第16話 お前ら ヤッてただろ?(溜息)

  放課後-


「昨日、お前ら、ヤッてただろ?」


「……っ?!」「……、……、……」


 改めて職員室に訪れた後、通された「進路指導室」にて。

 入沢先生から溜息混じりに言われた「その一言」に。

 ゆーとは慌てふためき、俺はやっぱりバレてたかと、軽く天を仰いだ。


 ま、そもそも保護者だもんな、気づいてもおかしくない。


「……はい」「……あうっ?!」


 何で話しちゃうの?と、ゆーとが驚いた表情で見上げてくるので、先生、わかってると思うぞ、と、小さく返す。


「……はい」


 そして、ゆーとも消え入りそうな声で認め、……俯く。


 数秒の間を置いて、


「あ、……あ、あのっ、わ、悪いの、全部、ボクでっ! けーごは、何も!」


「セックスしたことを責める気はない」


「ですからっ! ボクが、そのっ……、全部、悪……ふえ?」


 青ざめながらも、必死に弁護していたゆーとの動きが止まる。


「TS病の発情発作、過去に何度か見てるしな」


 ようやく、許されたとわかって安堵したのか、脱力したように、ぺたん、と座り込むゆーと。

 先生は、それを一瞥した後、俺の方を見て、ふん、と小さく苦笑する。


「ま、大北は、わかってましたって顔だが?」


「保護者なら、知ってて当然。

 それに、でもなきゃ、あんなウソ必要ないかな、と思ってたもんで」


「まあ、そういうこった」


「……え、……と、……えっ?」


 いまいちよくわかってない様子でゆーとが首を傾げる。


「ほら、俺達がどんな仲良くしてても、1日デートしたからだよね、とさか。

 万一セックスバレしても、1日デートの末にあったなら仕方ない、とかさ」


「転校初日から一日篭ってセックスしてた、と疑われるよりはマシだわな?」


「……っ? そ、それ、は……、……その」


 先生に改めて断言されて、……ゆーとが、顔を真赤にして、消え入りそうな声で、ぼそぼそ呟きながら、俯いてしまう。

 慰めてやりたいけれど、……今は、わりぃ、先生にまず訊くことがある。


「そこまで話してもらった上で聞きますが……。

 俺達に、……どうしろと? 別れろ? それとも?」


「……っ?」


 俺が発した言葉に、ゆーとが今にも死にそうな顔で涙を浮かべて、振り返る。

 対し、先生が浮かべたのは、苦笑だった。


「バーカ、んなこというかよ、むしろ、どんどんセックスしろ!」


「……は?」「ふぇっ?」


 これは、……予想外だった。


「ぶっ、くはははっ、おう、これは驚いたみたいだな?」


 俺たち2人の反応を見て、カラリとした口調で、入沢先生が大笑いする。


「何で、一体……?」「……あ、あのっ?」


 い、いや、何を言い出すんだ、この人はっ?


「ああ、いっとくが、からかってるわけじゃねーぞ」


 念を押すように、先生が指を突きつけてくる。


「その代わり、大北、オマエ、四六時中、ゆーとについててやれ」


 腕組みしながら、入沢先生がじっとこちらを見てくる。

 四六時中? 学校は、もちろん、自宅で、も?


 こっちの心を読んだかのように、先生が改めて頷く。


「俺としては、嬉しいですが、何で……そんなことを?」


「今、九十九は、大北がずっと傍にいてやる必要がある、そう判断しただけだ」


「ゆーとに、……俺が?」


 わけが、わからない。


「理由は、九十九に聞け」


「……、……その、……え、と」


 先生の視線につられて、ゆーとを見ると、うつむき、涙を浮かべながら、何か、を言おうとしていた。


 ただ、尋常じゃなく、顔が真っ青で、……胸を押さえて、苦しげに震えてんだが?


 先生もさすがにぎょっとした様子で。


「い、いや、今すぐじゃなくも、だなっ!

 ……家に帰ってから、二人きりのときでっ!」


 無理すんなといおうとした先生の言葉を遮って、……ゆーとがぼつりという。


「レイプ、……されかけた」


「え……?」


「東京の学校で、……複数の男子に、襲われ、て」


「……なっ? ……!!」


「逃げたん、だよ……? だからっ、ボク、処女だった、よね?」


 震えて、しがみつき、必死に訴えかけてくるゆーと。


 その告白は、突然過ぎて。

 

 俺は、うまい言葉も掛けられず、ただ、両手を回し、その身体を、ぎゅっと抱きしめてやることしかできない。


「ボク、……逃げたんだよ? 服、破かれたけど、触られたけど、逃げられたんだよ? なのに、何で、……何でっ、学校中……で、あんな……っ!!」


 涙と鼻水で、……その後は、言葉にならず、何故か俺の胸板をボカボカ叩くゆーとを見て……。


「今日は車で送ってやるから、続きは家で話せ」


 せかせすぎたか、と、小さく頭を振る先生の言葉に、俺は、甘えることにした。

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