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「シオン様、起床のお時間です」


コンコンと控え目なノックをする。けして、瞳子は中に入って無理やり起こすような事はしない。自主性を持たせたいためだ。



「はーい。ちょっと待っててください」



しかし、中から明るい声が聞こえてきた。今日はちょっと遅かったせいか、シオンは起きているようだ。

瞳子は、やってしまったと頭を抱える。仕事をこなせない事が一番瞳子にとって嫌なことなのだ。

だが、遅れたのがシオンで良かったと胸を撫で下ろす。

シオンは、この屋敷に居る、瞳子の主の1人だ。この屋敷は幾人かのシェアで成り立っている。そのシェアをしている1人がシオンである。




「ん。お待たせしました!…今日はいつもよりトーコさん、遅かったですね?何かあったんですか?」





ガチャンとドアを開けて出てきた青年。まさに好青年と言わんばかりの容姿だ。茶色のサラサラとした癖のない髪、クリクリしたエメラルド色の瞳。彼は人気のピアニストだ。彼に女性のファンが多いのは当たり前だと瞳子は思う。


裏表のない真っ直ぐな彼には、瞳子も心を開いていた。

先程の彼で良かったと言うのも、けして彼は他人を責めたりしないからだ。今のように心配さえしてくれる。




「いえ。シオン様が心配なさることは何もありません。しかし、遅れて申し訳ありませんでした」



「え?あ、全然謝らなくてもいい…ってトーコさん…」



「はい?」



急にシオンは眉を寄せて、トーコに顔を近づけた。瞳子もその急な行動にはついて行けず、目を点にした。



「…やっぱり、顔色悪いですよ?体調悪いんじゃ…?」



そっと瞳子の頬に手を翳す。

その動作はさも自然な流れのように行われた。

瞳子はくすぐったくて、ピクッと肩を震わす。


「っ…、いえ、本当に何も…。あのっ、それより…この…」



「へっ!?あ、ああああ!!ご、ごめん!!いや、俺何やってんだろ、はははっ!!」



手をと言おうとしたが、その前にシオンが慌てて離してしまった。ブンブンと手を顔の前で振りまくっている。

なんというか、挙動不審。



「あの、全然、大丈夫ですけど。ただ…、驚いてしまって…」



瞳子がぼそっとそう言うと、シオンはパタリと動くのを止めた。

しかし、気まずい。





「…………」



「…………」



沈黙。二人とも俯いて沈黙。

どうしたらいいのか、

どうすればいいのか。




「二人して、顔赤くして何やってんの?朝っぱらから」

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