3

瞳子は動きにくいメイド服を物ともせず、走った。



どうして


どうして


どうして

あんな事を仰ったのだろう

どうして

あんな顔をされたのだろう





どうしてあんな眼で自分を見つめたのだろうか―――?

と混乱した頭では同じことを自問するしかない。




「どうしてっ…?」



瞳子は適当に選別した部屋に勢いよく入り込み、すぐさまドアを背にしてへたり込む。

その目には涙が溜まっていた。



瞳子が今まであんなアルフレッドの顔を見るのは初めてだった。それを向けているのが、自身にだと言うことが不思議でならなかった。





まだ、彼女の心臓は燃えるように熱い。まるで体中が脈を打っているみたいだった。よく、自分は気丈でいられたと誉めてやりたい位に、今の自分はおかしいと瞳子は感じていた。



瞳子の頭にはアルフレッドの表情が焼き付いて離れなかった。ましてや、勘違いをしてしまいそうだった。

愚かで馬鹿な勘違いを。


もし、アルフレッドが自身の気持ちを知っていてああいった行動にでたのだとしたらと瞳子は眉をしかめた。



「たちが悪いわ…。アルフレッドさま…」



瞳子はそんな事…、あってたまるかと自責した。

有り得ないのだ。彼にはたくさんの女の人が居る。


瞳子は前にアルフレッドが言っていた事を覚えていた。



彼はアルフレッドは言った。

特別は作らない。作っても、いつか喪うからと。




《大切って何?大事って何?…それもどうせ僕から離れていくものだろう?》



瞳子は、突然頭の中に流れた懐かしい声と言葉に思わず、はっ、と抱えていた頭を起こす。


今のは――。



幼い、艶やかな黒髪を持った少年が瞳子の脳裏に浮かんだ。その彼が綺麗なテノールを醸し出して言った温度の伝わらない言葉。


忘れたいと思ってもけして忘れる事など出来ない存在

《神緯》だ。


何故、今更思い出したのだろう。彼と彼の目が似ていたがらだろうかと頭を傾げた。

そう言ったときの二人の目が似ていたのだろうか。



気付けば、胸の高鳴りが収まっていることに瞳子は気づいた。頭も随分、冷静になった気がした。



「…そうだわ。シオン様を起こしに行かなくては…」



腕時計を見ると、短針は8を指している。遅いくらいだった。ドアを伝って、立ち上がる。

まだ、足が笑っていて上手く歩けない。

瞳子は自嘲気味に笑い、一歩ずつ長い廊下を歩いていった。

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