2.左遷サラリーマン、目を覚ます
最後の光景は石や草がある地面。そこで目を瞑ってしまった。
「――はっ!?」
目を覚ました。
寝起きのような、少しぼんやりした気分だ。
……俺どうしたんだっけ……?
そう……確か、きつねを避けて、ガードレールに直撃して――。
「そうだ! 崖に落ちて――!」
死んだのか。であれば、ここは天国?
ばっと起きて周囲を見渡す。
「んー……ん?」
天国? 俺にはただの森にしか見えない。
ふと、身体を確認してみた。
ガードレールに直撃した際についた傷などはあるが、五体満足。足だってちゃんと着いてる。
天国ならば天使の一人や二人、お迎えがあってもいいものだ。それがない……。
ということは俺死んでない――?
「ほっ……」
一応の安堵がこみ上げてくる。
だが、そこで新たな疑問が出てきた。
「で、ここ何処だ……?」
知らない森だ。否、森を見分けるほど詳しいわけではないが、それでもわかることはある。
まず俺は崖下に転落したはずだ。だが周囲を見渡しても記憶の風景とは異なる。
第二に、俺のオートバイがない。あの高さから落ちたらまぁ大破は不可避だろうが、それにしたって近くに残骸とかあるはずだ。
はっきり言って、謎の状況だ。混乱してきた。
そこでふと、記憶の隅に引っかかりを覚えた。
そうだ、前に漫画で読んだ。俗に言う『異世界転生』そのまんまの状況だ。
つまり俺は崖下で地面にグシャアして転生して異世界に来てしまったというのか……。
「――ははっ、ばかばかしいな」
自分で否定する。現実的ではない。
だいたいその漫画だとチート能力やら武器やらをくれる女神様が居た筈だ。だけどそんなのいやしない。
と、すれば行き着く考えは一つ。
「夢見てるんだな俺」
そう、ツーリングに行ってベンチかなにかで横になって休んでるうちに寝てしまったとか、そんなところだろう。
できれば左遷のところから夢であって欲しいんだけど。
ツーリングのためのメッシュジャケットを着てる時点で、後者の願いは可能性が低い。
「ならとっとと目を覚まさないと」
……夢から目を覚ますってどうやるんだ?
定番は頬をつねる、か。
ヘルメットをはずして実践した。
「……いてえ」
痛いだけだった。
その後数分間色々試したが、夢が覚めるとかそういう変化は無く、疲労が蓄積しただけだった。
「――くそっ、よし、これが現実だとしよう。まずは現状を確認だ……」
そういって俺はポケットをまさぐった。目的のものは幸いにして、ポケットから飛び出さずにいてくれたようだ。
スマートフォン。壊れている可能性もあったが、電源を入れればスリープから解除される。
「っと、まず電波は……だめか」
これがどうにかなっていれば、全て解決したようなものだったんだが。
ならば次は、
「時間は14時35分……休憩所を出たのが11時30分だから約3時間寝てたわけか」
次は持ち物だ。と言っても、実家からそう遠いところを走るわけでもなかったので、最低限でいいかと財布と携帯電話、ハンカチぐらいしか持ってきてない。
「うん、財布はちゃんとあるな……中身は、変化なしと」
諭吉さんが一人と野口さんが八人ほど、その他硬貨多数。
持ち物は変化なしだ。
「あとは俺のバイクがあれば完璧なんだが……」
これは周囲をざっと見渡しても部品一つ見つけられない。
「諦めるしか、ないか」
愛車を簡単に見捨てられるわけではないが、現状イレギュラーが過ぎる。
「さてと」
俺は衣服に付いた汚れを払いながら立ち上がった。
とにかく、動かなければならない。
これが夢だろうと現実であろうと、ここにいるだけでは状況は良くならない。
現に悪化していることが一つ。
「腹減ったなぁ……」
昼食を逃している。まだ腹が減っただけですんでいるが、これからそれが良くなるとも限らない。
――とりあえず人だ、人を探そう。ここがどこで、一体どんな状況か、俺だけじゃまったくわからん。まずは情報が必要だ……あと飯……。
周囲は木々で囲まれており、方向などわからないが、幸い倒れていた場所が道のようになっているので、これをたどればどうにかなるだろう。ならなければやばい。
そうして俺は、見知らぬ大地で、移動を開始した。
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