初めての異界人
もう一つ、
この辺境に今、俺たち以外に
「ラッセ、どこだ?」
「えっと、あっち。でも、カテゴリー1でも相当小さいから、間に合わな……」
「間に合わなくても、ぶっ叩くしかないだろ」
ラッセが指差す方に、
「
俺の中に残った
ウノが白銀の大槌に
「3、な。行くぞ、1、2、3っ」
予定外の仕事だが、小さくても
大きく振られた大槌から、
黒い
「飛行
海木のなんかを吹き飛ばすために、
「ラッセ、この方角であってるんだよな?」
『もう見えてもいいはずだけど、もしかしたらもう……』
「わぁった」
自然消滅とか悪い予測は聞きたくない。
曲がりくねった
もしも――なんて考えたくないが、もしも、
弱いが
「あっちか!」
斜め左に方向を変えるけど、嫌な予感がする。
カテゴリー1にしても、だ。
あまりにも、気配が弱すぎる。
気配の発生源には、もう
「……最悪だ」
そのかわり異界人らしき生物が、海木の枝に引っかかっていた。
「
見なかったことにして逃げ出したい気持ちをこらえるのに、苦労した。
「あー、ラッセ。わりぃ、間にあわなかった」
『馬鹿ダル、だから言ったじゃない。で、その様子だと……』
「
『……最悪ね。今から、ウノとそっち向かうわ』
「了解」
通信を終えたはいいものの、大丈夫かな、
異界人の対処なんて、初めてだ。
俺の尻尾も、今日初めて元気なくしたよ。
「ざっくり調べてみたけど、
俺の右肩でため息をつくあたり、
ウノの白銀の大槌の上に寝かせた異界人は、俺と同じくらいの大きさだけど、尻尾もないし、鱗もない。
また黒い布で口を隠したラッセが、異界人の上を飛び回りながら、調査しているが、さっきから悪態ばかり。
「あー、やっぱり、無理。転移直後の異界人とか、初めてだしぃ。
「充分じゃ……ぅわっち! 何すんだよ」
とっさに飛び退いたからよかったものの、絶対、丸焦げになってた。
まだ光っている目のままラッセは、俺の目と鼻の先まで飛行してくる。
「いい?
「わかったわかった。頼むから、にらむなよ。悪かったって」
「わかればよろしい」
ラッセは、時々めんどくさい。
言いたいこと言って満足したラッセは、再び異界人の側に戻って、調べ始める。
「ウノ、しばらく帰れそうにないなぁ」
「…………」
返事がなくても、ウノが俺に同情してくれたのはわかる。あいつだって、白銀の大槌を焼かれかけたんだから、腹が立っているに決まっている。
トビーとは、まだ通信できない。
「なぁ、ウノ、これって、特別報酬とかあるのかな」
異界人とラッセに背を向けて、大槌のヘッドの端から柄を握りしめているはずの姿なき相棒に、話しかける。もちろん、返事はない。
海木の影から、こちらの様子をうかがっている魚たちと目があった。たちまち逃げていく魚たち。俺は
俺たちに影が落ちる。
そう言えば、そろそろこのあたりに島が来る時間だったな。
空を見上げれば、俺たちが消滅させたカテゴリー2の
本当なら、今ごろ、トビーに回収されて、本部に向かっていることだってのに。
そういえば――
「なぁ、ラッセ。さっきのカテゴリー2のやつ、消滅後の影響って……」
「なかった!」
余計なこと言ったと後悔した時には、もう遅かった。
急いで謝らなくてはと、尻尾をバネに飛び上がりながら振り返るれば、案の定、異界人の上で、ラッセの赤い目が不吉に光っていた。
わざわざ、異界人の調査を中断して、俺に指を突きつけて怒っている。
「悪かったよ。ちょっと気になって……あ」
「あんたに、気にされたくな……」
「いや、ラッセ、その…………」
「なに……あ」
ラッセの下で、異界人が瞬きしている。
最悪中の最悪の事態だ。
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