=短編:何か変になったキモオタデブ=

MrR

何か変になったってレベルじゃない。


 紺野 ユウスケ。

 キモオタデブと言われる男の名前だ。


 他にもギャルゲー好き。オナニー狂い。部屋はアニメグッズだらけ。変態。

 様々な罵倒をされている。


 実際私――川島 アリサもそうでは無いかと思う程に気色悪さを感じていた。

 イジメを見て見ぬフリをするのは悪い事だ。


 だけど何時も薄気味悪い笑いを浮かべていて、気色悪い言動が目立っている彼は心の奥底で自業自得ではないのか? イジメられる側にも原因があるのではないかと思った。


 それに噂だけど私達女子生徒でオナニーしてているとか言う話しもあって逆に助けるとクラスから孤立しそうと言うのもあった。

 それだけは私も避けたかった。


 だから担任も紺野 ユウスケを半ば厄介事の範疇として放置している。

 そんな日々が続いたある日。

  

 彼は階段から転げ落ちて病院に搬送され、記憶喪失になった――らしい。


「もっと気合い入れろ!! 気合い入れて俺を殴れ!! このピーが!! テメエなんかピーだ!!」


 らしい・・・・・・

 何かとんでもない言葉を口走ってファイティングポーズを取りながら教室でイジメっ子相手に激闘を繰り広げている。

 

「そうだ!! そのパンチだ!! 俺に痛みをくれ!! 俺に生きてる実感をくれ!! この痛みでまだ俺は生きている!! 体が動く!! それこそが生きている喜びだ!!」


 言動が別の意味でおかしくなった。

 まるで人生の負け犬の様に「もうやめてくださいよー」とか「もういじめないでください」とか「僕は豚です・・・・・・」とか言っていたあのユウキ君が何かもうどう説明して良いのかおかしくなっていた。


 凶器攻撃とか普通に使って恐い。

 目が血走っていて椅子とか机とか容赦無く振り下ろしていく。

 

「腕が折れた!!」


 不良の一人から悲鳴が上がった。

 しかし紺野 ユウスケ、容赦はしない。

 

「腕が一本ぐらい折れたからって何なのよ!? 人間には骨が250本以上あるのよ!?」


 と容赦無く折れた腕に追加ダメージを与えていく。

 マジで容赦ない。


「教室で何をしている!?」


 血相を変えて教師が走り込んできた。

 担任の女性教諭である。

 

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」


 何故か奇声をあげながら手に持っていた椅子を教室の外側にある窓ガラスに放り投げた。

 窓ガラスが割れてさらに事態は悪化する。


「元気に教室に登校したら! 何故か頭の悪そうなヤンキーに絡まれ、イヤだと言ったらキモオタと罵倒されて! トイレに連れ込まそうになったら殴られてキレて反抗して! このクラス一体何なの!? 何なのよ!?」


 と教師を怒りをぶつける。

 うん、間違ってはない。

 どうでもいいけど何で女性口調なんだろう。


「こうなりゃもうヤケだ! 裁判でも何でもやってやらぁ! 死ぬ覚悟があるなら相手のタマとりゃいいんじゃ! 戦争じゃ!」


「ちょっとおちつきなさい!」


「これが落ち着いていられるか!? 危うく殺されそうになったし、危うく相手を殺しかけたんだぞ!? この学校偏差値が低いクソ学校なのか!? 停学でも退学でもアンでもしろ! こんな学校こっちから退学してやる! クソッタレ!」


 そして教室から出て行った。


「ちょっと何処行くんだ!?」


「勝手に警察沙汰でも何でもしろ!! ボケが!!」


 彼は走り去っていった。

 嵐の様な一幕だった。

 不良達はシーンとなっている。

 

 その数秒後、放送が鳴り響く。


 第一声がキモオタの「俺は悪くねええ」から始まり、「記憶失ったら突然、頭の悪そうで昭和の戦隊物なら問答無用でイエローに抜擢されそうな連中に絡まれて」云々・・・・・・聞いてるこっちが頭がおかしくなりそうだった。

 

