3-2
「大丈夫?」
すーちゃんが心配そうな声で言うもんだから、私は、泣きたくなってしまう。溝の周りの、草花が揺れている。
私は、揺れる草花の中にあの花を見つける。
「あっかんべーをする花」だ。
花は真ん中にこんもりと黄色の花粉が構えられ、その周りを白くて細長い花びらが無数に付いている。背の高い茎に、ぽんと乗ったその花は小さくてとても可愛らしい。
「ここを押してみて。ほら、『あっかんべー』 ね?」
その花をぶちりともぎ取り、茎と花をつなぐ緑をそっと持つ。花を二つに折るような要領でそこからパタンとつぶすと、花粉が折りたたまれた花びらの間から、にゅーっと出てくる。それは、まるで「あっかんべー」をしているようなのだ。
「あっかんべー」
私も、すーちゃんに教えられたとおりに花粉を潰してみる。にゅーとヒメジョオンの舌が現れた。
私は、溝の中からその花を見つけるともっと情けない気持ちになった。水はどんどん靴下に染み込んでいる。
あっかんべーをする花が、私をバカにしているように揺れる。
「制服も、濡れたし、ちょっと一足先に帰るね!」
すーちゃんが、返事をするのも聞かずに駆け出す。
長靴は、走りにくい。何度も脱げそうになる。水をたっぷり吸いこんだ靴下が、長靴の中でぐっちゅぐっちゅと音を立てる。走らないと泣きそうになる。
いつも、すーちゃんと歩く道を、ひとりで走っている。道端のどこかしこでも咲く、あっかんべーをするヒメジョオン。
群れを成した彼らは、そろって私をバカにするように揺れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます