003

ピンポーン・・・

ベルは興味津々で玄関のほうへ走っていく。いやいや、まずいでしょ。とりあえず止めなくては。

「ベル、ちょっと待って・・・」

そんな声もむなしくベルはあっさりと鍵を開けてしまった。

「なんだ、まだそんな格好をしているのか?学校にはいくんだろう。大丈夫なのか?」

現れたのは僕の叔父さんだ。僕は家庭のできごとから叔父家族へと引き取られてこの街にやってきた。しばらくは叔父の家に住まわせてもらっていたんだけど、とにかく一人になりたかった僕は無理を言って高校に入学後この部屋を借りて住んでいる。だけど、後見人というか保護者という立場から叔父さんは定期的に僕の様子を見に来るのだ。

「あ・・・叔父・・・さん。」

当然ながら迷惑を掛けないように真面目にしっかりと生活をしていくことを条件に別で住まわせてもらっているのだから、突然知らない女の子を部屋に連れ込んでいるなんて知られたらどうなるのかは明白だ。実際には連れ込んでいるわけではないにしてもそう見えてしまったら同じことだし。

「タクト・・・お前・・・」

「あ、いや、これは・・・。」

叔父さんは明らかにベルの姿を見ている・・・・・・見ているのか?

「部屋も散らかしたままでちゃんとやっているのか?学校から帰ったら掃除して綺麗にするんだぞ。」

「え?あ・・・部屋?ああ、はい、もちろんです。昨日はちょっとごたごたしていたもので・・・。」

気づいていない!?というか視界に入っていないのか?そんなはずはない。今も僕の横でベルはなんだか変なポーズを取って遊んでいる。叔父さんの目はベルというよりは奥の部屋を見ているようだ。

「そうだ、ほら。うちの陽子から弁当だ。毎日コンビニの弁当じゃ栄養も偏るだろうと・・・」

「あ、ありがとうございます。頂きます。」

叔父さんはぶっきらぼうに弁当を僕へと寄こす。僕は叔父さんには良く思われていないだろう。せっかく引き取ってくれたのに拒絶するかのように一人暮らしを始めたんだから当然だ。

「それと・・・ほら・・・、あれだ。たまには家に帰ってこい。葵も会いたがってるし・・・な。」

「あ、はい・・・。じゃぁ、その内に寄らせてもらいます。」

またな。と叔父さんは行ってしまった。なんだろう・・・叔父さんがずいぶんと丸くなったような気がする。僕が一人暮らしを始めた当初なんてあれはどうだとかこれはこうだとか文句がすごかったんだけどな。というか・・・あれ!?

ベルに気づかなかった!?いやいやそんなはずないよな。こんな真横で動いているんだから・・・。それともスルーしたのか?あまりに驚いて困った挙句、とりあえず見なかったことにした的な・・・。そのせいで逆に僕への当たりが柔らかくなったパターン!?

「お前よ、どうだ?」

ベルが自信満々に言う。やっぱりさっきなにかをしたことで叔父さんがベルに気づかなかったんだろう。

「ベル・・・なにをしたんだ?」

満面の笑みを浮かべながらクククっといつものように笑う。まるで講釈でもするかのようにコホンと喉を鳴らし言う。

「これはな、初歩の術式で・・・そうだなぁ、簡単に言うと意識のチャンネルをずらすといった感じかな?」

「意識の・・・チャンネル・・・?」

「ラジオってあるだろう。あれは周波数を合わせないと声は聞こえてこないだろう?周波数を変えただけでまったく聞こえなくなる・・・まぁ、それの意識版って感じかな。」

なるほど。要するに通常僕たちが感じて、見て、聞いている意識の外側に入るっていうことか。見えているんだけど意識していないから気づけない。だとしたら現実そこに姿はあるんだからその姿の奥はどうやって見えているんだろうか?

「でも、僕からは普通に見えてるんだけど?」

「ああ、これは意識から外す法だからすでにそこにいるって認識している者にはまったく効果はないんだよ。あとは触られたり・・・その者がそこにいるって自覚をしたら効果がなくなるかな」

「そうなんだ・・・それにしても触れられたりしない限りばれないなんてすごい法だね。なんでそれが初歩なのか・・・。」

「もちろん、まったく意識されなければすごい法かもしれないが、いった通り自覚をされてしまうと効果をなさないというところが弱点になる。」

「???」

ベルが食い気味に言ってきて、ん?わからないのか?的な顔で僕に圧を掛けてくる。お前は学校のイヤミな先生か!

「わからないのか?お前の世界にもいるだろう?心霊や霊感というのに敏感な人間が・・・」

「あ!?なるほど!!」

「わかったか・・・そういった類の者にはまったく効かない。さらに言えば雨や砂などの物質が当った場合もその場にいることがわかってしまうから効果がなくなることが多い。」

「だから初歩なのか・・・」

「まぁ、その分エネルギー消費もかなり少ないし、今のワタシでも1ヶ月以上持続できるぐらいエコな法だ。」

エコ・・・ね。それなら僕が使ってもすぐにへばったりしなそうだな。時間があればぜひとも教わりたいものだな・・・。って時間!?

「そうだ!!学校!!!いかなきゃ!!!」

「お前よ、付いていっていいんだよな?」

ここぞとばかりにベルは僕にまとわりついてくる。支度が思うように進まない。

「わかった、わかったよ。だから早く学校にーー」

バタバタと支度を済ませて学校まで全速ダッシュでギリギリ遅刻は免れたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る