ハロワールド 辺境の地
頭のてっぺんから、尻尾の先まで
排出前は、いつも腹の底に鈍い痛みを感じる。
『1000カウント後、排出します。全員、連続自動展開
「了解、トビー」
降下用の
俺たち
あのイカれた管理者が膨大な記録から演算して組み上げた
そういえば、訓練校の先生が言ってたな。
この最終確認は、連続自動展開
腹の底の鈍い痛みのせいで、尻尾の先まで力が入ってしまう。
『569、568…………437、436、435…………』
赤や青の
その間にも、トビーのカウントは続いている。
『152…………107、106…………97』
カウントが100を切ったあたりから、腹の底の鈍い痛みが熱を帯び始める。
『…………74、73…………』
もう、鈍い痛みはない。
頭のてっぺんから尻尾の先まで、内側から
『……24、23、21…………』
排出が待ち遠しい。
早く暴れたくて尻尾の先までウズウズする。
『17、16、15……5、4』
連続自動展開
『3、2、1、
「
殻の内側に踊っていた光文字が全て消え、真っ暗になったのも、一瞬。
「ひゃっほー!!」
足元の
空を泳ぐ色とりどりの魚たちも、俺たちみたいに風を切っているんだろか。
体をくねらせて泳ぐ姿は、とてもそんな風には見えない。
そもそも、『泳ぐ』ってのがよくわからないけど。
「ダルっ、興奮しすぎ」
「してねぇって」
人がいい気分で、
「しーてーまーしーたー」
「はいはい」
ちょんと、俺の方に座ったラッセは首元におろしていた黒い布で顔の下半分を隠す。虹色に光る氷の体の
「あたしの顔がどうかした?」
「んにゃ、何でもない」
肩乗りサイズのラッセの瞳が赤く光る。
けっこう、マジで怒っていた証拠だ。
口を閉じておかないと、彼女の眼光で丸焼きにされてしまう。
ラッセに向けていた視線を前方に戻す。
「いいよな、魚は。のんきでさぁ」
「ダルって、バカなの? 魚が頭よかったら、気軽に食べられないじゃない。あたしは食べないけどね、魚」
「……俺も、魚は食べないし」
言いたいことはたくさんあったけど、下手なこと言って何倍にもなって言い返されるのは面白くないから、尻尾に力を入れて我慢した。
だいたい、肩乗りサイズのくせに、口だけは俺より偉そうで腹が立つ。
ラッセはトビーと同じ
ラッセも、
連続自動展開
そんなに俺の肩の座り心地がいいのだろうか。
『まもなく、
「了解」
翡翠色の
俺たちの後を追うように降りてきた無口なウノの
極彩色の鳥たちが自由気ままに飛ぶ海を正面にして、全身の
のんきに空を泳いでいた魚たちも、異変の前兆を感じ取ったのか、一匹も視界に入ってこない。
「ラッセ、予定通り、か?」
「ええ。まもなくカテゴリー2の
「わかってるって。ラッセこそ、ベストタイミング間違えるなよ」
「間違えないわよ」
肩に座っていたラッセが、飛行
ようやく、俺とウノ――
琥珀色の海面と俺たちの間に、ぼんやりとした黒い
『カテゴリー2顕現。転移可能状態まで、推定478カウント』
連続自動展開
「ウノ、いつも通り、ぶっ叩こうぜ」
「…………」
それでも、相棒のウノが
『158、157、156…………』
ターゲットの顕現を終えた
はっきりと濃くなった黒い靄が描いた円が、ぐるぐると回転している。
「
頭のてっぺんから尻尾の先まで、金色の
『…………76、75……』
ぐるぐる回転しながら黒い靄――
「まずいな、ウノ。一発で決めるぞ」
「……」
『32、31、30…………』
折り曲げた足をウノに向ける。これで、いつでも
灰色の霞の向こうから、不気味な影がこちらにやってこようとしているのが見えた。
「
「…………」
『……6、5、4、3、2』
「――っ」
ウノの大槌が力強く振るわれた。
大槌に俺の足の裏が触れた瞬間、大槌の勢いを殺さないように
『……0。転移可能じょ……』
「
全身に纏わせていた
異界人のゴツゴツした感触も合わせて、
「うをぉらぁあああああああ!!」
俺を五人分まとめて異界に転移させられる大きさのカテゴリー2の
――――ァァアアン!!
俺の
「うっし!」
消滅した
「サンキュー、ウノ」
「…………」
飛行
「任務完了っと」
そうでなかったら、相棒失格だ。
「なにが、任務完了よ」
「んだよ、ラッセ。俺たちの仕事は終わっただろ」
飛行
口元を隠していた黒い布をずり下げて俺の右肩に腰を下ろしたラッセは、ぶつぶつと自分の仕事は終わっていないとかわかりきったことを言う。
それでも、俺の仕事が終わったことは事実だ。
空を泳ぐ魚たちも、海中を飛ぶ鳥たちも、何ごともなかったかのように戻ってきている。
見上げた空は、いつものようにきれいな薄紅色。今日も
「俺も、早く……」
「ちょっと気が散るから静かにしてよ」
俺の独り言が気になるなら、肩で仕事しなけりゃいいのに。
まぁ、ある意味、よかったのかもしれないけど。
だって、俺も
最強の
灰色のマントで、目深に被ったフードの奥に隠された顔を知らない。
彼こそが、俺が
俺たち
憧れないわけがない。
「え、ちょっ、嘘、マジ、こんなことって……」
「どうしたんだよ、ラッセ」
ひと仕事終えて、いい感じに浸っていたってのに、突然ラッセが騒ぎ始める。
「近くに
「なんだって!!」
俺たちの仕事は、どうやら終わってなかったらしい。
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