レウイシアのせい
~ 三月十六日(金) 五 ~
レウイシアの花言葉 熱い思慕
好きなのか、はたまた嫌いなのか。
いつからだろう、俺は考えることをやめた。
そんな幼馴染との微妙な距離感。
十五センチ。
遠くはなくて。
近くない。
暖かくはないのに。
冷たくもない。
俺との心の距離をそのまま表すのは。
左隣の。
誰も座っていない机。
鉢植えの中、ピンクのレウイシアだけが。
まるで穂咲のぱあっと咲く笑顔のように。
俺を見つめています。
……奇しくも、親子そろって同じ日に。
試験を受けているのです。
夢見る先も同じ。
お互いが、お互いを思いやって。
きっと一生懸命に。
素敵な未来へ向けて、頑張っていることでしょう。
ただ、どうやら穂咲はおばさんに内緒にしているようで。
ついさっき届いたおばさんからのメッセージ。
『ほっちゃんが返事くれないから実力の半分も出ない』
俺は、これに対する返事を。
書いては消して。
書いては消して。
書いては消して。
書いては消して。
……さんざん悩んだ挙句。
『穂咲も頑張ってるから。おばさんも頑張って』
これしか書くことができませんでした。
机に置いた携帯から、気持ちのたった一割も込めることのできなかったメッセージが黒に塗りつぶされると。
長く長く息を吐いて。
春の日差しに温められた天板に、自然と頬を沈めていました。
背筋を伸ばさないと。
しゃんとしないと。
そんな声がどこからか聞こえてきますけど。
あなたは、きっと知らないのでしょうね。
生まれた時に、隣へ添えられたものが。
自らの意志で、そこから旅立とうとしているのです。
応援したくもあり。
応援したくもなし。
そんな喪失感。
しゃんとなんて、できません。
横になりながら、穂咲の席を見つめていたら。
クラスのみんなが、周りに集まりはじめました。
「がんばれ」
誰かが言うと。
「がんばれ」
他のだれかの声も聞こえて。
そんな中、渡さんが俺の肩をたたいて。
……そのままぎゅっと握りしめて、そしてつぶやくのです。
「がんばれ」
それが、俺と穂咲、どちらへかけた言葉なのか。
俺にはよくわかりませんけれど。
でも。
――ずっと一緒だと思っていた。
だから、手をつないだ、温泉ののれんの前。
赤と青のちょうど真ん中で、二人、大きな声で泣き出したんだ。
ずっと一緒だと思っていた。
だから、手をつないだ、橋の飛び込み台。
あんなに飛び込みたがっていた君が、その望みを叶えることはできなかったんだ。
「……無粋だとは思うがな。教師として、お前たちに教えなければならんものがある。それは授業などより、はるかに大切なことだ」
そう先生が言うと。
授業中だというのに勝手に席を立ったみんなが。
何も言わず、ぞろぞろと廊下へ出ていきました。
残ったのは、席に着いたままの俺だけでした。
「……お前も、立ってるか?」
「いえ。ここから祈ってます」
いつもの、隣の席から。
祈っています。
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