第17話 トウキョウデ アッタコト

 それは、ボクが女性化してから半年……、高校に通い始めたばかりの頃、でさ。


 クラスメイトに頼まれて、放課後、教室で片付けをしてたら、突然、5人位、男子が入ってきて。


「おい、おめー、発情してんだろ?」「な、遊んでやるよ」

「オラッ! こっち来いよっ!」「あばれんなこらッ!」「押さえつけろっ!」


「やだっ! いやだっ! やあああっ!!」 


 馴れ馴れしく話しかけてきたかと思ったら、襲い掛かってきて。


 そのとき、教室は、もちろん、廊下にも他に、人の気配はなくて。


 髪の毛や腕、服を強引に引っ張られて、身体を触られて、唇……まで。


「やああああああああああああああああっっっ!」


 ゴッ!


 ただ、ただ、必死だった。

 蹴り上げて、突き飛ばして、かわして、投げて、駆け出して。

 あのときほど、綺麗に一本背負い決めたの、中学の授業でもなかったと思う。


「がはっ」「いでえええええっ」「っ、こらっ、こいつっ!」

「あばばばばばっ?!」「邪魔だろ……ッ、……このっ!!」


 そいつら、人数が多いせいか、躓いたりしたみたいで、……あっという間に、逃げ切ることができたんだけど。

 もちろん、……家に、たどり着くまで、怖いどころじゃなかった。


 何だか、待ち伏せされてるんじゃないか、って、気がして。

 商店街の交番前で、母さんに電話して、父さんと一緒に迎えに来てもらって。


「……ううっ、うううっ……、うっ……ううっ……」


 家に戻ってからも、震えがぶり返してきて。

 何だか、涙も、止まんなくて。


 無事だったのに、ね、ほんと。


 結局、……2週間、学校、休んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『肉便器!』『ヘンタイ!』『男漁りするカマ!』『犯罪者!』『堕胎終わった?』


「……、……、……ッ?」


 母さんに、付き添われて、……登校したその日に。

 ボクの机にたくさん、文字が刻まれてた。


「……っ?!」


 周りを見回したら、……みんな、目を逸らすんだ。

 男子も、女子も……。


「へーっ、レイプされたんだっけ? それとも、男漁りしてたんだっけ?

 どっちにしても、よく出てこれるものだよね?」

「ほんとにねーっ」


 廊下から、そんな声が聞こえて。

 ……見たら、……たくさん、人がいっぱい廊下にいて。


「……、……、……っ!?」


 その中に、ボクを襲った男子もいて、嫌な目線でこっち見てて。


「……ゆーと、……どした? ……って、な、……これ!?」


 母さんが来たときの後のことは覚えてない。

 母さんがいうには、……気を失ったって。

 ほんと、……心が弱っちいよね、……ボク。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ボクにも、問題があったんだと思う。

 女性化してからは、ずっと、……男子も、女子も、怖くて。


「なあ、ゆーと、……誰か、友達作ったらどうなんだ?」


「いーよ、……関西の大学行って、けーごとまた一緒にやるもん。

 それまで、勉強しっかりするだけ。

 学校って、勉強する場所だから、それでいいでしょ?」


「……はー、何だかねえ」


 母さんに言われたとおり、友だちを作ってたら。

 あんな光景、見なくて、よかったかもって、思う


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……、……、……ぐすっ」


 それから、ずっと何ヶ月も家に篭ってた。


「ゆーと、……また、けーごくんの写真見てんの?」


「……、……、……」


 何してたかって? ……泣いてた、それだけだよ。


「……、……、……けーご」


「……別に、ダメだとは言わないけどさ」


「……、……、……戻りたい、よ。

 昔に、戻りたいよお……」


「……あー」


 それでさ、……まあ、母さんがね。


 遠くに知り合いが、ほら、入沢先生?


 いるっていうから。


 そこの学校に、行けって。


 た、たまたまだよ、けーごがいるって知ったのは!


 そんで、懐かしくて、その……つい、甘えちゃっただけで、その。


 ……だから、……その、……、……その。


 ……けーご、……ごめん、……頼っちゃっ、……て。

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