02 バイキング

 正午には他の勇者の方々とビュッフェ形式の昼食会だそうだ。


 会場に着いたがまだあまり人はいなかった。そんな中長い黒髪に横髪を切りそろえた姫カットに赤い眼鏡の女、鈴村を見つけた。鈴村は紺色のドレスを着こみ片手にお皿を持って既に昼食を取っていた。


 鈴村もこちらに気付いたようでフォークを止めてこちらに歩み寄ってきた。そうして近くのテーブルにお皿を置いて俺の目の前でロングスカートを翻して一回転した。


「どう?」


 腰に手を当てポーズを取り小首を傾げる鈴村が感想を求めてきたので俺は素直な感想を述べることにした。


「何というか、着せられた感が強いな」


 俺がそう言うと鈴村は「やっぱり?」とつぶやいた。


「微妙に似合ってないわよね~、この服」


 鈴村は自身のスカートを軽くつまんで少し振る。元の世界では鈴村は自身の足が長いことを生かしたラインのでるパンツやスカートを履いていたので、俺としてはロングスカートの鈴村を見るのはなんとも新鮮な光景だった。


「ワンピースの方が良かったかもしれないんだけど、何というか怖いのよね」

「あれか?ミニスカートだと下品な女に見られるからか?」

「そ、あれって売りをやってる女の子が始めたって言うじゃない?だからこの世界だとわからないけどいきなり印象を悪くされるとね……」


 そんなことならメイドの女性にでも聞けば良いと思ったが、鈴村が若干人見知りなことを思い出した。


「図書館の方はどうだった?」


 話題を変えると鈴村は意外そうな顔をした。


「どうして私が図書館に行ったの知ってるの?もしかして私の部屋に来た?」


 俺はうなづいて部屋のメイドに聞いたのを話した。すると鈴村は徐おもむろにため息をついて言った。


「図書館はだめね。全然字が読めない」


 俺はそれを聞いて目を丸くした。


「でも言葉は通じるだろ」

「それはね、多分勉強したからだと思うの」


 俺はそれを聞いて目が点になり思わず「まじ?」と聞き返した。


「大まじね。私たちの日本語はこの世界では外国語なのよ。図書館を案内された時司書の人にはっきり言われたわ」


 鈴村はため息交じりにそう言った。


「異世界なら異世界人特有の自動翻訳能力があると思ったんだけどなー……」

「自動翻訳能力?」

「正義は異世界小説読んだことないんだっけ?」

「まあな、結局異世界についても聞けずじまいに終わったからな」


 鈴村は「そうだっけ?」と言い、あの時のことはあまり覚えていないようだ。


「まあいいわ、私たちみたいにね異世界に跳躍した人たちは神様からチート……祝福されてなぜか異世界の人と会話ができる能力を得るのよ」


 そんなものがあるなら俺たちは英語を勉強する必要がないな、思わずそう思ってしまった。


「作品によっては時々字まで読めないこともあるんだけど、多くの作品では主人公の能力で字までなぜか翻訳できるのよ」


「まあ、俺たち神様に会ってないからな」

「死んでないからね……」

「よう!」


 死んだら会えるものなのだろうか?そう突っ込もうとしたところで谷風が輪に入ってきた。丁度良いので先ほど鈴村から聞いたことを教えてやった。


「俺たちの言葉が外国語か~……」


 谷風は神妙な顔つきで顎をさする。


「勉強するしかないのか~」

「まあ、そうなるだろうな」


 俺がそう言うと「勉強会でもするか?」と提案した。しかし谷風はなぜか片手でそれを制した。


「それなら俺は割とSなメイドの美少女に教えてもらいたい!」


 お前は一体何を言っているんだ?瞬間俺はそう思った。


「そんな女の子いたのか?」

「いや、これから探すんだ」

「……」


 俺はまた意味が分からず絶句した。しかし鈴村は神妙な顔つきで「わかるわ」とつぶやき谷風に同意した。


「私もそれならイケメンが良いもの!もしかしたら王子様が面倒見てくれるかもしれないし!」


 鈴村の鼻の穴が広が顔面がひどくなっている。


「イケメンの貴族の男子とか!あ!執事でも良いわ!そんなイケメンに優しく教えてもらいながら『そこ、間違ってるよ』ってきゅんきゅんするようなこと言われたいもの!」


 俺はすぐについていけなくなり「そうか」とだけ言って二人を置いて食事を取りに行くことにした。


「あの」


 俺がお皿を持った瞬間声をかけられたので振り向いた。


「こんにちは」


 声をかけてきたのは黒髪でミディアムヘアの女だった。黄色いドレスを着こみ、色は白く大人しそうな印象を受けた。女は昨晩同じくあの場にいた勇者の一人だ。


「私、高千穂玲奈(たかちほれいな)って良います」


 俺は唐突な自己紹介に「はあ、どうも」と頭を下げた。するとなぜか女、高千穂も慌てて同じように頭を下げた。


「扇正義です。よろしく」


 右手を差し出すと両の掌で握られた。


「よろしく!」


 笑顔の似合う女だと思った。


「もうすでに何か食べました?」


 そう聞くと高千穂は少し顔を赤くして「少し」と控えめに答えた。


「どれが一番おいしかったですか?」


 そう聞くと高千穂は迷いなく「唐揚げです」と答え俺は思わず笑ってしっまった。この少女には少し天然なところがあるのかもしれないと思った。当の本人はなぜ俺が笑っているのかわからずおどおどし「どこか変でした?」と聞いてくる始末だ。


「いえ、異世界に唐揚げがあるんですね」


 俺が意地悪に答えてやると高千穂は反目に俺を「信じてませんね」と睨んできた。それから何かを急にひらめいたのかなぜか目を閉じるように言われ、言う通り目を閉じると高千穂はおどけるように言った。


「さあ扇さん、お口を開けてください。馬鹿を見たのはどちらでしょう?」


 瞬間彼女とは仲良くやれそうだと思った。

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