ルームで過ごす、楽しい夜 第二夜

 レストランをあとにすると、孝則はゲップ、マッチョと別れて一人でルームへ。

「今日引けた、矢髪さんをルームに設定してみるか」

 入る前に、睫毛本先生から入れ替えてその操作を完了させる。

 そして入室。

「おう、いるいる」

 孝則はさっそくそのお方のうなじに触れてみた。

「いつも同じパンツ穿いてると思われるんだよね。さすがに二カ月に一回は替えるよ」

 爽やか笑顔でこんな反応をされ、

「……」

 孝則の表情は引き攣る。

「……それ、もうカビやキノコが生えるレベルだろ。矢髪さん、不潔過ぎだろ。かわいいのに勿体ない。確かにめっちゃ臭いな、この人。風呂に何日も入ってなさそうだ。不潔なおばさんだ……いっ、いてててぇ~っ!」

 突如、孝則の背中に激痛が――。

背後から何者かに攻撃されたようだ。

「矢髪さんは不潔ではありません! 矢髪さんの悪口は言わないで下さい」

 八重歯ちゃんは不機嫌そうな表情で主張する。この子が強力な魔法攻撃を仕掛けて来たようだ。

「ごっ、ごめんね。八重歯ちゃん。悪かったよ」

 孝則が謝った次の瞬間には、八重歯ちゃんは何事も無かったかのようににこにこ笑ってぴょんぴょん飛び跳ねて、金魚鉢の前に辿り着くと金魚に餌やりをし始めた。

「もう怒ってないのかな?」

 孝則は恐る恐る、八重歯の手の甲に触れてみる。

「早く一人前になりたいな。頑張らないと」

 収録されたボイスで反応され、

「さっきのは、バグかな?」

 孝則はハハッと笑う。今度は鼻に触れてみると、

「ファンタジーの世界に来るなんて、びっくりです」

 こんな反応が返って来て、

「やっぱ、バグに違いないよなぁ。あっ、八重歯ちゃんまた金魚に餌やりしてる。さっきやったばっかなのに。何度見てもかわいいな。妹に欲しい。俺より五つほど年上らしいけど」

 孝則は嫌われてないみたいで良かった、と安心した。

 このあと彼はルームから出て、里へ出かけて生産アイコンに触れ、またルームに戻って来た頃には一時間以上が経過していた。

「今度は眉香ちゃんにしてみるか」

ルームメンバーをあせちゃんからその子に変更し、うなじに三回触れてみる。

「なにべりべり剥いでるんですか? このカサブタども」

「体内旅行よりも先に、異世界に来ちゃいました♪」

「汚れるので触らないで下さい!」

 それぞれこんな反応をされ、

「確かにドSな子だな。でも良い子だと思う」

 孝則はわりと気に入ったようだ。

「俺がここで寝るには、誰か追い出さないといけないんだったな。誰も追い出したくないよ」


 そんなわけで彼は、今夜は元の世界に戻ってスマホ越しにルームの様子を眺めて、自分の部屋で寝ることにしたのだった。

「おう、サポートで借りたキャラのプレイヤーの人、全員フレになってくれてる」

 現実では一人もフレンドがいない彼にとって、このことも大きな喜びだった。

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