005

ベルを追いかけるように走っていくと校舎からでてしまったようだ。今は、昼休みだから生徒がチラホラと外のベンチでお弁当を食べたりおしゃべりをしている。ここの高校は学園食堂が用意されているのでそこで食事をとる生徒が大半なのだが、先生や用務員などの人も集まるので正直居心地も悪く、あえて外で食べたりなんてことはよくある風景だ。誰だってご飯時間まで先生と顔を合わせたいとは思わないしね。

「ベルのやつ・・・どこにいったんだ?」

見失ってしまったようだ。さっきもそうだが、一度意識から外れてしまうとベルの姿っていうのはどうやって探せばいいのだろうか?しまったなぁ、さっき聞いておくべきだったな。

呆然と立ち尽くしていると・・・

「あれ?結城じゃん。昼に外へでてくるなんて珍しいな。」

軽い調子で話しかけてくるのは同じクラスの深山 徹(みやま とおる)だ。

「いや、ちょっと人を探してて・・・」

あ、しまったな。別に適当にあしらえば良かったのに、急に声を掛けられたもんだからつい言ってしまった。

「人探し?そうかそうか、結城にしては、ほんと珍しいなぁ。お前っていっつもぼーっと教室にいるからそんなイメージねぇわ」

「そ、そうかな。」

確かに僕はクラスにこれといって仲良くする人がいるわけではなく、一人でいることが多い。それが寂しいと思うことはないのだが、飯田にしても周りはなにげに僕のことを見てくれているもんなんだな。

「で?誰を探してんの?」

妙にグイグイくるなぁ・・・深山はクラスでもよく騒ぐキャラで見た目も派手で女子受けもいい。僕としてはできるだけ関わりたくないタイプだ。ここでなにかと言えばクラスにも広がりかねないし。

「いや、別にそこまで必死に探してるわけじゃな・・・」

「オーケーオーケー。わかってるって。俺はちゃんと見てたぜ。」

僕の話を聞く気はないようだ。それにしても見てたって・・・まさか、見えていた!?

「見て・・・た?」

「あそこの角を曲がった先のベンチにいるから、ほら!いってこいよ!!」

バンっと背中を押しだされる。深山はイエーみたいなポーズで僕を送り出した。・・・あいつってどんなキャラなんだよ。ひとまずは行ってみるか・・・。深山みたいなやつにベルの姿を察知する能力があるとは思えないし、どうせ誰かと勘違いしているんだろうから期待はしていないが。角を曲がって・・・先のベンチは・・・。

「あれ?結城くん。珍しいね、外でお昼なの?」

いたのは飯田だった。まぁ、期待はしてなかったがそれにしても飯田か。あいつは何を見たって・・・。

「あ、うん。たまには外で食べるのも悪くないかなって・・・ね。ていうかあれ?ひとり?」

確かさっき教室で友達っぽいのとお昼ご飯にって教室から出ていっていたような気が・・・。

「あー、うん。そうなんだ。なんだか用ができたみたいでどっかいっちゃったみたい。」

あれ?なにかあったのかな?どことなく無理をしてそうな・・・?

「そっか・・・えーっと・・・」

「結城くん、良かったら一緒にご飯食べない?隣空いてるよ?」

せっかくの誘いなんだけど、ベルを探さなきゃ・・・とは思うんだけど、なんとなく飯田のことが気になるな。

「あ、じゃぁ・・・おじゃまします」

「はい、どうぞ」

飯田はいつもの笑顔になっている。ちょっと気になったからといって『なんかあった?』なんて気軽には聞けないよなぁ。飯田はある意味孤立している僕に対して積極的に話しかけてクラスへと馴染ませようとしてくれている優しい子だ。だけど、きっとそれは委員長としての責務があってのことだろうし、必要以上に飯田の内情に深入りするのも余計なお世話になるのだろうか。

