生首とティータイム
アルゴはスマホを分析に回すと言って、
「さて、まずはくつろいでもらわなくてはね」
アルゴがそう言うと、さっきのソファーと白いティーカップとかティーポットを乗せたローテーブルが現れた。
「紅茶?」
「そう! 第10892世界『地球』の友人――このボディの
「へぇ……」
ローテーブルの上から見上げてくる生首の
それから、さっき気がついたんだけど、瞳の色がコロコロ変わる。赤だったり青だったり、黒だったり……。奇妙な瞳だけど、この無機質めいた瞳のおかげで、アルゴが人間の生首じゃないとわかる。そのおかげで、早く慣れたのかもしれない。
ひとりでに浮かび上がったティーポットから注がれる紅茶の香りは、ティーパックとかの家庭的なものではない。とてつもなく高級感あふれる香りに、わたしの語彙力が死んだ。
「ビスケットというものも生成できるが、食べるかね」
「あ、はい」
すぐに白い皿に並んだ香ばしい香りがするビスケットがテーブルの上に並んだ。
それまで忘れてしまっていた食欲が、急によみがえる。
「いただきます!」
手を合わせて『いただきます』なんて、小学校の給食の時間以来じゃないかな。
カフェとかでも紅茶に砂糖は必須だったってことも忘れるくらい、美味しい紅茶に香ばしいサクサクのビスケット。
このとんでもない異世界で美味しいものを食べられるなんて、想定外の喜びだ。
「食べながらでかまわないから、聞いてくれたまえ。君の話も、もちろん聞かせてもらうが、その前に君が転移してきた
それって、やっぱりアルゴが偉い人ってことじゃないか。
「もともと吾輩は、故郷エルドラドであらゆる事象を過去のデータから演算し、予測するために造られた人工知能。この
ハァハァしていたの変態とは思えないくらい、まともな表情を浮かべると、
「吾輩の
「わかりました」
それは願ってもない話だ。
憎き灰色の男が突然現れて、ピィちゃんを連れ去ったところから、詳しく話した。詳しく話せば、ピィちゃんの手がかりがつかめるかもしれないから。
「…………で、奴が立ち止まったから、ダッシュして体当りしようとしたら、目の前が真っ暗になって、気がついたら
「なるほどねぇ。犬、と言うのは、第10892世界『地球』の生命体の一種、という認識でかまわないかな」
「はい!」
ピィちゃんが『犬』かどうかは、
とにかく、わたしはピィちゃんを早く見つけて助けなきゃいけないんだ。
「なんで、わたしの他にもピィちゃんと灰色の男が
「灰色の男と黒い犬、ねぇ。……わかった、調べてみるよ」
「ありがとうございます!!」
ローテーブルにおでこがくっつくほど頭を上げて、生首に感謝せずにはいられなかった。
変態とか思って、ごめんなさい。ピィちゃんのこと調べてくれるなんて、すごくいい人だ。
「いやいや、吾輩も非常に興味があるから、しっかり時間をかけて調べさせてもらうよ」
「よろしくお願いします」
顔をあげると、アルゴも浮かび上がった。
「ところで、君の名前は田村凜子で、間違いないかな?」
「はい、そうですけど、わたしの名前がなにか?」
「いや、ただの確認さ」
本当にただの確認だろうか。なんか、気になる顔してるけど、訊いても教えてくれないだろうな。
まぁ、犬ドロボーのことも調べてくれるって言ってくれたし、ね。気にしない気にしない。
「あと、なにか困ったことがあったら、995号に言ってくれたまえ。君の寝食のことは、すべて995号に任せてある。君の第10892世界『地球』への帰還は、三日後を予定しているので、それまで
そう言い終わると、
「よろしくお願いします。田村凜子さま、それでは外に一度案内させていただきます」
「あ、ちょっと待って!!」
アルゴの変態モードのせいですっかり忘れていたけど、また尻もちとかごめんだ。
慌てて立ち上がって眼鏡の位置をなおそうとして、指が空振りする。
「いいよ、995号」
「それでは」
後で、眼鏡も返してもらおう。
■■■_
■■■■_
■■,■■■_
■■■
アルゴ995号の
■.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます