだろう。とは言っても、現状用途としては、時間を見るくらいで、それもこの街の時間ではなく、日本時間だ。

 どうやら時間の流れは世界が違っても同じらしく、俺がこの世界に来てから5日ほど経っているわけだが、その分日本時間も同じように進んでいた。

 きっと今頃、警察が俺の行方を捜していることだろう

 ……御袋と親父、舞も心配してるだろうな……。

 舞とは歳の離れた俺の妹で、今は高校生をしている。俺としてはずっと家族、そして仕事の後輩が心配だった。

 一緒に左遷させられて、俺だけあの世界からおさらばしたのだ。

 もう会えない、と決まった訳じゃないが、とは言え今は手段もない。

 しょうがないと、気持ちを切り替えて俺は訓練場に入った。


 今日も昨日に引き続き、リーシャとの訓練だ。

 訓練場には既にリーシャがいた。


「悪い、待ったか?」


「いえ、私も先ほど来たばかりですので」


「む、そうか。じゃあ、今日もよろしく頼む――しかし、悪いな。時間とらせちゃって」


 リーシャとてやりたいことはあるだろうに。


「任されたことですから。それに、人に物事を教えると言うのは自分の取っての再確認もできることなので、無駄ではないですよ」


 しっかりした子だ、いいお嫁さんになるだろう。

 そういえば、昨日リーシャを見たレオがたじろいでいたが、やはり彼女は男性に人気があるのだろうか、あるだろうな。

 そんな子とマンツーマンの個人レッスンなんてドキドキするなぁ。

 しかも今日のリーシャは、服装がいつもと違って軽装で、身体のラインが結構わかる感じだ。長い髪も今日は低い位置で結わえてるからか、印象が若干違って新鮮だ。


「それでは、早速開始しましょうか」


「おう、そうだな――」


 言いながら俺は訓練場にある昨日と同じ銃を手に取ろうとする。

 しかし、それをリーシャが制止してきた。


「あ、いえ、今日は武器は使いません。すみません、先に言っておくべきでしたね」


「ん? じゃあ何するの――?」


「武器の扱いや戦闘の仕方なども重要ですが、今日はどのような戦い方においても、基礎となるものを勉強しましょう」


 そこでリーシャは一息ついてからこう言った。


「――魔法です」



●●●



「え、マジ? もう魔法教えてくれんの?」


 これは予想外だ。てっきり今日から魔物との戦い方などの座学か、筋肉付けるための苦しいトレーニングが待っているものとばかり思っていた。


「……とは言っても、まずは魔法の手前、基礎の基礎からです。いきなり魔法を教えても難しいでしょうし」


「ですよねー……」


 とは言え、俄然やる気が出てきた。魔法を使うことは、俺がこの世界に来てから一番期待していたことでもあるのだ。


「手始めに聞いておきます。ジュンイチさんは魔法をどのようなものと認識していますか?」


「え、うーん……なんでもできる夢のような力? 俺のいた世界じゃ実在しない想像の産物だったからなぁ、それぐらいの感覚だ」


「――なるほど、では、やはり最初から説明した方が良さそうですね」


 そうしてくれると助かります。なんせ、俺はこの世界に着たばかりの初心者だからね。


「まず、『魔力』について説明しましょう」


 リーシャが言うには、この世界には――厳密に言えば他の世界もらしいが、あらゆるところに魔力が漂っており、それを『空間魔力』と呼ぶらしい。さらに言えば、俺たち人間や魔物を含めた動物、果ては植物などの生物は『空間魔力』とは別に魔力を保有しているらしい。


「魔法は、空間魔力か自身の保有している魔力、どちらか片方、種類によっては両方を消費して行使します」


 そう言ってリーシャは右の手のひらをこちらに差し出す形で上に向けた。


「――ラムフレイズ」

 

 リーシャがそう唱えると彼女の右手から炎がしゅっと立ち上がった。

 おー、すげぇ……。


「……火を熾すのに必要だった燃料を魔力で肩代わりした、今はそんな感じか?」


「ご名答です。詠唱などを通し、魔力を消費して、初めて魔法が使えるという訳です。なので、決して楽でもないし、無限に使えるという訳でもないのです」

 

 なるほどなあ。

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