「あれ?結城くん、お弁当は?」

しまった・・・慌ててベルを追いかけたから教室に置きっぱなしだ。

「・・・あー、そうだった、教室に置いてきたみたいだなぁ、取りにいってこようかな」

「えー、せっかくきたのに・・・そうだ。私のお弁当を分けてあげようか?今から取りにいっても食べる時間だってそんなにないし。」

「あ、いや、悪いからいいよ。」

「えー、じゃぁ、はい。せめておにぎりくらいは食べてよ。委員長命令よ。」

女の子に恥はかかせるもんじゃないよな。せっかくのご厚意はありがたく頂いておこうか・・・。ご厚意・・・か。僕は家庭が崩壊したあと、たくさんの人から厚意とも言えない差別や同情を受けてきた。なにを言ったってどうせ見下して、見下ろして、上から施しでも与えるかのように優越感に浸りたいがために声を掛けてきているとずっと思っていた。いつからだろうか、素直に厚意と思えるようになったのは・・・。

「ありがとう。飯田さん。」

そう言って、飯田のおにぎりを食べる。

「あ、美味しい。これって飯田が自分で作ってるの?」

「そうよぉ。結城くんは女の子からの手作り料理なんて食べたことないんでしょ。感謝してよね。」

「はいはい、ありがとうございます。委員長。」

「だから、委員長はやめてって、もう」

「ははは・・・」

まるでいちゃつく恋人かのような会話をしたあと、飯田は午後からの授業準備があると言って校舎へ入っていった。結局、友達と何かあったのかは聞けずじまいで・・・。おにぎりの礼もあるし、今度聞いてみるか・・・。

「お前はいちゃいちゃと何をやっているんだ、まったく」

ベルが背後から耳元で囁く・・・。僕は驚きうわっと立ち上がり身構えた。

「ベル、やめてくれ。心臓に悪いよ。」

「まったく、お前は。ついてきているかと思えばまたあの人間といちゃいちゃとして」

「いちゃいちゃなんてしてないだろ。・・・ただ、まぁ、ご飯を分けてもらってただけだよ。」

「ほうほう、食事かぁ。ワタシもそろそろ食事といきたいところだったんだ。お前様よ、魔素を喰わせてもらおうかな?」

ゲ・・・やばい。ベルはなんだかイライラした様子で近づいてくる。これから午後の授業があるのにあんな脱力感に襲われたら授業に出られないだろう。

「ちょ・・ちょっとまって。今はまずいって、ちゃんと家に帰ったらあげるから、な?」

「うるさいうるさい。今だ、今喰いたいんだ。じっとしてろ」

これは何を言っても無駄か・・・。ならば、いっそ逃げるか。・・・なんて思う間にベルは僕の背後へ回り、首元に軽く噛みついた。

「あ・・・」

ベルが噛みついた瞬間から体中にエネルギーが満ち溢れてくるのを感じる。体の中心からマグマでも噴きあふれるような衝撃と熱が全身へと広がる。一体どうしたんだ?

「ほれわ、ふぁたしが、ひょうへいてきに、まほくを・・・」

「ベル、なにいってるのかわかんないって。」

キーンと耳鳴りがする。あれ?なにか見えるぞ!?目を開けているはずなのに目の前の景色に重なるように半透明で違う映像が見えている。

「ベル!なんかおかしいよ、変な映像が見えるんだ。なにかやってるのか」

「へをふむってひろ」

そういって、ベルは僕の目を手で覆い隠す。すると半透明だった映像が鮮明に見える・・・。そこに映っているのは!!

見慣れない男が飯田になにかを言っている映像だ。罵倒しているのか!?飯田の両肩を掴んでなにかを叫んでいるようだ。飯田は・・・?

・・・泣いている!?。飯田になにをしているんだ、あの男は。あ、こっちを向きそうだ・・・顔を・・・見て・・・。

さっきまでエネルギーに満ち溢れてきていた体が急変しだした。体中が毒素にでも蝕まれたような気持ちの悪さ・・・痛み・・・。

「ベ・・・ル?」

なんとかしてベルのほうへ振り向くといつものようにクククっと笑っている。

「どうだ!?苦しいか?ワタシが今、楽にしてやるからな」

妖艶な口調で僕の手を取り、手に口づけをする。そうだ、これはベルの食事だ。体中に溜まった魔素をまるで吸血するかのように吸い上げる。体中の気持ち悪さが一転して快感が襲ってくる。そして、僕はその快感に身を任せながら気を失ってしまった。

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