 最後何かもう嘘泣きなのか本当に泣いているのか「どうして俺の人生はこんな風になっちまったんだ! 記憶失ってるから知らんけど!」と締め括られた。

 

 結局全校集会が発生する程の大惨事となり、警察沙汰となった。

 

 嵐のような一日だった。



 紺野 ミユキにとって、私の兄は恥晒しだった。

 両親も良い迷惑に思っていたに違いない。

 部屋もオタクグッズで溢れかえっていたし。キモオタだし。学校でイジメを受けているらしい。

 正直死んで欲しいとさえ思っていた。


 だけど兄は記憶を失って変わった。

 何だか別の意味で悪い方向に。 


「テメェ俺が記憶失う前、息子――て言うか俺にどんな教育施してたんだ!?」


 現在リビングでは激しい家族会議だった。

 片方が兄貴だろうが何だか段々とヤク中に思えて来た。


 最初は両親が苦言を呈していて兄貴も大人しかった・・・が、段々と説教を始めていた。


「テメェ俺のオタク趣味を馬鹿にするのは構わねえ! この国は民主主義国家だ! 犯罪者にも人権はある! 犯罪者にも言論の自由がある! だけどその理論を推し進めるとブランド物のバッグとか酒とかタバコとかはどうなるんだ!?」とか、「じゃあ妹はどうなんだ!? アイツから全部嗜好品の類い取り上げろよ!」とか「お前達は男女平等をかがげておいて自分に都合が悪くなったら声高らかに女性の権利を主張するババアか!?」とか、「俺の味方をしろって言ってるわけじゃねえ! そりゃ暴力は所詮何処まで言っても暴力だ! だが毎日態々学校にイジメられにいけってお前達どんだけドSなんだ!? 普段は家政婦かATMの立場の役割しかやってないクセに都合が悪くなったら親の権利持ち出しやがって!?」とか、外に響きそうなぐらいに大声で言ってるのだ。


 ちなみに途中で窓ガラスを割っているから本当に外に響いていると思う。

 ここ住宅街の一戸建てだ。

 周りにも聞こえていると思う。

 

 ネットも兄貴が起こした事件で話題騒然だ。

 学園での出来事は一部ネットに公開されていて注目を集めている。

 もう学校にも行けないかもしれない。


 最後何かはもう「表でろ! テメェにタマタマがぶら下がっているか確かめてやるこの親父!」とか「お前のタマタマはそんなもんか!」とか「どうした!? 息子にここまで罵倒されてパンチ一発お見舞いするのが限界か!?」とか「どうした!? キモオタデブの俺に劣るへなちょこパンチを放ちやがって! まだジジイのファッ●の方がマシだな!!」とか、「そんなんだから子供を二人しか作れないんだよ!! もっと腰を振ってみろ!! タマ無しじゃなくてタネ無しやろうか!!」・・・・・・もう本当にやめて。私が悪かったから――お父さんもお母さんも泣いてるからさ・・・・・・「どうした!? 親としてのガッツを見せろ!! このピー野郎!」とか「お前達の父親と母親はとんだアバズレ遺伝子だな!」とか「テメェ達は紺野家の恥晒しだな! ピーが!」とか・・・・・・てかどっちが恥晒しよ!?


 現在進行形で貴方が恥の上塗りをしてるじゃない!?


 これならまだ前の方がマシだったわ!?


 家はお通夜状態になって野次馬が集まってきて、警察が何事かと尋ねて来たらお兄ちゃんが事細かに事情を説明して「このタネ無しタマ無しな両親に少し気合い入れてやったらこれだ」と熱弁していた。


 とにかくマシンガントークで警察官の二人も精神に支障をきたしたのか両親に「家庭で苦労されてるんですな。私の家庭の悩みなんか貴方方に比べればへでも無いですな」と涙交じりの優しい口調で語りかけていた。


 もうやめて!!

 

 マジでやめて!!


 両親の精神にトドメ刺さないであげて!!



