彼岸花

5-1

 小学校の敷地の中に、小さな森があった。

 主にどんぐりの木が生えていて、「みんなの森」という名前がついていた。

「みんなの森」の真ん中に私たちのお気に入りの木がある。どんぐりの木のなかにぽつんとたつ「きぃもも」である。発音は、木桃ではなくキーモモだ。

 正式名称はヤマモモ。表面にぷちぷちのついた真っ赤なビー玉くらいの実のことだ。

「きぃもも」は甘酸っぱくておいしい。私たちは、よく下校する前にその森に寄って「きぃもも」を食べに行った。思うとよだれが口のどこかから出てきた。


 ある日、すーちゃんが「きぃももに塩をかけて食べると美味しいらしい」という情報をどこかから得てきた。

 試してみようと私はいったん家に塩をとりに帰った。袋に入った新しい塩の在り処は分っていたので、袋ごと引っ付かんでもう一度「小学校へ行く坂」を登って学校の「みんなの森」へ行った。

 森の外側を囲うように置いてある石の上に、腰かけてすーちゃんは私を待っていた。

「すーちゃん!塩、あったよ!」

 ぱんっぱんっとスカートについた砂を払い落としているすーちゃんはどこか浮かない顔。

「ダメ。全部落ちとる」

 森の真ん中に生えているヤマモモの木。周りには、真っ赤な実が大量に落ちて粉っぽい砂を彩っている。

 木には、高いところにわずかに実は残っているが届くような場所にはもう、食べられそうな実は残っていない。全て、木の下に落ちて黒ずんでいる。

「あーあ」

 仕方がないので、私たちは石に並んで座って少しだけ塩をなめた。

 嫌なことは続くものだというけれど、私たちの残念な気持ちはここが最高地点ではなかった。

 ぽっつぽっつと膝に、水分が降り注ぐ。

「え、」

「ちょっと!鼻血出とるよ!!」

 膝に降り注いだ、真っ赤。

 真っ赤は次々と私の膝に、円を作っていく。まっか、まっかまっか。

 見ていると私は、何故か彼岸花のことを思い出す。

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