第6話 登場! ・・・誰?

 いろいろ悶々としながらも、午後の授業も問題なく進み。

 放課後、クラスメイトたちからチラチラ視線を感じるその中で。


 このまま、何もいわず帰ったら、ゆーとは、また、ボッチ一直線か? とか。

 さて、どうしたもんかなー とか。


 悩んでた、その時だった。


「ちょっと、いい?」


 腰まで黒髪を伸ばした、"いかにも"和風な美少女だった。

 それがつかつかと教室に入ってきた。


 ただ、何故か、ブレザーでなく学ランを来ていて、酷い半眼で。

 また、何故か、その手元には、


「ぐえ……」


 首根っこを押さえつけられたチャラ男が一人、引き摺られていた。


「……???」

「……え、俺、達?」


 学ランの美少女は、コクリと頷くと、チャラ男を無造作に引き寄せると、その腰ポケットをまさぐり。


「あふんっ」

稲田いなだ、変な声、出さない」


 スマホを、取り出すと、軽くいじってからポン、と突き出してきた。


「これ、……覚え、ある?」

「……???」

「……え、俺、達?」


 別に、コピペミスではない。

 そのスマホに移っていたのは、……人気のない階段でゆーとを抱きしめる俺の写真だった。


「……、……、……」

「……、……、……」


 い、いや、そ、そんなに、いかがわしいことしてたわじゃないけどさっ?

 な、何で、……こんな、写真が。

 俺も、ゆーとも、絶句して、二の句を告げずにいると。


「いいじゃんかよおっ、お涙頂戴ものの、いい話なんだぜ? おっと、ここでは仔細を控えるけどさ。きっとみんなもこの二人も喜ぶ結果にしてよぉ、がはあっ?!」

「自分の情報どうするか、決めるのは、この二人」

「あだだっ、あだだだだだだあっ?!!!」


 学ラン美少女が、チャラ男の鼻を摘み、キリキリキリキリひねるのが見える。


「あー……」「まーたあの二人かー…」「……あー」


 クラスメイトの一部から、生暖かい声と視線がこの二人に注がれている。


「あの、……誰なの、あんたら?」

「……、……、……」(こくこく)


 俺の問いかけに……。

 ゆーとは、俺の右腕に隠れてしがみつくようにして、こくこく頷き。


 ああ、カワイイなあ、こいつ、いやそれは、とりあえずさておき。


 おほん。俺の問いかけに、学ラン美少女は、改めて振り返ると、わずかに目をつぶり、そして、開き、……答えた。


「3年A組 長谷川はせがわ 妙子たえこよ」

「ちゅーっす、オレは、3年C組 稲田いなだ 慶次郎けいじろう真剣部しんけんぶ 部長だっ! けいちゃんって呼んで、あだだだだだだだだだだっ?」

「反省が足りない」


 そして、はいはーい♪と手を上げ挨拶するチャラ男-稲田先輩は、再び、学ラン美少女-長谷川先輩に鼻頭をコックされていた。

 ……何なの、この夫婦漫才。


「そもそも一体、……写真これで、何をしようと?」

「えっと、真剣部……、って?」


 あ、ゆーと、その言葉に食いついたか。

 まあ、俺も気にはなってたけどさ、その中二病丸出しの部活名。

 鼻を摘まれながら、稲田先輩が背を反らす。


「ふへべ、よくいへくれだ。 ぞれは、真実じんじづ追求づいぎゅうずるだばじび部活ぶべべ名前だばべ……」

「壁新聞部よ」

「その"蔑称"はやめろおおおおおおおおおおおおっ!」


 チャラ男さんが膝から崩れ落ち、両手を床につき、慟哭を上げる。

 てか、……"壁新聞"部?


「印刷不要のエコ新聞なんだぞ、コンチキショー!」

「ウソはいってない」

「……ってことは、つまり、……俺たちを壁新聞の、ネタに?」


 ゆーとが不安げにびくっと背後で震える。

 あ、ちょっと、イラッて来た。


「い、……いや、待て、待て。

 オレは、こう見えても、洒落にならないネタは扱わない、…‥ぞ?」


 俺がよほどキツイ表情してたんだろう。

 稲田先輩があわわと顔を真っ青にして慌てふためく。

 睨んだだけで女子を泣かせた経歴のある俺の形相は、折り紙付きだ。


 そんな俺たちを傍で見ていた長谷川先輩が、無造作に稲田先輩の鼻を再び摘んだ。


「消しなさい」

「……はびッズ、妙子ざん」


 俺に睨まれ、長谷川先輩に鼻を摘まれ、泣く泣く写真を消す稲田先輩。


「ごめんなさい、お騒がせしたわ」

「……ごめんなー?」


 再び、稲田先輩の首根っこ掴んで引き摺りながら、出て行く長谷川先輩。


「何だったんだ……、あれ?」

「……、……、……」(こくこく)


 唖然と見送る俺とゆーと。そして。


「まあ、悪い人たちじゃないんだけどねー、ちょっと変わってる、っていうか。 あ、私、陽子ようこね?」「わ、私は、青羽あおばよ!」「おう! 俺は、大和やまとじゃ!」「私はっ、私はっ!」「俺はっ、俺はっ!」


 様子を見ていたクラスメイトたちが、我先にと、俺と……というか、主にゆーとに話しかけてくる。


「あ……、うんっ、そ、そうだったんだ? えっと、うん、へ、へえ~……」

「そうそう、それでさそれでさ」「こんなこともあったわよねー」「うんうん」

「……そなの?」「うんうん、それでもうほんと」「そうそう」


 あー……何か、ずっと、俺、このカワイイ美少女、独占してたもんな。

 そら、みんなも、色々、話したかったよな。

 そんなことを考えながら、俺は、俺の腕に必死にしがみつきながら、何とかみんなと会話を交わしていくゆーとを、横目で、微笑ましげに見つめたのだった。


 脳の処理能力をオーバーして、きゅう、と悲鳴を上げるその時まで。

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