2-2

「雨って汚いんやなかった?」


 私は、例の「大人が子どもに覚えてほしいこと」の知識を披露する。



 前に、雨が降る中、口を開けたまま上を向いて歩く男の子を、母と見た時、「雨は、飲みもんじゃないけえね。汚いんよ」と言われた。


 男の子は、幾人、狂ったみたいに「ふはははは」と笑いながら、上を向き続けている。


 私は、こんな小さな雨粒、口に入ってくれるんやろうかとぼんやり思っただけだった。

 真似したいとも思わなかったので、今のいままで母のくれた知識を忘れていた。



「ううん。こうやって、葉っぱに一回くっついた雨は、葉っぱによってきれいになるんよ」


 そういって、また、すーちゃんは椿の葉を撫でた。


「そうなんや」



 私も、真似をして椿の葉を撫でてみる。

 わずかな雨水が私の人差し指に薄く乗る。口に入れるとなんだか葉っぱの味のする水だった。




 私とすーちゃんは、雨が降るたびにその葉っぱによって浄化された雨水を少しだけ飲んだ。


 椿の葉は、つるんとしていて良い。たんぽぽの葉や、あじさいの葉っぱは、なんだか駄目だと二人で決めた。






 何かの時に堂々と母にこの知識を披露した私は、案の定叱られてしまう。


「そんなことあるわけないでしょ。汚いんよ。雨は。」



 空は、あんなに綺麗で、その綺麗な空から降ってきた真新しいものなのになんで汚いんやろ。


 すーちゃんに聞いたけど「わからん」と言われた。



 私は、それ以来、雨粒を飲むのをやめたが、すーちゃんは、ときどきすくって舐めていた。






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