 今の俺は紺野 ユウスケと言うらしい。


 前世はアメリカ合衆国の軍人で最前線と秋葉原とを行き来していた事からアキバと言われていた。それ以前の仇名は「ヤク中」だ。ヤクやってないんだけどな。

 後は「アンダッチャブルマン」とか「ディザスターマン」だとか色々と失礼な二つ名を付けられていた。

 

 思えば色々とあった。


 誘拐されて、外国の大統領を暗殺してこいと命じられて、人質を奪還して誘拐犯と言う名のテロリスト達を殲滅したり。


 ビルのパーティーがテロリストに占拠されたからテロリストを皆殺しにしたり。


 飛行機のハイジャックに何度も巻き込まれてその度にテロリストを殺したり。


 仲間と一緒に任務でジャングルにいったらエイリアンと殺し合いになったり。


 休暇の都会で過ごしていたらジャングルで遭遇したエイリアンの別個体と遭遇して殺し合いしたり。


 とうとうエイリアンの惑星まで見知らぬ人々と一緒に拉致られて、壮絶な激戦を繰り広げて地球に帰ったり。


 未来からやって来たらしい殺人アンドロイドと戦って逆に未来にいって逆襲しに行ってアンドロイド軍団全滅させて元の世界に帰ったり。


 南極の任務で二種類のエイリアン(一方は都会やジャングルで遭遇し、俺を拉致した奴)との壮絶なバトルロイヤルに巻き込まれて両方を全滅させたりもした。不幸な事件だった。


 ニューヨークで休暇を楽しんでいたらまた別のエイリアン(見た事もない新種)の襲撃に遭って戦うハメになった。

 何かアメコミのヒーローみたいなのが一緒にいた気もするが気のせいだろう。


 後は宇宙の果てからやって来た金属生命体とも戦った。

 何か戦闘機とか戦闘ヘリから変形する浪漫溢れる奴達だった。敵でなければ仲良くしたかった。


 他にも色々あった。


 「地球は呪われてるんだな」と同僚に言ったら真顔で「お前が呪われてるんだよ!」とか「この疫病神が!!」、「お前一緒にいたら命が幾つあっても足りないんだよ!」とか言われた。


 失礼な野郎どもだがあいつらなりの愛情表現だな。

 戦場で培った絆は永遠に不滅だ。


 最後に神と名乗る聖歌隊のガキ以下のペテン師を始末して――結構手強かったが・・・・・・その後は大統領に土下座されて軍を引退し、日本の秋葉原での居住地を用意され、WEB小説のような転生ハーレムを夢見ていた。


 そして気が付いたら俺はキモオタデブ、昔のサモハ●キンポーみたいな体型の体のガキに乗り移った。いや、これはサモハ●キンポーに失礼だな。


 あの神を騙るペテン師の顔が頭を過ぎったが、それはないだろうなと頭を振った。

 

 最後の地下鉄での決戦の時に確かな手応えがあったし。


 そもそも神かどうかは分からない。俺みたいなたかが人間如きに「お前まさか異能生存体なのか!?」とか「死ぬ筈だ! 必ず死ぬ筈だ! 人間ならば!」とか訳分からん事をほざいて怯えていたし。


 てかボト●ズ好きだったのかなあのペテン師?  

 

 まあ今となっては前世――いや、俺が体験した事はもしかするとこの少年は夢でしかないのかもしれない。


 だが俺は紺野 ユウスケと言う日本人として生きている。


 問題なのは体の持ち主はタマ無し野郎、両親もタマ無し野郎、クラスメイトもタマ無し野郎、担任もタマ無し野郎のタマ無しだらけだが、まあ前世と比べれば多少苦労する程度だな。

 

 それとこの世界はギャルゲーの世界なのか、ティーンエイジャーにも関わらず胸が大きくて髪の色とか日本人離れしていると言うか地球人離れしている子とかいるし。

 

 思春期のガキが――この体の持ち主がオカズにしてしまうのも無理からぬ話だ。

 俺もよくギャルゲーとかで抜いた事あったしな。


 頑張れば転生ハーレムとまでは行かなくとも理想のワイフを見付けられるかもしれない。


 頑張れ俺。



 END    

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